1016.巻き込まれた都市伝説5
「可愛い、可愛いよスキュラさんっ」
「うぅ、えぐっ、えぐっ……無理矢理、無理矢理食べさせたぁっ」
スキュラさんが泣いてしまった。
マイノグーラさんが無理矢理食べさせたから!
「おい、テメェがやれっつったじゃん!?」
「まさか本当にやるとは思わなかったんだよっ」
「うわぁ、外道」
「お嬢様、やはり考え直しませんか? こいつ絶対イカレてますよ」
「だからこそ面白そうじゃない?」
スキュラさんが泣き止まないので、俺たちは必死になだめすかす。
幸いにもスキュラさんは体が青白くなったくらいでそこまでの変化は……犬たちがなんか毛がなくなって鱗チックな体になってるけど、スキュラさん自体の容姿には変化はないから多分大丈夫。
「そろそろ帰ろうぜ」
「そうだな。目的達成したし、来たいときはいつでも来られるみたいだからいったん帰るか」
「ほら、スキュラ悪かったって。お詫びにオレの肉片やっから」
「それまた変な進化するぅ」
マイノグーラさんスキュラさんで遊ばないでくれる?
ほら、スキュラさん行こう。家でゆっくりしよ、な?
「うん、行くぅ」
あまりの衝撃で幼児退行してるじゃないか!?
これはさすがに重症だ。
自宅に戻った方がよさそうだな。
「クティーラさん、こちらに」
「ええ。じゃ村永、お兄様たちによろしく」
「伝えますけどどうなっても知りませんよ?」
「あの三人が来てもヒロキたちなら大丈夫でしょう」
何の話?
「おし、じゃあヒロキの家前タップでいいな。先行くぞ」
だぬさんが我先にとタップ、その場から一瞬で消え去った。
「ほぅ!」
キラン、と村永さんの眼鏡が光る。
そんな彼の動きに気付かず、フェノメノンマスクとリテアさんも拠点移動してしまう。
皆が集まって来たのを確認し、俺も拠点移動をタップ。
村永さんに「それじゃ、またいつか」とだけ告げて一瞬で移動した。
……
…………
……………………
どこよここ?
「おいヒロキ、なんだここ? お前どこ押した?」
「いや、ちゃんと自宅タップしたぞ? バグか?」
「ふむ……先に消えただぬたちは来てない。ヒロキとテイムしたキャラだけだな」
そう、今いるのはキマリスさん、エルエさん、マイノグーラさん、テインさん、スキュラさん、ツチノコ1号さん、クティーラさんだけである。
一応人数確認をして全員いるかだけは確認しておく。
「ここ、どこだ?」
目の前に映っているのはどこかの商店街、の跡地だ。
物悲しい雰囲気が漂う無音の町。
人は存在せず建物もどこか作り物めいた感じがする。
「あー、これアレかな。どこかの駅に囲まれた三角地帯でたまに起こる異世界転移現象。これが起こると元の世界に戻ったのか似た世界に移動したのかよくわからない状態になる、みたいな噂あったな」
「ふむ、つまりまた都市伝説系に巻き込まれた訳か」
「マジかー。的中率高すぎじゃねぇか? 幸運さん、仕事してる?」
「どうするヒロキー。元に戻れたと思ったらハナコさんのいない世界だったりしたら」
「元の世界戻るに決まってんだろ。例外はない、絶対だ」
「根拠ねぇな!?」
「ハナコさん、ねぇ。私のライバルみたいな話を聞いてるけど、どういう方なの?」
クティーラさんの言葉にエルエさんとテインさんが紹介を始める。
さて、そんじゃ現状把握だ。キマリスさん、どんな感じ?
「うーん、転移魔法などの魔法が使われてる気配はないよ。同じく魔道具が使われてる気配もない。完全に魔術や魔族は関係ない奴だね」
「都市伝説系だからなぁ、魔力とかは関係ないかと」
そっか、じゃあ脱出方法は手探り状態な……
ふと、顔をあげた時だった。
視界の片隅に、ソレはいた。
一瞬だけだったので最初はスルー。
しかしまさかな? と視線を戻した時、それは一切動く気配なく、確実に近づいていた。
白いウサギの着ぐるみを着た、斧を携えた生物。
なぜか赤い飛沫が体に付着しており、斧からは赤い雫が滴っている。
見間違い?
眼をこすってみれば、視界が塞がり、視界にソレが映るたびに歩くことなく近づいていた。
ヤバい、これ殺害系都市伝説だ。
眼をこするのを止めた時、そいつは斧を振り上げ、全く気付いてない彼女へと、斧を振り下ろすところだった。
「敵だっ!!」
危ない、とか、逃げろ、とか言えなかった。
とっさに口から出たのは、その三文字。テキダ、だけだった。
テインさんとクティーラさんがすぐに気付いてバックステップ。
しかし、反応出来なかった彼女の首が宙を舞う。
「マイノグーラさん!」
「やったなテメェ!!」
空中を生首が放物線描きながら叫ぶ。
首を無くしたマイノグーラさんの体が背後にいたウサギの着ぐるみに裏拳、肘打ち、回し蹴り。
「何だこいつ!?」
「ヒロキ、鑑定!」
「お、おう!」
テインさんに言われて慌てて鑑定。
敵対生物はクラス都市伝説、名称は、バニー・マン。
首斬られたのがマイノグーラさんでマジ良かったよ、あの人首無くても生きてられるからな。




