1066.見た目が危険
しばし移動した俺たち。
裾を引く少女たちが足を止めた。
『そこ、いる』
『直視、無理。変態の人』
そこにいるのか。
「あー、すいません。そこにいる人返事可能ですか?」
『ん? ああ、私に用事かね? 受け答えは可能だよ。なにかね?』
おお、本当に誰かいるっぽい。
「すいません、この子たちに聞いたんですけど幽世について詳しい人がいると」
『ふむ。それで私を尋ねて来たのか。別に何を聞かれても答えるがね。人として礼儀というものがあるだろう。キミ、姿は見せられるかな?』
「うぃっす、そんじゃ近づかせていただきま……」
姿を現せ、と言われたので相手が見える位置まで近づいていく。
うぉぅ、なるほど、これは……
それは目を覆いたく程の肌色。
全裸姿の男性が一人、立っていた。
ただ、問題は頭の部分が首の辺りで輪切りにされており、内部の肉が見えていることと、そのずれ落ちた頭が股間から生えるかのようにくっついていることだけは異常である。うん、変態だぁ。
『やぁ初めまして。死亡時首を切り落とされてね。まさかの○○○にすっぽりだよハハハ』
最悪の死に方じゃないですか。しかもそのまま霊体化するとか、不憫な。
「アフロのおじさん、えーっといくつか聞きたいことがあるんですが」
『私でよければ応えよう。何が聞きたいかな?』
うーん、容姿にインパクトあり過ぎて話しかけづらい。
というか丁度俺の背丈的に顔の位置が同じ位なんだよなぁ。
「えーっと、とりあえずここから現実世界に戻る方法、教えて貰えます?」
『ふむ。しかしここに来たということは既に肉体が滅びた後では? 荼毘に付されたのなら現実に戻っても浮遊霊か地縛霊になるだけだぞ。それとも呪詛をまき散らして悪霊か?』
あー、これは前提条件伝えないとダメな奴だ。
俺はタタリモッケによってここに連れてこられたことを伝えてみる。
お、これは進展できそうな予感。
『なるほど、それであれば確かに戻れるか。しかし、この地から戻る方法といえば……』
うーんと唸るおっさん。
一応方法はあるみたいだが、あまりお勧めはできないようだ。
『方法としてはいくつかあるのだがね。この幽世の主に戻してもらうのが一番だろう。あるいは彼の弓矢を奪い死者蘇生を行うか。あるいは船で常世から舞い戻るか……』
「へぇ。幽世にもボス的存在いるんだ?」
『ん? なんだ人間なら誰でも知っているだろう?』
いや、知らんって。
『ここの主様は幽冥主宰大神 だ。知らんか? またの名を、大国主と呼ばれているのだが』
めっちゃ有名な神様でてきた!?
大国主って、あれだろ葦原だか大和国だかを納めてたって言う。大黒天と同一視される神!
え、あんなもんがこの世界に居るの!?
『あー、あの女好きのおじさん!』
『気に入った女の人襲いまくるえっちぃおじさん!』
うえぇ、なんか会いたくないんだけど!?
話聞くだけで女好きのヤバい人にしか思えない。
もしかしてパリピ系のエロオヤジじゃないだろうな。
俺たち見つけてうぇーい、彼女たち全員俺の女にならない? とか言い出したら即座に殺す準備しとかないと。
「とりあえず、そいつに会って元に戻してもらうか、ぶっ殺して弓矢、とか言うの使えばいいんだな? あるいは船奪って脱出できる、と」
『う、うむ、なんだか殺す一択みたいな言い方だが、おおむねその通りだ。え、神様殺したりしないよね?』
さぁてそれは向こう次第だな。
とりあえず芽里さんたちは絶対俺から離れないように、変なことされたら教えてね、確実に動かなくなるまで撃ちまくるから。
なんならトンカラトンさんのお仲間にしてやるのもやぶさかではない。
「どこに行けば会えます?」
『私知ってるよ?』
『今は幽世の奥で宮殿作って酒池肉林』
マジかよ。
『安心したまえ、本人は酒池肉林をしたいそうだが妻の須勢理毘売命は嫉妬深くてね、基本彼女を味方に付けてしまえば下手なことはしてこないし、させてくれないだろう。何しろ素戔嗚の娘だからな』
なるほど、そういや大国主の時代ってもろ神様がいる時代だっけか。
というかご家族でいらっしゃるのか?
「まぁいいや、行ってみないとどうしようもないみたいだし、皆で行こうか」
『はーい』
『変態の人同士は惹かれ合う、だね!』
違うと思います。
なんで俺が全裸股間顔男と同じ土俵なんだね。全く失敬な。
『ちなみに、どうでもいいことだけどね。幽世からは常世と黄泉の国に向かう場所があるらしいんだよ。黄泉側の供物は食べちゃダメだけど、常世にある非時香菓はぜひとも入手すべきだと伝えておこう』
どっかで聞いたことあるアイテムだな。
なんだっけ?
つかここって隔離させた世界とかいいながら黄泉とか常世に繋がってんのかよ。
そして黄泉といえば黄泉平坂。そして現実世界への脱出だ。
そっち方面でも移動できそうだな。




