1075.天界へ
風が強くなってきた。
ビュゥビュゥと吹き始めた風に体が持っていかれそうになる。
エルエさん辺りを連れてくればよかったな。
最悪落下したらルースさんに拾ってもらうしかないのが、ちょっと怖いぞ。
「うひぃ。下見ちゃった。ヒロキ、これ、ヤバい」
「マイネさん立ち止まるのだけはやめてくれよ。バンジーの順番待ちみたいに一時間も二時間もこんな場所に居れないぞ」
「わ、分かってるわよ!」
分かってるけど下、見ちゃうよね。
気持ちはわかる。
でも下見ると足震えてくるからさ、ほら、上見ろ上。
「っとぉ!?」
「ちょっとヒロキ!?」
「ブニィ」
っと、あっぶね。
上ばっか見てたせいで足踏み間違えた。
階段踏み外して後ろに倒れた俺をベーヒアルが上半身を立ち上げて受け止める。
足の吸盤が背中に張り付いて強風からも守ってくれた。
「ベーヒアル、サンキュ」
いやー、マジ焦った。
今のはヤバかった。ベーヒアルいてくれてよかった。
これがマイネさんだったら一緒に落下しててもおかしくなかったぜ。
「おいおいヒロキ、頼むぜ」
「悪り、上ばっか見るのもだめっぽいわ」
「足元は見とけよマイネ、ヒロキ、下見えちまうのはぶるっちまうだろうが、慣れりゃどうってことねぇし。そもそもゲーム世界なんだから実際落下する訳じゃねぇんだぜ」
そりゃそうなんだが、実際精神的に死んだと思ったら死ぬことだってあるんだからさ。落下する恐怖は味わいたくねぇよ、マジで。
「大丈夫よ。ここまで来たらもうすぐだもの。ほら。あそこを越えたらすぐよ」
そのすぐまでが大変なんだよなぁ。
うっし行くか。
ほらマイネさんぶるってないで足動かして。進めないから。
「つかもう四つん這いでもいいから這ってけや」
「そ、そうね、そうしようかしら」
おお、マイネさんが四つん這い、も無理そうだから匍匐前進しながら階段上りだした。
まぁ、進んでるからいいか。変にチャチャいれて立ち止まられても困るし。
ただし、天界側から仕事の為に降りてくる天使たちは這い進むマイネさんを見て、なにこれ? と困惑しながら降りていく。
そしてしばらく。
「つ、着いたぁ!!」
「なんとか全員無事に来れたな」
雲の上に作られた大地を前に、俺たちは大きく息を吸い込み、適当な芝生に倒れ込む。
いやー、さすがにあの階段登り切ったらもう、動く気すらなくなったわ。
とはいえドアの前で寝転んだり大きく手を広げたりすると邪魔なので、扉から少し離れた場所へ移動して、俺たちは倒れ込んだのである。
天使たちがまたか、みたいな温かい目で見てくるのは、おそらく最初にここにやって来たヨシキたちがおんなじ行動を取っていたからだろう。
「あー、天界来たのに動く気になれない……」
「一度上がっちまえば選択肢使えるからよ。階段登らなくてよくなるぜ」
「え、マジで。ヨシキたちわざわざ俺らに付き合ってくれたのか?」
「おう、ユウのやふがふが?」
ヨシキが何か言おうとしたが、ユウがばっと口を手で塞ぐ。
やふがふがってなんだ?
「それより、ここからの行動に関してだが、マイネは裁判所に行くだけなんだよな?」
「ええ、ただし証拠やら証言者やらがいるから一旦下に戻ってパーティー組んで連れてこなきゃなのよね」
「そういえば今回正義の味方三人組がいねぇな?」
「グレートマンさんたちはまだカイセイジャーたちのとこよ。事後処理手伝ってるの」
「なんだ。てっきり悪人にはついていけないって去って行ったのかと思ったのによ」
「ぶった斬るわよっ」
「いや、ここ天界だぞ、物騒なこと言ってんじゃねぇって」
「うぐ……」
「先が思いやられんなぁ。裁判大丈夫か? なんか大罪犯しそうなんだが」
「そうなったら徹底抗戦よ。正直もう頭きてんのよ。どいつもこいつも私が悪いって、こっちは正義の味方に成りたくて彼らと肩を並べられるよう頑張ってるのに!」
それで商店街焼き討ちはなぁ……あ、サーセン。
「えーっと、そうそう。俺の方はルースさんが天使昇格の儀とかいうのをすればスキルが手に入るらしい。あとルルルルーアさんが天界入国、贖罪審査、天界図書館入館だっけ? ルースさんも入国と図書館入館があるからそっち優先かな。ローリィさんは入国した時点でスキル覚えてるからもう用済みだし」
「用済みっ!?」
「冗談だって。HAHAHA」
「冗談じゃなかった、目がマジだったわ。ねぇ、マジだったわよね!」
「シャー?」
「私に聞かれても困りますが……」
ルルルルーアさんが本気で困っているようだ。
お可哀想に。
っていうか皆、そろそろ立ち上がろうぜ。天使たちの視線が気になってしょうがないし。
ほら、凄く残念な子たちを見つめる目をしてるだろ。




