1069.非時香菓
せっかくなので今のうちに聞けること聞いとくことにした。
「非時香菓か」
「なんかこの辺りにあるって聞いたんだ。せっかく来たなら回収してけって」
「誰が言ったか知らんが、そいつは常世の方に成る実だな。幽世にはないぞ」
どうやら話を聞くに、常世に育つ樹木に非時香菓はあるらしい。
見た感じ柑橘系の実らしいのだが、常に時を選ばず香りを放っている木なのだとか。
不老不死の果実らしいけど、そういうの結構多いよな。
「行きたいならこの宮殿から西にまっすぐ行けばいい。靄の切れ目からが常世だ。逆に黄泉に向かいたいなら東へまっすぐだな」
「へー。っていうか、こっち側の世界って何がどう繋がってんの?」
「ふむ。こちら側は現世の裏世界としてあの世と呼ばれている。この世界の広さはヒロキの居る世界と同じ位の大きさと思ってくれればいいだろう。エリアはいくつも存在しており、ここからだと、東西南北に、黄泉、常世、彼岸、霊界に向かえる」
お、おー。
「さらに黄泉側からならば、東に現世、北に根の国、南に冥土。常世側からならば西に三途の川と賽の河原、南にニライカナイ、北に浄土が広がっている」
マジかよ、死後の世界作り込みすぎだぞ。
「また、三途の川を渡れば地獄その向こうにはドゥアトやアプチ、煉獄、辺獄、ゲヘナ、コキュートス、ハデスやシュオル、ニブルヘイム、ヘルヘイムなどがあるらしい。また、冥土のほうだと冥府や冥界、彼岸の先にはマグメルやらシバルバー、ミクトラン。浄土の先には極楽浄土や天国、アアル、ヴァルハラ、エリュシオン、などに繋がると言われている」
死後の世界広すぎ!?
しかも地獄だけでも八大地獄とか八寒地獄とかあるんだろ。どんだけ作り込んでるんだ運営さん。日常オンラインでゆったりしてるプレイヤーが把握してるマップで本当にごく一部じゃね?
これ絶対全部回ることできねぇじゃん。下手したらこんだけあると理解すらせずに辞める人いるんじゃね?
「暇があれば行ってみればいいが、生身で向かうのはなかなかに面倒だぞ。各地にある地獄門などから向かうしかないだろうが。生身で旅がしたいなら黄泉から向かうのが一番だろうな。ただ、生身だと耐え切れない場所もあるからな、とくに霊界などは完全に霊の世界だからここのように足場はない」
さすがにその辺りは向かいたくねぇな。
「旦那様、そろそろ……」
「ああ。そうだな。さすがに常世までは向かう気はないし、非時香菓に関しては諦めるしかないか」
「不老不死なんて求めてないだろダーリン。ほれ、帰るならさっさと帰ろう」
「それもそうだな。んじゃ案内して貰ってありがとなお嬢ちゃんたち」
『問題ない』
『変態さん、死んだら一緒に遊ぼうね』
嫌だよ!? 死なねぇよ!
大国主たち家族と案内してくれた少女二人にお礼を言って、俺たちはコトリさんの元へと集まる。
「戻り方は?」
「私に触れておいてください。全員。はい、体じゃなくとも服でも問題ありませんよ」
俺たち全員が掴んだのを確認し、コトリさんが告げた。
「世界よ、変われ、ほ……ホ~ゥ!!」
あ、そのセリフ言わないとダメなんだ。
ほーうのところだけコトリさんが凄く恥ずかしそうに告げていたけど、その顔、役得です!
意識がぐにゃりと消えていく。
感覚的にはほぼ一瞬だったのだが、ぐにゃりと意識が戻った時には、目の前に誰かの胸。
たわわなそれを前にして、でも俺は揉めなかった。
両手にも重量物が乗っかっていて満足に体を動かせなかったからである。
ああ、遠ざかっていく、俺の魅惑の果実!
「うー、何というか、変な感じだな」
「も、戻って来れた。よかったぁ」
「戻ったのはいいけどやっぱり女の体かぁ……はぁ」
「ふふ、幽世に友人出来た。えへへ」
蛇々利さんそれ何? え、マジで、お守り貰ったのか。よかったね。
でもその友人、もう二度と幽世向かわないだろうから会えないと思うよ。
「はぁ、もう、困ります旦那さま。私の知らないうちに死にかけないでください」
「いや、こっちも想定外だったからな、まさかタタリモッケがあんなスキル持ちとは思わなかったっていうか、安全地帯じゃなかったのかUFO内部」
「ゲーム霊なども侵入して来てるんですから比較的安全なだけで完全に安全なわけじゃありません。特に浮遊霊どもは家にだって侵入してきますよ、私たちの呪詛があるから忌避してるだけです」
なるほど、コトリさんやハナコさんが居てくれるから低級霊は寄って来てないだけなのか。
それでも悪霊の中で危機察知が麻痺したりしてるどうしようもない奴が家にまで襲い掛かって来たりするらしい。
特に厄介なのは家鳴りなど家を破壊する怪異や、ゲーム霊など普段の行動をトラップとして自分の領域に引き込む怪異らしい。
さすがにそういう怪異系までは迎撃しきれないんだとか。




