1073.私生活駄々洩れですが
「おーっす、ようやく来たかヒロキー」
昨日のドリームランドでコトリバコ回収を終えた俺たちは、再びノーデンス神殿のくたびれた部屋で夢の世界から現実世界へと戻って来た。
そして翌日の今日。ログインと共に皆の元へと向かうと、なぜかユウが居た。
すでに連絡入れておいたのでルルルルーアさんとルースさんは待機してくれていたんだけど、今回一緒に向かうメンツ決まったの?
「一応、メリーの奴が幽世に続いて天界も行っときたい、っていうから、連れてったげて。今回私はパスで」
芽里さんが待ってくれていたようだけど、メリーさんを紹介したらさっさと部屋に戻っていった。
今日は用事があるらしい。メリーさんだけの参加か。
それから……そうか。ローリィさんも天界に行った方がいいんだっけ。
「シャー!」
お、ツチノコさんも来るの? 君は、2号の方か。
稲荷さんは、今日はこないの? 神様だし天使と会うのは……ジャンルが違う? そっすか。
光属性だしシマエさんも来るかと思ったけど、今日は無し?
えーっとじゃあ、クティさんは……え、今日はアイドル事務所の方行くの!?
幽霊たちも天界は無理らしいし、えーっと。
結局今回同行してくれるのは、ツチノコさん2号とメリーさん、ローリィさん、ルースさん、ルルルルーアさん、ベーヒアルになるのか。
ベーヒアル、たまに一緒に来てるけど、ほとんど仕事してなくない? 気のせい?
まぁ来てくれるならいいけど。
っていうかベーヒアル、そろそろ蛹に成ったりしねぇの?
成体に進化してもいいんだぜ?
ん? なにそれ? 卵? まさか、お前幼虫なのに卵産むの!?
短い脚で一つの卵を見せつけてくるベーヒアル。
あ、それあれか。
謎の卵で何が出てくるかすらわからん奴だろ!
え、もしかしてお前ずっと温めてたの!?
こくこく頷くベーヒアル。
なんでもそろそろ羽化しそうなんでついでに連れて行きたいらしい。
天界に未知の卵持ってって大丈夫か?
まぁダメだったら駆除ればいいか。
最悪マイネさんに全ての罪を擦り付けてしまおう。後で救えば感謝されるだろうし。
「人選終わったかー」
「ああ、このメンツで行くよ。ヨシキとヒバリは? 後マイネさん」
「外にいるんじゃね? アーシは早めに来ただけだし」
「ふふ、ユウは早くヒロキと一緒に居たかったんだよねー」
「は、はぁ!? ば、バッカちげぇし!」
そうだぞメリーさん。こいつは女のアバター使ってるけどただの不良♂さんだからな。
なんならバ美肉おじさんかもしれないんだからな。
っていうかユウさんや。冗談でもそんな指摘されてツンデレする美少女を演じなくていいので。
「だから、違げぇっつの。ほら、人選済んだなら行こうぜ」
メンバーと共にUFOから降りる。
UFO前に出来た広場にはすでに居付いたアベイユ星人たちの集落が存在しており、たまにノームやシルフが遊びに来ていたり、酒吞童子たちが酒盛りしていたりしている。
ある意味一つの村が出来つつあった。
気のせいかな? 鬼の一部が家造って住み始めてないか?
「おーっすヒロキ」
「御指名ありがとうねー、お兄さんがんばっちゃうわよ」
ヒバリさん、お兄さんも何もアバター同年代だし、あんたお姉さんだろ。
「んで? 一番必要なメンバーいねぇじゃん」
「ほんとな。マイネさんどーした? とりあえず連絡を……」
電話をかけてみると、慌てた声で電話にでてきた。
どうやら寝過ごしていたいたようだ。
今から準備するから待ってて。と叫んでそのまま受話状態で用意を始める。
服を脱ぐ音とか、慌てて階段を下りる音とか、どっかでこける音とか。
パンの焼けた音にお母さん早く、という切羽詰まった声。
そして全力で戻って来たマイネさんと思しき女性の咀嚼音。
うーむ。なんだろう、この罪悪感ともなんともつかない不思議な感覚は。
「いや、生活臭半端ねぇな」
「マイネさんお母さん居たんだねぇ」
「いやヒバリ、さすがに居るだろ」
「でも独り暮らしだったりするかもじゃない。この感じだとマイネさんは学生か大学卒業くらいの年代じゃない? 落ち着きもないみたいだし」
なるほど、社会の荒波に揉まれる前のお嬢さんってことか。
うん、聞かなかったことにしてあげるのが一番だな。
このままだと受話状態気付かずログインしそうだし。
「あー、マイネさんやログイン前にやることあるだろ」
【え。なにかあったっけ……って。え? え? ああああああああああああああああああああああっ】
私生活駄々洩れだったことに気付いて頭を抱えたらしいマイネさんをそのままに、俺は電話を切った。
まぁこっちから切れば通話状態切れるんだけどね。
「つかよ、これこっち来たら絶対マイネ怒るだろ」
「マンホールでかち割られるだろうな」
あ、しまった、マイネさんなら普通にやりかねないぞ。




