1065.脱出方法を探して
さて、現状を確認しよう。
一応、あの部屋にいたメンバーは俺の服掴むことで全員いらっしゃる。
あと目が真っ黒なボーイッシュ少女とポニーテール少女が一人づつ。
ここは幽世という場所らしく、霊が住む世界なのだとか。
その点からいって、俺たちも霊になってると思っていいだろう。
つまり、肉体を離れて霊体、またはアストラル体がこの世界に飛ばされたと思っていいだろう。
脱出方法は不明。
女の子たちに聞いてみたけど出る方法はわからないのだとか。
幽世、隠り世。隔離された世界の略ってことらしいけど、言葉遊びなのか運営の策略か。
ともかく俺がこっちに迷い込んだ理由はなんとなくわかった。
幸運さんが仕事したんだろう。
その仕事内容は、本来幸運であればハナコさんたちと飲み会行ってただろうことを考えて、ほぼ確実にこっちに残らなかった場合スレイさんたちがこの幽世に隔離されたまま戻れなくなっている可能性があったので、幸運さんは俺を巻き添えにすることで皆を脱出する幸運力を発揮しようとしている。うん、ただの希望的観測って奴だ。
だが、この世界がゲーム内であるがゆえに、脱出方法は必ずあるはずだ。
なければここに来た時点でキャラロスト扱いにされてるはずだ。
「とりあえず、町とかってある?」
『ないね?』
『ないよね? まず見えないし』
この世界全てが霧で見えない状態らしい。
全員手を離さないよう気を付けてくれよ。迷ったら全員脱出不可能になりかねないからな。
「あのー、じゃあ誰か物知りな霊とかいないかな?」
レッドさん真実知った時は腰抜かしてたのに、今では近所のお姉さんみたいな雰囲気で二人の少女に尋ねていた。
眼がないって以外は普通の女の子だからな。あ、でもよく見たら足透き通ってるわ。
『物知りな霊?』
『あの人じゃない?』
どうやらイベントが進むようだ。
手詰まりじゃなくてよかった。
道導があるならそこから向かってみるのが一番だ。
「んじゃま、とりあえずその人とやらに会いに行ってみるか。居場所はわかる?」
『ん、こっち!』
『何時もおんなじ場所にいる。変な人』
『うん、変態な人!』
変な人じゃなく変態な人なのか。会いたくねぇな。
俺たちは二人の少女に手を引かれながら、互いに離れないよう、ゆっくり着実に、案内される場所へと向かうのだった。
っていか離れたらまずいしさ、芽里さんもっと抱き着いてきていいんだよ?
ほら、ピュアイエローとかパープルちゃんみたいにさ。あ、嘘。ごめん嘘だって、そんな白い目で見ないでください。
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SIDE:???
UFOの居間。折り重なるように倒れたヒロキたちの体が無防備にさらされていた。
そこに、壁を抜けて一羽のフクロウが現れる。
「もけ、もけけけけけ。恨めし……ああ。恨めしや。よくも焼き殺してくれたなぁ。まだ戻れたかもしれないのに、生き残れたかもしれないのにっ。無念無念、むーねーんんんっ」
霊体を失い、物言わぬ肉体へ、フクロウはニタリをほくそ笑む。
「呪われよ、呪われよ、我が呪いを受け……」
呪いを振りまこうとした瞬間だった。
がしり。頭を細い掌が掴んでくる。
まだ、残っていたのか!? タタリモッケは驚き、背後からの圧を受け全身から冷や汗を垂れ流す。
何か、ヤバい。
振り向いたら、マズい。
理解はすれどもすでに遅かった。
彼は、絶対に手を出してはならないモノに手を出した。
決して触れてはならぬ禁忌に手を触れた。
ああ、悲しきかな。
マンホール少女へ呪いを振りまいていたのなら、彼の悲願も達成できたやもしれないものを、その場にいたというだけでヒロキまで狙いに定め、その知り合いだからという理由でスレイさんたちを巻き込んだがゆえに、彼は触れたのだ。踏み越えたのだ。虎の尾を、踏み過ぎたのだ。
「私の居ぬ間にオイタしたのは、だぁーれぇーかぁーなぁー?」
ゆっくりと振り向けば、和服の黒髪少女。
どす黒い呪詛を周囲にまき散らし、激怒した笑顔のコトリバコが、そこにいた。
ヒロキを巻き込んだがゆえに呪いによりヒロキの状況を察知したコトリさんが戻って来たのである。
「あ。あ……」
「タタリモッケか。大して美味しくもないし足しにもならないけれど……そのスキル、貰っておくわね」
「た、たすけ、タスケテッ! タスケテッ!!」
バサバサと激しく抵抗する。
必死の抵抗は部屋の外にすら聞こえ、しかし、唐突に、鳴りやんだ。
ごりゅり、ばきり、不思議な音がしばらく響き、ぴぎぃぴぎぃと断末魔が鳴り響く。
そして、部屋には物言わぬ肉たちと、黒き呪詛だけが残された――――




