1071.ドールの居ない谷
道々のコトリバコを回収しながら、俺たちはナスの谷へとやって来た。
トォーク山脈側のコトリバコは後でいいだろ。
とりあえずそろそろドールの姿を拝もうぜ、ってことでこっちを優先することにしたのである。
とはいえ、トォーク山脈を降りていくので結局トォーク山脈の麓には来るんだけどな。
谷へと向かう道をゆっくりと進む。
明かりがないのでほんと暗視スキル持ってないと何も見えんな。
一応トォーク山脈自体が淡く発光してるけど、そこまで光量がある訳じゃないから、むしろ光があるせいで遠くまでの漆黒を見通せなくなっているというか。光のせいでなお暗くなってるというか。
霧の世界である幽世よりは前が見えるけど、急に敵が出てきたら対処が難しくなる。
「いねぇな」
「まだナスの谷ついてないっすよ?」
「違げぇよ。ナイトゴーントだ。あいつらこの近辺でもひっきりなしに襲って来てただろ」
言われてみれば。あいつらの襲撃今回一切ないな。
「コトリバコ置いておいた効果が出てますね旦那様!」
蚊取り線香か何かかな?
コトリバコを置くとナイトゴーントが死んでいくのか……いや、間違いではないからなんとも突っ込みづらいな。
お、また見っけ。ここら辺は投げ入れてたからなぁ。
ナスの谷の奥底にコトリバコ置いてかれてても回収できないからな。
その場合は許せノーデンス。
急な坂道を降りること数分。
うげぇ、こりゃひどい。
骸骨が無数に散らばって道、というよりは大地となったナスの谷底。
どうでもいいけどナスの谷だしナスさん連れてくればよかったなぁ。
何かしらのイベントとか起きないだろうか?
まぁそのためにはナスさんをドリームランドに連れてこないとダメなんだよな。
ナスさん結構インドア派だからドリームランドまで足運んでくれるかどうか。
しかもそこから地下世界まで来て貰うことになるから、うん、無理だろうな。
まぁ、いつかそのうちってことで今はいいか。
「いつもならここをドールが跳梁跋扈してんだよな?」
「そのはずですけど、一切見当たりませんね」
「ってかさー、確かドールって透明で見えないんだよね?」
「そういえばそうだったあるな。ヒロキさん、気配みたいなのわからない?」
「んー、俺は遠くまではわからんが、外の神組、なんかわからない?」
プレイヤーたちに促され、外の神たちが唸る。
「実際ドールが分かるかといえば分かるんだけどにゃー。ノーデンスの方が自分の眷属だからわかりやすいんだよね。私だと逆に隠蔽対象というか敵というか」
ニャルさんとノーデンスって敵対してるんだっけ?
「ふむ。私の感知範囲には何もいないようだが」
「テインさんに同じだダーリン。我輩の感知範囲に敵性存在は見当たらない」
マジでか。
まぁコトリバコ拾いながら見回ってみるか。ナスの谷結構広いみたいだし。
しばらく、ゴミ拾いの様相でコトリバコを回収しつつ亡骸の大地を進んでいた俺たちだったが。たまにダニ人間を見かけるくらいでドールの姿は一切見当たらなかった。
地下にもぐっている、という感じでもなさそうで、ダニ人間たちも寄生先が見当たらず途方に暮れている様子である。
「お? なんか上の方に小屋あるぞ」
「あー。ありゃシュッゴブとかいう奴の家だろ。別に行く必要はないし、今は放置しようぜ」
せっかく何か見つけたのに、未知なるモノさんに促されて俺たちは骨の大地をひたすら歩いていく。
まぁ本来はここ、骨の海とかよばれてるんだけどな。
ドールが居ないおかげで骨の中にうずまって行ったりしないので骨を踏みしめて歩くだけの大地と化していた。
「今度はなんだ? 遠くに見えて来たぞ?」
「未知なるモノさん。アレ多分脊柱の洞窟なの」
なんか今イントネーションおかしくなかったなのさん? 石柱の洞窟だぜ?
その入口へ骨の海が向かっているようだ。
ただ、俺たちそっちの方には行く必要ないんだよね。
なのでトォーク山脈を迂回するように回り込み、おー、あれが不毛の湖か。
んで、あちらに見えるのが菌類の森だな。
あそこに不用意に踏み込むとキノコ生えたり操られたりしそうだから絶対に近寄らんとこ。
とりあえずトォーク山脈をぐるっと一回りしながらコトリバコ回収してみたけど、コトリさん、あと残ってるのある?
「骨の海の底に幾つか残ってますね、行きます?」
それは地図に場所だけ記してノーデンスに回収して貰おう。壊していいんだし、わざわざそんな場所まで行く必要はないだろ。
「それもそうだな。あー、疲れた。なんだろうなこのボランティア作業終わったような感覚?」
まぁ実質ゴミ拾いみたいなもんだったし。
アイテムボックス内に入れるだけの簡単な作業だし。
っていうかアイテムボックス内に取り出しちゃいけないアイテムが大量に増えたんですが。このコトリバコどーしろと?




