1079.容疑者到着
「驚いたな。まさかこれほどとは」
お兄さん天使と一緒にそこら辺の天使さんに聞き取り調査することしばし。
アクニエルの悪行が次々と明るみに出てきてお兄さん天使もかなり引いていた。
「でも、全部疑惑の段階で本人が加害してる証拠がないんだよねぇ」
メリーさんの言う通り、徹底的証拠はないのだ。
あるのは事前にアクニエルと敵対したり不興を買ったりしてお前を堕天させてやるからな! とアクニエルに言われた、くらいなものである。
それで実際に犯罪犯したことになって堕天させられたり抹消されたりしてるらしい。
「待てよ。そういやあいつやあいつの時……」
おっと、お兄さん天使にも気になるアクニエルの悪行があったかな?
「いたぁ――――!!」
「ん? あー。マイネさん」
「あー、マイネさん、じゃないわよ! あんたたち入り口いないってどういうことよ!?」
マイネさんの後ろからキカンダー、グレートマン、ジェイク、カイセイジャー五人、バイアスロンさんの面々がやってくる。
「やぁヒロキ君。まさか本当に天界に来てるとは思わなかったよ。天使なんて初めて見たな」
バイアスロンさんも若干テンション上がっているようだ。
正義の味方でも憧れの人やモノはあるらしい。
「おや、そちらの方は?」
バイアスロンさんだけがお兄さん天使に気付く。
まだ隠遁中だったお兄さん天使が自分? と自身を指さし目を見開く。
「解除。いや、驚いたな。まさか隠遁スキルを見破られるとは思わなかった」
「うぇ!? 天使が突然現れたんだけど!? ヒロキどういうこと!」
「あー、マイネさん、一旦お口チャックで。今はイベント見る時だ」
俺の言葉でマイネさんも気付いたようだ。
俺の隣にやってきて成り行きを見守ることにしたらしい。
「初めましてかな、下界で正義の味方をしている。キャプテンバイアスロンだ」
「ああ、噂は聞いているよ。徳が高い良い魂を持った英雄がいるとね。私は……今はまだちょっと名乗りは控えようか。お兄さん天使とヒロキ君から呼ばれてるので、それで呼んでくれ」
「ふむ。名前は秘匿中ですか。いいでしょう、そちらの話に関しては追及しないでおきましょう」
と、お兄さん天使とバイアスロンさんが硬く握手を交わす。
「それで、その英雄殿がどのような理由で天界に?」
「うむ、そこにいるマイネ嬢が容疑者となってね。我々は彼女の弁護をするために天界の裁判所に向かうところなのですよ」
「なるほど、ならば裁判所に行く前にヒロキ君の手伝いをするといい。その方が、いろいろと良い結果に繋がるだろう」
「ふむ? よくわからないが、どうせ一緒に行くつもりだ。問題はありませんな」
「そうかい。じゃあ私は再び隠れさせて貰うよ。聞き取り調査を行うには私の姿は邪魔になるからね」
そして再び隠遁してしまうお兄さん天使。
「それでヒロキ、今は何してんの? 他の皆は?」
「ああ、今はアクニエルの情報収集だね。ちょっとあくどい天使が出て来てね。しかもマイネさんの裁判官」
「は?」
「俺を目の敵にしてるっぽいし、絶対邪魔してくるから情報収集してざまぁさせたいな、ってのが今の状況かな」
「なるほど? なるほど」
分かってないな。
まぁマイネさんだし仕方ない。
他の皆にも状況を説明して協力体制を敷く。
ただ、今からばらばらに作業しても行方不明者が出る程度で大した進展はないだろう、ということで、集合時間まで皆で探検することになった。
できれば図書館とかも寄りたかったんだけどなぁ。
皆でゆっくり移動してると時間が過ぎるのが速いんだ。
気付いた時にはもう集合時間間近で、慌てて集合場所へと向かうことになった。
っていうか皆早いな。俺らが最後の集合者になってたじゃないか。
「悪りぃ遅くなった」
「ホントだわ。私なんて休みたくとも休ませて貰えなかったのに。随分と楽しそうねヒロキ」
「そうかぁ? それより皆、アクニエルの話はどうだった?」
ローリィさんの恨み節は聞き流し、本来の目的を尋ねる。
やっぱりどこでも悪行の噂はあるみたいだ。
でも決定的な証拠はというと無きに等しい。
「協力者がいるかもしれんな」
「バイアスロンさん?」
「そのアクニエルだったか。私はあったことがないので何とも言い難いが、話を聞くに裁判官とはいえ、相手の天使に罪をでっちあげることは出来まいよ。それこそ別の誰かが相手の天使が罪を犯すよう、あるいは犯したように見せかけるよう。捏造や証拠作りをしているはずだ。つまりアクニエル単独では多くの天使を堕天させることはできない。まして天使たちの裁判だ。嘘偽りなく公正であることを常に強いられる場ででっち上げなどできるはずもあるまい。ならば裁判官の天使まで誤認させられる、あるいは本当に相手が罪を犯したと確信できるだけの証拠が作り出されているはずだ」
アクニエル一人の犯行じゃない、か。
「ウリエルか、メタトロンか? いや、さすがに彼らが加担しているとは思えんな」
あの、お兄さん天使さん、隠遁したまま喋ると誰もいない場所から声が聞こえる怪現象になっちゃうんですが?




