1034.地下世界は呪いで充ちた
「どうぞ、どうぞ」
コトリさんが張り切っていらっしゃる。
裾からコトリバコを出してはメンバーに配る。
皆は苦笑いでコトリバコを受け取り適当な場所に設置。
さっきからこの繰り返しである。
現在トォーク山脈中腹。
上の方までは行く必要もないのでこの辺りまででいいかな。
回廊の方は猫たちが設置してくれたので俺たちはこの辺りからコトリバコを投げる作業に入っていた。
とりあえず力いっぱい投げて山頂付近に出来るだけ届ける。
あるいは転がってナスの谷へ。
呪殺対象はナイトゴーントとドール。二つに絞ってあるので万が一この呪詛で被害を被ることは……ないと思うんだけど、コトリさんすでにハッカイ越えちゃってるから呪詛が漏れちゃう可能性は否定できない。
ま、そん時はそん時だ。全部ノーデンスが悪いってことで許せ。
「ん? おいヒロキ、なんか来るぞ!」
「未知なるモノさん? なんかってな……あ。走る者だ。おーい、こんちゃー。もしよかったらなんすけどナイトゴーントとドールを呪う箱、適当な場所に設置するの手伝ってくれません」
「あぐぁっ」
喉を鳴らすような音が聞こえたのでコトリさんが出せるだけのコトリバコを出す。するとトップスピードのまま走る者は俺たちのすぐ傍を通過し、コトリバコだけをかっさらって去って行った。
「ありがとうございまーっす!」
確か歌とか好きなんだったよな。誰か歌うまの人に歌って貰いたいところだが、走る者さんに何かしらのお礼、したいなぁ。
「え、あれって協力してくれたのか?」
「でも返事したうえにコトリバコだけ持ってったんだし、適当な場所に設置してくれるみたいだよ」
「ヒロキ、お前たまに意味不明な知り合い作るよな。なんなのその知人チート?」
「いや、別にチートじゃないっしょ。俺なんて引きこもりのニートですし、現実の知人なんてほとんどいないっすよ」
ゲームだけなんだよなぁ知り合いが増えるの。
しかも人外ばっか。
変な臭いでもしてんだろうか俺のアバター?
まぁ今は良い知り合いばっかりだから問題はないな。
これでクソみたいな知り合いばっかりだったら全身丸洗いすべきだろうけども。
「さて、ある程度はコトリバコ設置できたし、ノーデンス神殿でドリームランドからログアウトしようか」
「ああ、あそこで現実世界に戻るあるか」
「ささやくものの都市でもいいけど、レイレイさんあんな場所で寝れる?」
「ノーデンス神殿でお願いするある」
「やりすぎなの」
「なんか視界に一つは必ずコトリバコ見える気がするんだけど……」
「なぁ、案内人、コトリバコ何個設置した?」
「さすがに、100個から先は数えてないです」
「俺もだ。まぁ30くらいから数えちゃいねぇけど、体感十倍くらい投げた気がする」
「コトリさんを本気にさせたらヤバいですね」
「ンなもん第三回イベントの時から分かってただろ。コトリさんどれだけ戦ったと思ってんだ」
七回死ねるからなぁコトリさん。
しかも死ぬ度に強くなるという副次効果付き。
「あの時は限られたフィールド内だったからまだマシだったが、考えて見ろよ案内人、地球の裏側でコトリさんがリンフォン造り出したら、一体誰が止められると思う?」
「うわぁ、確かに、地球の裏側じゃなくとも隠れていつの間にか完成されただけで世界が終って皆ゲームオーバーになるのか。え、コトリさん実はエンドコンテンツ?」
「あらまぁ」
「まぁ最初からコトリさんボス扱いだったし」
「現状一番強いのもコトリさんだしねぇ」
「まだ強くなる下地があるってのが凄いよな。そういえばヒロキ、コトリの強化はできそうか?」
「ぼちぼちだね。やろうと思えばできるけど、アバター消失危機があるからなぁ、その危険性が二の足踏ませてんだよな。なんとか別の方法で強化出来ればいいんだけど。サユキさんのダークマターでワンチャンならない?」
「アレはアレで一つの要素になるわよ? でも決定的な強化にはならないかしら」
そうかぁ、アレ一つじゃ強化にすらならないのか。でもコトリさんでもアレ食べたら毒になるんだよね?
「ええ、死にますわ」
つまり、サユキさんの料理が最強ということか。
「さー、ノーデンス神殿に戻って来たぜ」
「あーっ! あちしのサインが上書きされてるーっ!!」
「ノーデンスがわざわざやってきて上書きしたみたいね。しかも上書き禁止にされてる」
「ふーんだ。いいもんねー、真下と真上に書いてやる!」
「意地だな」
ニャルさんが人形型だと面倒だ、とわざわざ形を変化させて落書きを始める。
ノーデンス神殿にニャルラトホテプの印が書き込まれ……あ、落雷。
「みぎゃーっ」
「分かってたことだろーに」
とりあえず、ニャルさんの印のおかげで俺たちもノーデンス神殿に入れるようなのでゲーム世界戻ってからログアウトするか。




