1056.秘密結社クモリエル攻略作戦20
「ぐ、ぅ……私の、負けか」
いや待てブラッククラウド将軍、やっぱ最後のやり直すべきだって!
マイネさんの不意打ちでイベント完了はさすがにダメだって!
頼むよ、頼むよブラッククラウド将軍!!
「マイネ、だったか」
「へ、私?」
「そこの階段、の、上に、脳があるだろう、それを破壊しろ。それで劣化コピーは自壊する」
「マジで、やってくる!」
「ちょ、まい「ヒロキよ、いいのだ」で、でもよ暗雲ブラック、アレ壊したらあんたも……」
「いいのだ。これで。我は決して褒められた道を歩いてこれた訳ではない、ここらで、死んでおいた方がいいのだ。時間はないが、レッド、何が聞きたい。今なら、なんでも答えてやろう」
レッドの腕に抱き留められ、ブラッククラウド将軍は力なく応える。
すでに彼自身も先は長くなさそうだ。
聞きたいことはほとんど教えて貰えないかもしれない。
「ブラッククラウド将軍、俺たちは、戦う必要はなかったんじゃないのか。あんたは生きて暗雲ブラックとして俺たちと……」
「レッド。私は悪人だ。もともとは、普通の人間だったがな。クモリエル首領に拉致され、改造を受け、数えきれない悪行を行った。その罪は、多少正義を成したところで消えはしない」
「それでもっ」
「私はね、レッド、沢山の悪行をおこなって、突然洗脳を解かれたんだ。その時にはすでにあのカプセルの中に本体があった。すでにもう、人として終わっていたんだ。その頃にはこの手はもう、血に染まっていた。後戻りなどできなかったのだ。それに、お前たちが居ることを知った。だから逃げる必要はなかった。クモリエルに反旗を翻す必要もなかった。お前たちを鍛え上げ、クモリエルを潰させれば、我が復讐は終わるのだからな」
彼は指令を受けた。カイセイジャーに潜入して内から正義の味方を潰せと。
それは首領からの信頼でもあった。こいつならば問題なくやれるだろう、と。
それは洗脳を解いてからも組織を裏切る様子を見せなかったブラッククラウド将軍だからこそ。
だが、彼はカイセイジャーにブラックとして潜り込みながら、カイセイジャーの破壊ではなく、破壊に見せかけて彼らを鍛え上げていたのだ。
それはもう、巧みに。クモリエルからすればブラッククラウド将軍の策略をカイセイジャーが自分たちの友情、努力、で勝利を掴み取ったのだと誤解させ。
しかし、それも頭打ちとなっていた。
そんなおり、彼は正義の味方として、知った。
アルセーヌを撃破した存在たちを。
そう、俺たちに期待したのだ。
カイセイジャーだけではクモリエルを倒せない。ならアルセーヌ壊滅のように他の正義の味方を協力させれば! プレイヤーたちが加わればあるいは。
そんなプレイヤーたちの実力確認のため、イベント大会にでたりして直に確かめたり。
そして準備は着々と進められていった。
だが、彼の準備が整うより早く、俺たちはクモリエル撃破に動き出してしまった。
ブラッククラウド将軍としても、暗雲ブラックとしても立ち回りが重要になって来る。
必死に演じ、敵であり続けながらカイセイジャーたちを助け、そして……
「一人逃げようとした首領を屠った。お前たちに討たせたかったが、まだ奴に勝てる段階の強さはお前たちに備わってなかったのでな」
ブラッククラウド将軍の見立て通りに事が運んでいれば、もっとカイセイジャーは強くなっていて、ブラッククラウド将軍との一騎打ちでもレッドが勝てているはずだったのだ。
こればっかりは済まないとしかいいようがない。
首領を倒すまでは良かったが、残っている問題が一つ。
俺たちが気付かず去ってしまえば、自分で処理するつもりだったのだろうが、あいにく俺が気付いてしまった。
レッドたちと敵対しつつ適度に手を抜き本体の場所へと向かわせ、自分自身をラスボスとして討たせる。それでクモリエルは完全壊滅。
そう、マイネさんによるマンホールの一撃で今、ブラッククラウド将軍の本体が破壊された。
「そうだ。これでいい。これでいいのだ」
「そんなわけ、そんなわけないでしょうブラック! 貴方、私に言ったじゃない! 自分は、息子に謝りたいって! 苦労ばかり掛けてすまないって、謝らずに死ぬつもりなの!? 貴方の子供はずっと、ずっとあなたの帰りを待ってるのよ! 私、ずっと、ずっと探してたんだからっ。だから、必ず見つけるから! こんなところで死んじゃダメっ」
「ふふ、ホワイトは、優しいな……いつも君だけが私に気をかけてくれていた。心苦しかったよ。全て理解しているのに君を欺き続けないといけなかったからな。だが、いいんだ」
「よくないっ」
「いいんだ。ホワイト。私の息子は、もう会えている」
「……え?」
困惑するホワイトに微笑み、ブラッククラウド将軍は自らを抱き支えてくれている男に視線を向けた。
すでに力の入らなくなった手で、快晴レッドの頬に触れる。
「晴斗、大きくなったな」
「え……」
「もう、お前が縛られるモノは何もない。お前には仲間がいる、辛いとき、励ましてくれる大切な存在が傍にいる。嘆くな、晴れ渡る空のように、お前は常に笑顔で過ごせ」
「あ……とう、さん?」
「幸せにな……れ、よ……――――」
「あ、ああ……父さん、父さんっ!」
ブラッククラウド将軍の体から力が抜ける。
「う、嘘だ。父さんなんだろ!? なぁ、起きろ、起きろよっ! 父さ……っ」
それは、あまりにも無慈悲な最後だった。
事切れたブラッククラウド将軍、その体は他の怪人同様、泡となって消えていく。
手にした大切なものがレッドの掌から零れていった――――




