1017.巻き込まれた都市伝説6
敵はバニーマン。
マイノグーラさんの蹴りで吹っ飛ばされたものの、手に持った斧を取り落とすことなく、ゆらり、立ち上がる。
「シャー!」
シーサーペントとなったツチノコさんが威嚇と共に口から水流を吐き出す。
ぶち当たるけど、威力的なモノはあまりないようで、着ぐるみをずぶ濡れにして血糊を洗い流しただけだった。余計不気味になったんですが?
「排除しマす!」
バニーマンへと腕をマシンガンにして射撃を始めるエルエさん。
うっわ、一撃ごとに血が噴き出して仰け反るの怖っ。
しかもそれでも前進してくるとか、どうなってんだよ!?
「おいヒロキ、これテケテケたちのように恐怖による無敵状態になってないか!?」
首をくっつけ直してマイノグーラさんが叫ぶ。
いや、恐怖状態って、プレイヤー俺だけしかいないんですけど!?
しかも戦闘状態だから恐怖よりもぶっ倒すという思いが優先されている。
「ちょっと待て、スキルの詳細鑑定する! しばらく相手よろしく!」
「軽く言ってくれるなヒロキ!」
「エルエさんの牽制だけでもかなり時間稼ぎなってるだろ、そこにちょっと手伝うだけじゃん」
ぶつくさ言いながらもテインさんたちが牽制を始めてくれる。
バニーマンのスキルは……縮地に暗殺、似たようなスキルがいくつかあるが、死なないなんてスキルはねぇぞ?
いや、待て……こいつHPがマイナスになってんじゃん!?
「キマリスさん、こいつHPマイナス入ってるんだけど、こんな状況知ってる? アンデットでもマイナス行かないよな?」
「うえ!? ここでボクに聞く!?」
「HPがマイナスですか。お父様の眷属には結構いるんですけどね……あれはどう見てもそういう関係じゃないですし、なんでしょう?」
「ここも特殊な場所だし、バグってんじゃねぇか?」
マイノグーラさんの説が一番それっぽいけど、あの運営共がこんな場所放置しとくとは思えないんだよなぁ。つまり、都市伝説の中の一つで、あいつが死んでないのも何かしら理由があると思うんだが。
いや、待てよ。アイツの問題じゃないと発想を変えれば……この町の特性か!
しかしそれだと証明方法がないし、あまり時間をかけると万が一が起こりかねない。
となると、方法としては、あいつの猛攻潜り抜けて脱出方法を探すのが一般的だな。
あとはあいつを殺人鬼から別のモノに変えて無害化させるとか。
無害化になるかどうかわからんが、トンカラトンのアニキ呼ぶとか、アリかもしれん。
いや、相手一人だし呼んだら俺殺しに来るかも。
それじゃ使えないよな。他に方法は……やって、みるか?
「エルエさん撃ち方止め! あいつを拘束してくれ!」
「お、なんかいい方法見つけたか?」
「バニーマンという危険生物から別のモノにする。拘束頼んだ!」
と、動き出すのはクティーラさんとスキュラさん。
タコ触手を放出して上半身と下半身を同時に拘束してみせる。
斧を振るう腕こそ止めきれなかったが斧自体に触手を巻きつけ固定する。
「上出来!」
すぐに駆け寄った俺は、アイテムボックスからそれを取り出した。
思いきりバニーマンのどてっぱら向けて針を押し込み、シリンダーのツマミを思いきり押し込んでいく。
悲鳴とも断末魔ともつかない声が轟いた。
「何やったの!?」
「っと、あっぶね、スキュラさん、今触手千切れ飛んだぞ!?」
ものすごい動きで斧を振って来たバニーマン。俺の真上を斧が通過してちょっと焦った。
まさか触手引きちぎって動き出すとか思わんよ。
アレを打ち込まれたバニーマンが苦しみもがく。
ついには斧を取り落とし、触手に縛られたままぶるぶると震えだす。
もういいぞ二人とも、バニーマンから離れてくれ、どんな変化するかわからんし。
触手から解放されたバニーマンがその場に悶える。
俺たちは遠巻きに離れて様子を伺うことにした。
バニーマンの着ぐるみ内で何かが起こっているようで、どたんばたんっと激しくのたうつ。
やがて弓ぞりになった着ぐるみが、一瞬にして全身の力を抜いた。
終わった……のか?
そして、ゆらり、起き上がる。
じぃぃっと背中のジッパーが開かれて行き、バニーマンの中に存在していたモノが蠢きだす。
着ぐるみがぱさりと落とされ、ソレは産声を上げるかのように空へと飛び立った。
そう、空を翔るモノ。あるいは、風に乗りて歩む者。
ヤバい注射器を打ち込ませて貰ったぜ!
空へと走り出したソレは、着ぐるみという楔から解き放たれ、風にさすらう旅人となったのである。
人食いのバケモノになったけど、まぁ問題はないな。イタクァの神格以上の存在が近くに居れば寄ってこないし。テインさんとかマイノグーラさんがいるからもう寄ってはこないだろ。
「よし、これで安心して調べられるな」
さて、ここの特性というか、脱出法から何から調べさせていただこう!




