1081.訓練場の大天使
「お邪魔しまーす」
図書館を後にした俺たちは、訓練場へとやってきた。
ラドゥエリエルさんが協力してくれるそうなので、俺たちは他の大天使たちに話を聞きに行きなさい、と言われたのだ。アクニエル周辺の捜査はラドゥエリエルさんの部下がやってくれるらしい。
「おう、下界のモノたちか。ここは俺が監修している訓練場だ。悪魔共と戦うために軍の訓練をしている。俺が天使軍の軍団長を務めるサンダルフォンだ。よろしく」
どっかで聞いたことある天使の名前のガチムチお兄さんが親指で自分を指さし、がははと笑う。
なんというか、暑苦しそうな天使だ。眉毛も濃ゆいしどっかの格ゲーキャラだと言われてもおかしくないくらいに戦闘体型と呼べる体つきだった。
「あん? なんか空気揺らいでんな? そこ誰かいんだろ。って、ヴレヴェイルじゃねぇか、ンだ? 不正なんざしてねぇぞ?」
「貴方の記録はしておりませんので」
「あー、すまんサンダルフォン理由はいいからこいつの話聞いてくれないか?」
「ん? もう一人隠れてんのか? あのなぁ、さすがに姿も見せずに話聞けってのは礼儀が……ああまぁ話をするのはそっちの少年か。で、なんだ少年。この軍団長サンダルフォンに何の用だね」
「あ、はい、実はアクニエルという天使に関して情報を集めてまして」
一から説明するのを繰り返していたおかげか、要点掻い摘んで手早く説明できるようになってきた気がする。
相手も話を聞いたことで真剣に考え始める。
「アクニエルか。あんまそういう話は聞かんが、確かにウチの部下が何人か罪人扱いされてたのはおかしいと思ってたんだよな。あいつらある天使に注意しただけなのに、とか泣きながら堕天していったし……まさかそれがアクニエル?」
こっちでもかかわりのあるというか実際に潰された天使がいたようだ。
「ふむ。部下への聞き取りをお願いしてもいいだろうか? どうも俺だと萎縮してしまうようでな」
「うす。んじゃ皆散開して各自で聞いてくれ」
さすがに訓練場にいる兵士たちだけでもかなりの数いるので一人一人全員で聞きまわっても時間の無駄になるからな。
というかベーヒアル、前足で卵抱えたまま聞き入ってもお前じゃ話にならんだろ、メリーさんともどもここに居ろここに。
いや、小首傾げるように上半身傾げるんじゃないよ。
「というか、その卵何で持ち出してんだ。アイテムボックスに入れてなかったっけ?」
体を逆に傾けてなんのことー? じゃないんだってば!?
「まったく、変な衝撃受けて割れても知らんぞ」
とりあえずサンダルフォンには別の話も振っておこう。俺たちが聞きたいのはアクニエルの話だけじゃないんだし。
という訳でサンダルフォンさん、ルルルルーアが罪に問われてるらしいですが、何かわかります?
「あそこにいる娘か? 罪云々は裁判官の領分だろう、ああいや、サラカエルなら知っているかもしれんな。奴なら議会場にいるはずだ」
議会場のサラカエルさんな。まぁ時間はあるからチャチャッとめぐってみよう。
「それと、マイネさんに関して何ですが……」
「ふむ。罪云々は先ほども言ったが裁判官たちの領分だ。ただ、この天界裁判にとって本当に罪を犯したかどうかは重要ではないのだ」
「え、重要じゃない?」
「そもそも法というものを決めているのは天使ではなく神、裁判官たちが採決するのはその神が決めたルール内で自分たちの都合のいいように法を把握し、裁いているに過ぎない。ようは、議長を納得させて無罪、或いは減罪できればいい。後必要なのは相手の天使たちによる罪の疑惑に対しどれだけ情状酌量を訴えられるか、あるいは無罪である証拠を突きつけられるか、嘘はついてはならないが、全ての真実をつまびらかにする必要もない」
ああ、なるほど。
つまり実際に弁護士と検察による法定合戦が行われる訳ではなく、相手の矛盾を突きつけるなどで判決を促せばいいわけか。
なんだ、そっか。
言い訳とかじゃなく相手の弱点を指摘しまくれば勝手に自滅してくんじゃん。俺の、得意分野じゃね?
「あは、ヒロキ悪い顔してるー」
「失敬な。メリーさん、これは不敵な笑みという奴さ。アクニエルがどれほど卑劣な罠を仕掛けようとも、正面から全部粉砕してやろう。ああ。俺の準備は既に整ったぜ」
あとは証拠やら証言を増やして、アクニエルを潰すだけ。
あ、違った。俺らの目的ってばマイネさんを助けるために来たんだった。
「あ、丁度戻って来た、バイアスロンさん、マイネさんのフォローは万全?」
「うむ。大体問題は無いと思う。我々がフォローできるぶんは、だがね」
さて。どういう裁きになるのかわからんけど、酷い裁判にならないことを祈っておこう。
一応、ルルルルーアさんには釘刺しとくか、なんかブチ切れたらやらかしそうだし。




