1023.サユキさんの厄落とし5
「んで、次に来たのはここ?」
「おう、ここのはずだ」
それは神社ではあるがかなり小さな社であり、町中の一角に赤い鳥居のすぐ後ろに本殿と賽銭箱が置かれた場所だった。
「のぅ、なんかここ本当に神社かの? バイク大明神とか書かれとるんじゃが」
のぼりのようなものにでかでかとバイク大明神と書かれてる。
トンカラトンさんとか祀られてるんだろうか? あ、いや、なんか出て来たぞ。
ぽわぽわーっと靄が本殿から吹き出してきて、俺たちの前に形をとる。
大型バイクに乗った大柄の天狗様。バイカールックに赤い顔、長い鼻はかなりシュールだ。
「我が神社に御用かな! 稲荷神が尋ねてくるとは珍しい」
「お、おおぅ。バイクもまた赤が基調なんじゃな」
結構カッコイイバイクだな。バイクの機種とかよくわからんが、ゴツくてカッコイイバイクに乗っておられる。
「ここはバイク神社だからだ。それで、バイクもなしに我が神社に来た理由は何か?」
「猿田彦神社から厄落としに紹介されたんすけど。ここ行ってみたらどうだって。あと御朱印巡りっす」
「ほぅ、ではこちらの御朱印を」
御朱印のハンコがバイクになってんじゃん!?
「ちなみにこちらの人の厄落としなんすけど」
「ふむ? 厄などないようだが? まぁやるだけはやっておこうか。それで満足するのだろう?」
なんか呪文を唱えだす天狗様。って、その呪文変だぞ、日本のバイク製造会社の名前入ってないか?
「呵ァーーーーっ!!」
声デカっ!?
厄落としだろうけど、掛けられたサユキさんがぴゃっと驚き一センチくらい浮いた気がする。
「うむ。これでよかろう」
「ちなみに他に厄落としできそうな神社とか知ってます?」
「ふむ、神に別の神の神社を聞くか。それもまた良し。では我からはこちらの神社を紹介しよう」
なんかわらしべ長者みたいになってきたぞ。
今日中に神社回りきれるかな。次のとこ寺だし、寺まで向かう場所に指定され出すと今日中じゃ終わらない……まさか、本当にそうなのか!? まだ、まだ行くべきではないというのか大学七不思議!?
「トンカラトンと言えぇ!!」
「トンカラトンっ! って、ええぇ!?」
皆が思わずトンカラトン。と告げて俺たちは振り向いた。
そこにはトンカラトンさんが一人。バイクに乗っていた。
「よぉ、バイク大明神。定期周回だ。おらよ!」
と五円玉を投げ渡すトンカラトンさん。どうやらトンカラトンさんもバイク大明神に祈願するらしい。それでいいのか怪異さん。
「バイクに関わる怪異や妖怪なども我が神社によく来るぞ。この前は首無しライダーも来とったし、犬頭のバイカーもよく来る」
「へー」
「最近は、モヒカンの四人組も来とったな」
あいつらもここ参りに来てたのか。
よくこんな小さい神社に気付けたな。まぁのぼりの自己主張のおかげか。
「トンカラトンさんも神社参りするんすね」
「あぁん? 俺がやったらダメなのか? いいか、別にバイクで事故ることにゃ気にしてねぇんだ、俺としちゃバイクで風になりてぇ時、とにかくかっ飛ばしてぇとき。レッドゾーンの向こう側に向かいてぇとき。やりてぇことをやれる生活がしてぇだけだ。そういう祈願って奴だ」
「な、なるほど。トラックとぶつかるとかそういうのを回避したいわけじゃないんすね?」
「おうよ。まぁやりてぇことやってるときに限ってトラック共はぶつかって来るんだけどな。ああいう横やりがはいらねぇようそこの赤鼻に祈るのさ」
理由は普通の人と違うけど、そういう祈願もありなのか。
「んじゃなヒロキ。ちょいと首都高かっ飛ばしてくるわ」
「あの辺り100キロ婆さんいるんじゃないすか」
「なかなかいい競争相手だぜ? あのババァと首無しライダー。あと追い抜き峠の馬車はすげぇ」
「そんなのあるんすか」
追い抜き峠。昔の霊ほど速度が上がるらしく、一般的な車、高級車、レーシングカー、鉄の車、お貴族様の馬車、人力籠車、武家の馬車、美豆良頭の単騎駆け、Tレックスと言った感じの幽霊たちが日々しのぎを削って来るんだそうだ。なんだその危険な峠は?
「バイク移動もなかなかオツだぜぇヒロキ。一台買ったらどうだ?」
「まぁドール討伐終わった後なら、考えてもいいっすね」
「あー、そういやそんなもんがあったな。当然。俺らも呼ぶんだろうな?」
「お祭りですし、参加しますよね?」
「当然だ! 連絡待ってっからよ! じゃな」
トンカラトンさん、相変わらず急に現れて急に去ってくなぁ。
「おおそうだ。ヒロキだったか、せっかくなので良いバイクに出会える加護をやろう」
え、それいらない。
俺バイク乗ったことねぇってば。免許ないのに乗れねぇよ?
あ、マジで加護貰ってる……どうすんだコレ?




