1086.強制彼岸越え
今、ありのまま起こったことを言うぜ?
俺もまだ何が起こったのか理解できてねぇんだ。
だから、教えてくれ、これ、どんな状況?
地蔵を触って地獄行きを選択した。
次の瞬間賽の河原っぽい場所に転移して、目の前には白い褌一丁のほねばったお爺さんが一人。
乾布摩擦中らしく、白い布で背中をこすりつつ、俺たちを見て目を見開いて硬直。
今、ココ。である。
「おまいさんら今どっから出て来た? 儂の見間違いでなければ突然ここにおった気がするんじゃが」
「あー、すいません。地蔵触って地獄に来たんすけど、ここどこら辺すか?」
「見てわかるじゃろ。三途の川じゃ。とはいえ、普通は彼岸の方から来るんじゃぞ。ほれ、向こう岸から川を渡って来るのが通例なんじゃ。儂はここで死者たちの衣類を衣領樹に掛けての、生前の罪の重さを量るんじゃ」
「お、ってことは爺さんは懸衣翁か」
「ほぉ、よぉ知っとるのぅ」
この乾布摩擦して暇そうにしてるのが、懸衣翁。仕事しねぇの?
「奪衣婆も懸衣翁も沢山おるしのぅ。儂のとこにゃほとんどこんのじゃ。川を渡ってくるのは基本あの辺りじゃし、こんな端っこには滅多に来んわい」
言われてみれば、亡者の群れが渡ってる場所は爺さんたちがせわしなく動いてるのがこっからも見える。
「じゃー、せっかくだしいろいろお聞きしても?」
「地獄についてじゃな。ええぞええぞ、どうせ暇じゃし。ジジイが話に付き合うちゃるわい」
閻魔大王さーん、このジジイ職務放棄してますよー。
「……という訳で、ここに来たわけです」
自分たちが弥勒菩薩に依頼されて来たことを告げると、おじいちゃんはすっごく楽しそうにほっほーう。とハッスルする。
どうでもいいけど上半身裸のままで大丈夫? 風邪引かない?
「なるほどのぅ。まさか弥勒ちゃんの依頼で生者が来るとはのぅ。ええか、地獄内では服を亡者用の服に着替えたりは絶対にしてはならん。服を着たが最後、亡者の仲間入りとなりそのまま裁判を受けることになる。地獄に縛り付けられるから出られなくなるんじゃ」
「めっちゃヤバいじゃん!?」
「とはいえ、基本そういうの着かえさせるのは奪衣婆の仕事なんじゃがのぅ。お前さんら向こう岸飛ばしてすでに地獄入国しとるから大丈夫じゃろ」
「そうなんすか」
「うむ。地獄内だと亡者は死ぬことはないからの。ここで敵を作ると面倒じゃぞ。出来るだけ手早く目的地に向かって目的を終えたら地獄から抜け出すことじゃ。生者だと分かれば確実に殺しに来るじゃろうしな」
「旦那様。やっぱり私一緒に居ましょうか?」
「んー。いや。大丈夫。あんまりコトリさんに頼り切り過ぎると依存しちゃうしな。コトリバコも沢山あるし、コトリさんの呪詛防壁もあるから、今回は帰りを待っててくれるかな?」
「旦那様……ご立派にございます」
泣く程のことかな?
コトリさんたちは入国が済んでいると分かったことでここまでのようだ。
さすがにお爺ちゃんとずっと話してるわけにもいかないので、俺たちは先へ進むことにした。
一応、お爺ちゃんから紹介状を貰ったので、これを十王の誰かに見せればいいらしい。
「それじゃー、私たちは家帰ってるね。ふぁ、眠い」
ローリィさんはこのまま地獄の底まで連れてってやろうか?
「では旦那様。行ってらっしゃいませ」
「うん、皆、行ってくる!」
コトリさんたちに見送られ、俺たちは地獄の平野を歩き出す。
こうして歩いてみると、地獄とか言われても普通の地面だよね。
整地されてるし結構歩きやすい。
「でもヒロキさん。これ、多分亡者たちは裸足で歩くんですよね」
あー、確かに。
そうなると確かに整地されてても歩きづらいか。
南アフリカとかだったら裸足で駆けたりしてるから足の裏厚くなって痛くもなくなるんだろうけど、一般的日本人だとまさしく地獄の道だな。
「んでヒロキ、目的地はなんだっけ?」
「えーっと。なんだっけ? 叫喚地獄にある分別苦処だったかな」
「それってどこにあるの?」
「さすがにわからん。未知なるモノさん分かる?」
「この世界の地獄なんざ初に決まってんだろ。とりあえず何とか王の場所に行こうぜ」
「王様、相撲とかするべかな?」
そういやネネコさん連れて来てたな。河童の彼女連れてきて良かったんだろうか? 明らかに人選ミスった気がする。
「相撲とか、どうでもいい。お兄ちゃん、暇だから何かない? ここマイノグーラいないから首も引っこ抜けないの」
ブキミちゃんから無茶振りが来た。
なんでそんな無茶振りしてくんのさ。
さすがに俺も暇潰しなんて出来ないぞ。
「あー、じゃあ案内人君、案内よろしく」
「えぇ!? えーっと。これから向かうのは秦広王のいる審理場で、初七日の人が受ける審理になります。死んでから六日後に受ける審判で……」
いや、普通に案内できるんかい!?




