1060.運命の二択・大人しく捕まる/殴って逃げる
「は?」
両手に掛けられた手錠と相手の警察官を交互に見ながら、マイネさんは唖然としていた。
そりゃそうだろう。当然自分が犯罪者です、と捕まったのだ。意味が湧か習いはずだ。
「え? なんで?」
「証拠の音声はここにいる皆さんが聞いていました。なんでも商店街地下で何かを燃やしたとか」
あ、あーっ。
クモリエルが実験か反逆者への制裁として人体実験した後のアレか。さすがにあれはダメだろってことで焼却して弔うことにしたんだっけ。
「あの時点であそこにいた方々はまだ生存していたことは明白でした。そしてその炎は地下から地上へと噴出し商店街を包み込み、大火災に発展」
マジで!?
「商店街にいた人々が逃げ遅れ何名もの方がなくなりました」
俺たちがクモリエル本社攻略してる間に大惨事が!?
「火をつけた首謀者は電話越しの会話からマイネさんであることは明白。よって商店街焼き討ちの現行犯で逮捕させていただきます」
現行犯? 現行犯かなぁ? ある意味現場から逃走した犯人が戻って来た状態なのは理解できるけど。
「ね。ねぇちょっと、ヒロキ、さすがにこれは酷くない? ねぇ!?」
「でも下手に逃げるとさらに面倒になるしなぁ、とりあえず捕まって自分の罪を弁護した方がいいんでね?」
「現場には私もいた。状況としては仕方なかったこともあるだろう。情状酌量ならば協力しよう」
暗雲ブラックが呆れたように告げる。
そうだったな。彼もいたんだっけ。
じゃあ俺も動画撮ってるからこれみせてあげよう。編集前だからアレ映っててグロヤバいけど、マイネさんの罪を軽減させるくらいはしてやるかな。
「とりあえずマイネさん。ここで警察殴って逃げると一気に逃亡犯扱いだからさ。俺らも協力するし、今のところは大人しく捕まっとこうぜ」
「嘘でしょ!? ドリームランドでも罪償わされて、こっちの世界でも犯罪者扱い!?」
「署まで来ていただきますが、問題ありませんね? 外にパトカーを待たせています。だから……」
「ふざ、けんな。ふざけんなクソゲーが!! なんで私ばっかりこうなんのよ! 正義の味方目指して行動してんのになんでっ!」
あ、これ拙いわ。
手錠に力を入れて、マイネさんがブチ壊す。
振り上げたこぶしが握られた瞬間だった。
俺が駆け寄るより早く、キカンダー、グレートマン、ジェイクの三人が彼女を羽交い絞めで押し留める。
「なんっ」
「落ち着けマイネ! お前が悪意を持ってやったりしていないと我々は知ってる!」
「そうだ、ここで暴虐に暴れれば言い訳できんぞ!」
しばし、暴れようともがいていたマイネさんだけど、三人の必死な説得で怒りのぶつけどころを無くしてしまったようだ。
「ヒロキ君。マイネ君のことだが、一体何があったんだね? 本当に犯罪ではないのなら私もある程度は手伝うが……」
「動画があるんで、見て貰えますバイアスロンさん」
ひとまず、すでに取り終えていた商店街地下の映像を見せる。かなり衝撃的な映像なのだが、バイアスロンさんと、刑事さんたちのリーダー格に見せておく。
「こんなことが……」
「人を、融合させたのか、こんな冒涜的なことが行われていたなんて……」
「マイネさんはコレを人に戻すのは不可能だから、俺たちを代表して弔うことにしたんだ。殺した、と言われればそうなるんだろうけど、このまま生存させてしまうよりは、と判断した。それに、商店街の住民は全てクモリエル側の人間だ。ただの人間だったかもしれないけど、犯罪組織に加担していたことは確かであるし、クモリエルに反対していた人は、先ほど見た融合体にされてる」
バイアスロンさんと刑事部長さんが腕組みをして唸る。
「確かに。事故と言えば事故だろうな。地下で行ったことが地上にまで広がると思っていなかったこと、本人は知らずクモリエル本社に向かったために燃え広がった炎に気付けなかったこと。放火ではなく不注意からの事故扱いになるか」
「うぅむ、凶悪犯だと思っていたが、この状況だと事故扱いだな。むぅぅ……」
「ってか、これで捕まってしまうんなら怪人とかぶっ殺してる正義の味方が周辺に出す被害に対しても咎められるんじゃね?」
「ふむ。言われてしまうと強く言えんな。怪人との激闘で誤ってビルを倒壊させた正義の味方もいたが、アレの死者はもっと多かった。だが、彼は許された。悪を倒すための尊い犠牲だった、ということになったからだ。この映像。我々に貰えないか? 決して悪いようにはせんよ、マイネ君」
「ば、バイアスロンさん……」
「ふむ。人族では判別しにくい犯罪だな。仕方ない。マンホール少女マイネ君。キミに天使法廷への出廷を要請する!」
「……は?」
なん、だってぇ!?
「天界に向かい期日までに法廷に出席したまえ。出席できなければ重犯罪者確定、世界中から軍が押し寄せ君を狙うだろう。しかし、天界の法廷に出席し、無罪を勝ち取れば、君に非はない。全ての証拠と証人を連れて、法廷に赴き給え」
まさかの天界行きイベントかよ!? 俺としても行きたい場所だったからいいけど。
「あ、あのー、天界? ってどこから行くの?」
「それも含めてだ。自分で調べて向かってくれ。期日は三日だ」
「はぁ!? そんな短期でわかるわけ「んじゃー明日は天界行こうぜマイネさん」え、ヒロキ場所知ってんの!?」
「知ってるも何もユウたちが行ったことあるし、そのうち行く予定だったから明日皆で行こうぜー」
明日の予定、決まったな。




