1067.幽冥主宰大神
二人の少女に案内されてやって来たのは、うん、どこか分からねぇや。
霧が濃すぎて場所が全く把握できません。
俺の傍にいるメンバーだけはわかるんだけど、それ以外、場所の把握すら困難だ。
「ここ?」
『そう、ここー』
『この先宮殿ある。宮殿の中は霧ないよ』
お、それはありがたい話だ。
しばらく近づいていくと、霧の中にドアらしきものが現れた。
ボス部屋に在りそうな鉄扉だ。
ただし視界不良のためにその全容を見ることはできない。
開けばいいということで、扉を開いて中へ。
おお、確かに霧が晴れた。
「よ、ようやく自由に動けるぅー」
「さすがにこう密着状態で歩くのは大変でしたものね」
「ヒロキさんともうちょっと抱き合ってても私はよかったんですけど。でも他の女性と仲良くするのはちょっとどうかと思うのですが」
「蛇々利さん、いつも言ってるけど。俺が一人を選べと言われたらハナコさん一択だからね、つまり蛇々利さんと仲良くする方が不倫扱いになるんだけど、どうする? 俺は仲良く楽しく冒険したいんだけど」
「うぅ、いけずぅ」
はいはい、浮気撲滅系スキルは使わないでね。
「ふむ。これはまた立派な内装だのぅ。んー。ダーリン、ここの壁、ちょっと削っちゃダメかな? 研究に使いたいんだが」
さすがに家主の許可なく壁破壊はダメだろ。
それにしても、内装からしても昔の日本って感じの作りじゃないな。どこかの宮殿、外国でありそうな、そう、バッキンガムとかそんな感じの宮殿っぽい作りだ。
誰もいないようなので、目のない少女たちに案内されて、家主の元へと向かう。
お、なんか声が聞こえるぞ。
あと男女の何とも言えない声が。
さすがにこのゲームだしえっちなことはなされてないと思いたいけど……
「ああ、いいっ、そこ、そこがいいのっ」
「ここ? ここなのね、アナタ! ほら、ほら、鳴け、ぶひぃって豚のように鳴きなさい!」
「ぶ、ぶひーぃっ」
なぁに、これぇ……
そこには無数の女性たちと、その真ん中で全裸になったうえ、縄目の恥辱を受けたおっさんが一人、なんだか楽しそうに豚の鳴き真似をしていらっしゃった。
「ぶひ、ぶひ、ぶ……」
楽しそうに鳴いていらっしゃったおっさんは、俺たちを見て硬直。
衣、裳、倭文布の帯、肩から領巾をかけている女性陣たちも俺たちに気付いてそそくさと椅子に座りだす。
そして、無言のまま、全裸の男が中央の椅子へと座った。
威厳一杯亀甲縛りでふんすっと俺たちを睥睨する。
いや、この状態でそのまま出迎えるんですか!?
「よくぞ来た。霊でありて霊でないモノたちよ。我が名は幽冥主宰大神である。先ほどのことは、夫婦の嗜みよ。忘れるが良い、それが互いによい結論となろう」
そう、っすね。
というか、待ちますんで服着てください、マジで。
「む? そ、そうだったなプレイヤーたちが一切来ないので油断していたのだ」
奥の部屋へと向かって退出するおっさん。というか大国主。
奥方と思しき女性陣がころころ笑っているけど、まぁいいか。
「初めまして。私は妻の須勢理毘売命よ、こっちの小娘が八上比売」
言われ、びくっと身を竦ませた八上さん。なるほど、力関係が透けて見えるな。
「あと、泥棒猫の沼河比売と鳥取神それと姉妹でオトされた多紀理毘売命と神屋楯比売命それから綾門日女命、真玉著玉之邑日女命、八野若日女命、弩都比売、許乃波奈佐久夜比売命、天止牟移比売、国安珠姫他にもいるけどとりあえずここにいるのはこのメンツね。息子や娘はこの宮殿にはいないの」
多いな妻。というか、そこの人コノハナサクヤとか聞こえたんだけど。あれって瓊瓊杵尊とかいうのに嫁いだんじゃなかったっけ? 別人かな?
「全く、夫にも困ったものだわ。私という正妻があるというのにこれだけ浮気するのよ」
「ほんとう、男って酷いですよね。浮気、赦せませんよね!」
蛇々利さんが意気投合してる。っていうか須勢理毘売命がこの屋敷の実権持ってると思ってよさそうだな。
「失礼諸君。お待たせしたね」
美豆良に衣、褌、倭文布、皮履などを着つけた彼は、一番よい椅子へと座り込み、威厳たっぷり俺たちを見つめてくる。
彼が戻ってきたことで須勢理毘売命たちを取り巻く空気も一気に引き締まる。
「さて、では改めて。ようこそヒロキ君。話はいろいろなところから聞いている。よくぞこの幽世へ参った。して、ここに来た理由はなんだ?」
うん。俺の名前知ってるのはAIだからってことで納得するけど。それなら理由まで把握しておいてほしかった。




