1068.お迎え
「なるほど、タタリモッケに魂だけこの世界に飛ばされた、と」
「うす。戻る方法とかあります?」
大国主さんに尋ねると、腕を組んだ大国主さんがふーむと唸る。
「あるにはあるぞ。結構いろいろと方法はな。そうだな、教えてもよいが、どうだ、本日一日ゆったりせんか? もてなし料理もある。なぁにここは黄泉ではないので食事をしても問題はな……」
と、言葉を最後まで言い切る前に、頭をがしりと須勢理毘売命さんが掴んでいた。
顔を寄せ、真っ青になった大国主さんに優しく告げる。
「また、ナンパする気ですか? あ・な・た?」
「ま、ままま、待ちたまえ。私はほら、彼らをもてなしたいだけでだな。酔った勢いで彼氏の居ない相手を口説くなんてことしないぞ、うん。しないぞ?」
こいつ、新しくやって来た女性陣をナンパする気満々かよ!?
史実通りの女好きだなオイ!
しかも妻の目の前で新しい女を口説こうとは。
「ほ、ほら、いくつもの戻り方を告げるにもゆっくりと話した方がいいだろう? な? な?」
「ええそうね。じゃあヒロキさんと隣り合って二人きりでお話しになって? 私たちは女性陣で楽しくやらせていただきますわ」
「……はい」
すっげぇ悲しそうに了承した。大国主さん尻に敷かれ過ぎだろ。
「では料理を!」
その一言で性別不明の透明な霊体たちが、様々な料理を運んで来る。
一応鑑定で確認はしたけど、これ食べたらここから出られなくなるとかの食事ではないようだ。霊力回復とか霊力増加とかの効果はついてたけど。
結局。女性陣と引き離されて、俺と大国主さんだけが二人食事することとなった。
女性陣、円陣組んで凄く楽しそうですね。
こっちは野郎二人だけなんですけど。
パープルちゃんこっち来ない? 元男だし、ああいや、なんでもないっす。
「キミのこと恨んでいいかね?」
「大国主さんや、人のもんに手を出すもんじゃぁねぇよ」
「それはそうだがね。綺麗な女性を前にしたら口説くのは礼儀のようなものだろう?」
「分かるけども、見境なくやるなよ、ったく。俺だっていろいろ考えて声掛ける相手選んでるんすよ」
「そうなのかね?」
―― オイ、テメェ―ラ、話進まねぇからさっさと復活方法告げろやバンすっぞウラぁ ――
なんかこっち見てて焦れたらしい天の声に急かされた。
俺と大国主さんは顔を見合わせ、互いにため息。
「では、ここからの脱出方法をつげようか。今君たちはアストラル体という状況にある。アストラル体しってる? 精神や欲望、夢を体現する精神体というものだね。ようするに魂とでもいうべきものだ。肉体にアストラル体が宿ることで人として生存できている。つまり幽体離脱している状態だよキミたちは。意識してみれば頭の上に線が出ているはずだ。それが肉体と繋がってるんだ」
ほほぅ。ああ、このほっそい線? 地面の中に吸い込まれるように伸びているようだ。
「ちなみにこの線が千切れた瞬間肉体と精神が切り離され人は死ぬ」
え、めっちゃ大切な線じゃん!?
「うむ。だからこそ今の無防備な状態よりも肉体に戻った方が安全でね。出来る限り早く戻った方がいいだろう。方法としては黄泉に向かって黄泉路を征き、黄泉比良坂より現世に戻り肉体へと戻るか、常世側に向かった後でカロンなどの渡し守に頼み現世へと戻り肉体に戻るか。あとは我が宝具の一つである生弓矢で強制的に戻すか、が比較的安全な方法だ。問題点としては黄泉は食べ物を食べた瞬間線が千切れる。常世では奪衣婆に掴まると毟り取られる。弓を使うと強制的に引き戻すのでその勢いによってたまに千切れる」
どれもダメじゃん!? 確率で誰か死ぬかもってことじゃないすか!?
「ご安心ください旦那様。第四の方法持ってまいりました」
不意に、背後から聞こえた声に俺たちは会話を止めて振り返る。
そこには和服がよく似合う黒髪の少女が立っていた。
「探しましたよ旦那様。全く、タタリモッケも面倒なことをしたものです」
「こ、コトリさん!?」
「なんという美少女! ぜひとも我が妻に!!」
「貴方ぁ?」
「冗談です!」
大国主が立ち上がろうとしたものの須勢理毘売命に窘められてその場に座り直す。
「コトリさん、ここまで来てくれたの?」
「はい。旦那様の危機を察知し、お迎えに上がりました。タタリモッケの能力を手に入れましたので皆さん安全に元の場所に戻れますよ。さぁ、帰りましょう」
酒盛り、始めたばっかなんだけど。
いや、まぁ確かに速めに帰った方がいいのか。
変なトラブル起きてアストラル体とやらが千切れても困るし、一旦さっさと帰ろう。
肉体持ったままここにくる方法だけ大国主さんに聞いておこう。
「皆。せっかく宴開いてくれたわけだし、俺が話聞いてる間に詰め込めるだけ詰め込んじゃえ。コトリさんも食べてていいよ」
「はい、ではご相伴に預かりますね」
それから、俺は独りで大国主の話を聞き、その間に女性陣は楽しく雑談しながら食事を楽しんだ。
うん、不公平だ。




