1055.秘密結社クモリエル攻略作戦19
「がぁっ!?」
血反吐を吐き散らし、レッドは上半身を起こす。
その眼前に、ブラッククラウド将軍の切っ先が突きつけられた。
勝負あり。あとはただ、敗者を殺すだけの終焉だ。
「……終わりか?」
「……っ」
快晴レッドはしばし目を迷わせ、しかし観念するように目を閉じた。
「この程度か、快晴レッド?」
悔しいが、負けイベント確定だ。
クソ、今から助けに行くべきか?
このままじゃ快晴レッドが死んじまう。
「この程度で諦めるのか、快晴レッド!!」
びくり、弾かれたようにレッドが目を見開く。
そこには、切っ先があった、が。未だにトドメを刺そうという気配が一切なかった。
「快晴レッド。貴様の願いはなんだ? クモリエルに敵対した理由はなんだった?」
「それは……父が、消えたんだ。クモリエルに攫われたんだ。俺が子供の頃だったから、力がなかったから助けられなかった。だから、正義の味方になったんだ。俺と同じ思いをする誰かの闇を晴らしたいから。だから……」
「ならば! ここで諦める道理があるのか! 最後の最後までみじめにあがくべきではないのか! 貴様の願いはその程度か!!」
「俺は……俺はっ!!」
切っ先を突きつけられながら、レッドはよろめき起き上がる。
剣を支えに、頼りなく立ち上がり、震える両手で剣を握る。
「そうだ。それでこそ正義の味方だ。誰もが諦め絶望に打ちひしがれた時、自分の命を掛けて悪と戦う、それがカイセイジャーだ。そうだろう、レッド?」
「ブラック……あんたは――――」
「その体たらくで、我に勝てるか? どうする快晴レッド? 仲間の力を借りるのか?」
「……いや、やるさ! 決着を付けよう、ブラッククラウド将軍。カイセイジャーの名に懸けて! 全ての人に快晴を! その暗雲、晴らさせて貰うぞ!!」
「そうだ。それでこそ! 引導の渡しがいがある!!」
なん、だ?
今、レッドを殺すのは楽にできたはずだ。
俺たちのフォローも間に合わない。そんな場所での決着だ。
もう終わってたはずだ。
けど、ブラッククラウド将軍が行ったのは、レッドとの仕切り直しだった。
それはつまり、勝つ気がない!?
そう、か、そうなのか? このイベントは、そういうことなのか!
待て。そうなると、え、待って待って。つまり、あれとこれが結ばれてこれとそれが繋がって、あ、ああ! なんてこった。
ブラッククラウド将軍の正体、俺分かっちまった。
そりゃレッド殺したりしねぇよ!
カイセイジャーを影ながら守るよ。
そりゃそうだよ。最初から、最初から……っ。
「行くぞ快晴レッド!」
「う、ああああああああああああああ!!」
「後ろががら空きよ!!」
……あ。
二人の最後の戦いが始まる、その刹那。
武器を構えたブラッククラウド将軍へとなりふり構わず最後の一撃へと踏み出したレッド。
それに対応しようとしたブラッククラウド将軍の無防備な後頭部へと、遠方から飛んできちゃったマンホールが突き刺さる。
「よし、命中!」
何してくれてんだマイネェェェェ―――――――――ッ!!?
致命傷を喰らったらしく、ぐらりかしぐブラッククラウド将軍。
一騎打ちに水を差されたレッドは何もできずにただただ茫然と彼が倒れるのを見送るしかできなかった。
「全く危ないところだったわね! ちょっとヒロキ、快晴レッドがピンチなのに何で誰も助けに……あれ? 何この空気?」
上の戦いに一区切りついたのか、マイネさんが援軍として駆けつけてきてくれたんだけど……おまえやっちまったな。
さすがにこれはちょっと、殴っていいだろうか?
今凄いいいとこだったんだよ! イベント佳境だぜ!
レッドがブラッククラウド将軍倒して将軍の正体が発覚する大事なイベントだったんだぞ!!
「あ、あのー、ヒロキ? なんか、私やっちゃった?」
「快晴レッドと、ブラッククラウド将軍の一騎打ちイベント、佳境入ったとこ……」
「え、マジで、最高に盛り上がるところじゃ……え? あれ? ブラッククラウド将軍……倒しちゃったんだけど?」
「ソウダネ……」
なんてこった、これどうしたらいいんだ?
もう後はイベント終了に向けて加速するだけだったのに……
「ダーリン! どうなった!?」
「もう限界だったので全員でこっちに来たぞ。私たちを追って劣化コピーたちが雪崩れ込んでくるはずだ!」
全員こっちに来たのか。
すでに決着はついちまったけどな。
「えーっと、ヒロキ、そのぉ……」
「やっちまったなマイネさん。さすがにちょっと殴って良い?」
「いやー、そのー」
「ブラック!」
おっと、ホワイトさんがブラッククラウド将軍に駆け寄る。
いつの間にか彼をレッドが上半身抱き上げている状態になっていた。
一応倒した扱いには、なるのかこれ?




