1025.狸を狙うモノ
ぽんぽこ寺に来てしばし、俺たちは周囲を警戒して待っていた。
狸の生還者が居た訳だし、敵がいるなら来ると思うんだけど……来た!
虫のざわめきが途絶えた。
無音の中に確かに何かの異音が混じる。
全員が円陣を組んで警戒態勢。
っ! そっちだルルルルーアさん! 神聖魔法!
「主よ、迷える子羊を救いたまえ! セイントクロス!」
十字の光が音のあった場所へと放出される。
これで悪霊共は瞬殺……?
音が、止まない?
「き、来ます」
「くぅーん……」
怯える狸を中心にして、円陣を回転して貰う。
俺が前面に向かって銃を引き抜きレーザーをいつでも打てる状態で待機。
果たして敵は……
「ぽこ」
それはあまりにも衝撃的なモノだった。
両目と口部分に大きな穴を空けた人型生物。
楕円形の顔に細い体躯。
人と比べれば手も足も胴も長く、俺を見つけた瞬間顔を時計回りにくるりと一回転。さらに困惑したように逆回転して元に戻ると、長い指先で頬を掻く。
「妖怪、じゃねぇーっ!?」
「ぽこぽこぽぽこ、ぽここぽこ?」
泡でも吐き出すような声が聞こえる。
そしてその生物の背後から同じ生物が一匹、二匹。
結構出て来た!? 十匹は居るぞ!?
「目的は狸じゃ!」
「何しに来たか知らんが。やらせはせん、やらせはせんぞー、ってな!」
「ぽこぉーーーーっ!!」
一体が声を張り上げる。
すると、十二体の謎生物が一斉に駆けだした。
「全員戦闘開始! とにかくぶっ倒せ!!」
鑑定発動! 名前は……種別宇宙人、ポコロット星人!
妖怪でも悪霊でもなく宇宙人じゃねぇか!?
物質系なら問題無し、とレーザーで打ち抜く。
眼窩の穴を打ち抜いたのだが、屈折したのか逆の眼から飛び出すレーザー。
「にょあぁ!? あっぶないじゃろがヒロキ! 今ちょっと狐耳焦げたのじゃ!」
「ごっめぇん!? 気を付けろ皆、あの穴狙ったら屈折されて跳ね返された!」
「なら顔を狙うのは無しじゃ!」
「アイスアローっ」
「ピュィァーッ!!」
ローリィさんのアイスアローが敵を一体貫いた。
さらに光の速度で突撃したシマエさんによりポコロット星人に風穴が空く。
「癒しを!」
そしてルルルルーアが敵を回復し始める。
ってぇぇ!? 何してんのルルルルーアさん!?
敵もいきなり回復されて戸惑ってるじゃん!?
「ぽ。こぉ? ぼごるぉッ」
が、俺の驚きを無視して回復し続けるルルルルーアさん。やがて相手の体が膨れ出し、十二体居たポコロット星人全員がその場で爆発四散した。
え、えげつねぇ!?
「ふふ、回復職が戦えないなんて誰が言いましたか? 私だってやれますよ救世主様!」
やれるというか殺れるというか。このメンバーで一番攻撃力と殺傷力が高いよルルルルーアさん。
「とりあえず、追加はねぇな」
「どうするんじゃ?」
「そりゃもう、来た道分かったんならその先にあるだろ。新しい別荘が!」
「あ、この人またUFO奪う気だ……」
「狸さんの救出もお忘れなくですよー」
「そっちはルルルルーアさんに任せるよ。傷ついてるようなら癒してやってくれ」
「当然です救世主様!」
ドロップアイテムを拾って、俺たちはポコロット星人たちがやってきた方角の森へと歩を進めていく。
さて、何が出るかな。普通なら蛇が出るかとかいうんだろうけど、この場合は狸がでるかポコがでるか、だな。
「ポコ」
うん。出てくるのはやっぱポコだよねー。
多分狸捕まってるんだろうし。
「癒しを!」
って、攻撃する前にルルルルーアさんが!
「ぽころぶぁっ」
この攻撃、弾け飛んだポコロット星人の霧雨が周囲に降るからいろんな意味でえげつないんだよな。
もうちょっとリアルさ無くして貰えませんかね?
「この調子でいきましょう! 役に立ちますよーっ」
ルルルルーアさん、俺の役に立ててるってことで凄くやる気に充ちている。
でも、どう考えてもやり過ぎなんだよな。
「あ、ヒロキさん、あれちゃう?」
「なんで狸の顔型UFO?」
「意外と可愛らしいの出て来たわね。ちょっと、欲しいかも」
ローリィさんああいうの好きなの?
まぁ女の子受けしそうなメルヘンチックなUFOだけども。
「ぽころ?」
「ぽこぽこ」
UFO周辺には四体のポコロット星人。
当然、ルルルルーアさんによる回復魔法により、音もなく爆散した。
暗殺技として卓越しすぎてやがる。
回復魔法だから避けるのも難しいし、解除も難しい。攻撃なら防げるけど治すためのものだから対処方法は回復魔法がかかってる間自傷し続けるしか生還の道がないってのがね。それを把握して実行できる奴がどれだけいるか。
多分俺たちの中でも気付ける前に爆散してる奴の方が多いだろう。




