1035.運営さんはがんばっていた・死山血河
「クソ、クソ、クソォ! バグが止まらねぇ!!」
「あはははははは、消えたー、全部消えたーオワタ―」
「AIども何してくれてんだ! おい、それ出しちゃダメだろ!」
「いやぁぁぁ、ヒロキさんそりゃねぇよ!? ドールが、ドールがあぁぁぁ」
本日も、運営は死屍累々だった。
新たなイベント向けて発進したはいいものの、終わらないバグの群れ、睡魔による少しの油断で消えるデータ、勝手にイベントを始めるAI運営、そしてせっかくエンドコンテンツをイベント転用したところにそのイベントに使うエネミーたちを次々刈っていくヒロキというなのイベントクラッシャー。
「いやぁーっ、何でナスの谷をコトリバコ塗れにしちゃうの!? あかんて、それはあかんて、ドールが次々謎の呪詛で死んでいくーっ!? ナイトゴーントのせいでドールまで全滅の勢いですけどーっ」
「イベント前にエネミー全滅とか何してくれてんだあいつ!?」
「せっかく、せっかくここまでやったってのに!?」
「おいぃ! AIども、なんでヒロキのUFOナイトゴーントに奪わせた! こうなるって分かってただろ! なぁ! 分かってただろーっ」
「し、室長、イベント用ドール、は、半数壊滅、です」
「ごふっ!?」
運営はなんとか漕ぎつけていた。
このままいけば今日か明日にでも告知を出して一週間後くらいにドール襲撃イベントを行える、そう思っていたのだ。
告知の矢先にナスの谷がコトリバコに汚染されてナイトゴーントとドールが激減し始めた。
苦情を言おうにもヒロキはログアウトしてしまっており連絡が付かない。
「ドールを増やせるか?」
「新たに作るのは難しいっすね。やっぱこの増加方法失敗じゃねぇっすか? そりゃまぁゲームとしちゃゲーム内で勝手に増える以外に増援できないってのは駆逐や絶滅イベントができるし、やりがいになりますけども、こういう時は運営側が増やせるようにしとくべきだったんじゃ?」
「社長が却下したんだ、諦めろ。リアル寄りにするのはいいけど、こんなとこまで頑固にならなくていいだろうに。どこかからドール持ってこれないか?」
「もう一種類のドールなら」
「あとはドールの星とかから引っ張ってくるしかないですね。ヌグ=ソスたちの故郷から引っ張ってきます? ドリームランド産よりも狂暴で強いですけど」
「歯ごたえ位有ってもいいだろう。それを使うぞ。あとは……ドールという名前のもん片っ端からもってこよう。そのくらいやって行かないとイベントにならん!」
「ヒロキたちが今回敵に回るからなぁ。隔絶したコトリさんをどう封殺するかが問題なんだよな」
「いや、コトリさんだけじゃないって、ルルルルーアさんとか下手すりゃドール完封しちまうぞ」
「くそぉ、何でヒロキのテイムキャラたちはここまで無双してるんだっ」
「あいつまた変なのテイムしてただろ。影女? まぁそこまで強くはない、か?」
「いや、ヒロキだぞ。幸運スキルのせいでなんかよくわからない化学反応してヤバいの産まれるに決まってる!」
まだ、数名のテイムキャラはまだ強化されてはいない。しかし次々にテイムしていく彼は、運営にとって恐怖以外なんでもなかった。
何しろテイムしたキャラの情報を仕入れてドール討伐に関わる致命的なスキルを持っていないかなどを吟味して難易度調整を行わないといけないのだ。
せっかく調整が終ってもそのたびにヒロキが新しいテイムキャラを増やすせいでまた調整の繰り返し、おかげで二週間くらいの間を開けた後で次のイベント、を画策していた運営はイベント延期せざるを得ず、こんな時期までずるずると遅れてしまったのである。
つまり、まぁ全部ヒロキが悪い。
しかも時間をかける程にヒロキのやらかしのせいで次々とイベントが潰されていく。
なぜかわからないが別のエンドコンテンツまで起動しそうになっているし、運営の苦労は留まることを知らないのである。
「ふう、ふふふ、あははは! あはははははははは」
「室長、アイテム担当が壊れました!」
「外に放り出せ! 一時間休憩して来い!」
「おら、休憩行ってこい!」
「室長、AI担当が吐きました!」
「医務室送りだ! クソ、負担が大きすぎたか!」
「ヒロキが、ヒロキがあぁぁぁ!!」
「え、エネミー担当錯乱!」
「室長、トイレに死体、いえ、一時間前に行方不明になってたイベント補助担当が!」
「臨時職員交代! 全員一時間休憩しろーっ!!」
もはや運営は死屍累々だった。
一時間程度の休憩ではどうにもならない、しかし休ませないと通常可動も怪しいくらいに疲弊している。
夜間部との引継ぎが終れば解放されるはずだが、終わってからも家で考え続ける彼らは真面目過ぎるがゆえに絶命寸前ともいえるブラック運営になっていた。
それもこれもヒロキがイベントを次々粉砕していくせいである。
イベントクリア、イベント発見は運営にとってもやってほしいことではある。だが今ではない、今ではないのだ。




