1064.幽世、またの名を隠り世
俺は今、未曾有の危機に直面している。
周囲は霧が立ち込め視界不良。
すぐ傍にいるはずの誰かの姿すら一切見えない。
そして今回一緒にこの世界に来たっぽいのは、俺の服を前から掴んでいるスレイさん。
右に居るらしい芽里さん、背中に蛇々利さんそして左の腕に胸を押し付けているパープルちゃん。
さらにどこからか伸びてきて俺の服を掴む五つの腕。
おそらく残りのプリピュアたちで。レッド、イエロー、ブルー、グリーンが居るはずだ。
さて、そこで問題になってくるのが。人数である。
把握できているメンバーは9人。
俺の体を掴んでいる手は9人。
こうして数えると問題ないように思えるだろう。
しかし、把握できているメンバーの一人は芽里さんの胸ポケットに居るらしいメリーさんである。
つまり、メリーさんは人形なので俺の服を掴む腕の主ではない。
では問題です。
残り一人の腕って誰のでしょう?
そーっと、俺は一番近くの腕を引き寄せる。
「ちょ、ダーリン!?」
濃霧の奥から俺の胸元へとやって来たのはスレイさん。
よかった、この手はスレイさんの手で合ってた。
じゃあ芽里さんの方は?
手繰り寄せると、普通に芽里さんが現れた。
少し困惑気味のようだけど、俺が視線で手の数を指し示すと、彼女たちも理解したらしい。
次は……蛇々利さんは背中に密着してるから問題ないな。
左腕にパープルちゃんも密着してるからもんだいなし。
じゃあ、一人づつ、引っ張って引き寄せるか。
芽里さん。メリーさん、もしもの場合は手伝ってね。
後スレイさんは芽里さんたち側に退避。そこの裾掴んどいて。
んじゃまずは、この腕から。
ゆっくりと引き寄せていくと……ピュアブルーが現れた。
「あの、何か?」
「うん、悪いんだけどこっちに移動してくれる?」
相手に悟らせないよう安全な方向へと退避させておく。
んじゃ次は……こいつだ!
「やだダーリン。だ・い・た・ん・なんだからぁ」
ピュアイエローさんだった。
はい、こっちに移動お願いしますねー。
次はー。
「な、なんですか!? わ、私は別にヒロキさんに惚れてるとかじゃないので、抱きしめたりしないでくださいよ」
「はいはい、しないからこっちに移動してね」
ピュアグリーンだったので退避させ。残り二つの腕を考える。
どっちがピュアレッドだろう?
どっちも女の子っぽい腕だからなぁ。
ええい、それじゃあこっちだ!
ゆっくりと近づけていく。
すると……見知らぬ少女が現れた。
両目はなく眼窩には漆黒の空洞。
どう考えても怪異系ですありがとうございます。
「おっと、どんなバケモノが来るかと覚悟してたら意外と可愛らしい娘が来たな」
『私、可愛い? 嘘、そんなはずない。こんな姿なのに!』
「いやいや、ほんとだって。ポニーテールで元気のよさそうな可愛らしい女の子じゃん。俺はまた外の神系の怪物が出てくるかと覚悟してたんだぜ?」
『信じられない。なら、そう! キスしてみてよ』
お、おお? それでいいのか?
んじゃ遠慮なく……ってあぶねぇ!
「遠慮なくしたいところだけど、まず確認させてくれ。おい天の声! これ遠慮なくやっちゃって大丈夫な奴か? 何も言わないなら許可が出たと判断するぞ!」
―― 当然バンバン案件ですが? ちぇー。やっちゃいなよー。遠慮なくぶっちゅーっとバンバンっと ――
絶対だめじゃん。
『むぅ。じゃあおでこでもいいよ』
見上げて来た幽霊か何かに額キッスとしておく。
これくらいは別に問題ないらしい。
『むふー。お兄さんは変わってるね。変人さんだね!』
「誰が変人だ。ところで君、ここってどこなの?」
『どこ? 幽世だよ。またの名を隠り世。ここは霊体たちの世界、悠久の世界。隔離された世界』
幽世ってどっかで聞いたな。
確かメリーさんのスキル強化に必要なんだっけか?
「あ、あのー、ヒロキさん、どういう状況ですか? なんだか知らない人の声が聞こえてるんですけど」
おっとピュアレッドさんだけちょっと遠くに居るんだっけか。
腕を引っ張って近くに寄せてお……
『こんにちわ』
残った一人の腕を引っ張ったら眼窩が真っ黒な霊体少女が二人に増えたでござる。
「あ、はい。あのー、ピュアレッドさん、どこいるか知らない?」
『私と手を繋いでる』
マジかよ。真実知ったらピュアレッド卒倒するんじゃね?
「というか、二人はなんでまた俺の服掴んでんの?」
『『なんとなく?』』
意味はなかったらしい。
ボーイッシュ少女とポニーテール少女が揃って小首をかしげる。
うん、目はないけど可愛い。
俺はこういう目がない霊体系少女相手でも可愛いと思えるからいいが、他のプレイヤーだとおそらくパニックになってるだろうな。
ここに来た理由はほぼ確実にタタリモッケのせいだろう。
確かフクロウなどにつく子供とか悪霊の霊だったはず。
なんでそんな弱そうな霊が幽世行きスキルを使ってこれるのかは、運営に問いただすとして、さてどうやって脱出するべきか。そこが問題だ。




