1013.クトゥルフの娘
「失礼、お邪魔するよ」
そこは先ほどまでの賑やかな施設とは違い、一切の音がない冷たく質素な場所だった。
二階からまさかの地下一階へ。
どうやらこの辺りは倉庫とか物置が多いようで人というか生命体がそもそもいない区画のようだ。
「おや、村永さん、こんな場所に来るとは珍しいですね。しかもお客さん?」
どうやら管理者が居たらしい。
その姿を見た瞬間、俺は理解した。
タコ系美少女もアリだ!
「テイムさせて貰っていいですかっ!!」
「ふぇ?」
紺色のゴシックロリータ服を身に着け、目玉がタコ型で眼鏡を掛けている、タコの眼リボンとでも呼べばいいのか、頭に装飾品を身に着けた美少女を見た瞬間、俺は思わず声を出していた。
「おや。クティーラさん、知り合いで?」
「いいえ? どちら様?」
そうだよ、クトゥルフと言えば秘匿されし姫様がいるよな! いるよなぁ!! クトゥルフの娘、クティーラさん! またの名を翼ある蛸!
テイム、させて貰っていいかなぁ!!
きつい目元にタコの眼少女。樽の一つに座って足をプラプラさせながらネクロノミコンと思しきものを読んでいた彼女は、俺の剣幕にちょっと引き気味だ。
「ああ、すみません。なんか一目見た瞬間貴女が欲しいと思ってしまいました、落ち着きますので少々お待ちください」
「あ、はい……」
「ヒロキさん暴走してる?」
「ヒロキの奴、多分ハナコさんにもあんな感じで迫ったんだろうな」
「つまり、クティーラってキャラはヒロキさんのストライクゾーンど真ん中だった訳か」
いやー、ハナコさん以来久々にズキューンっと来たわ。
ラベンダーピンクの綺麗なスーパーロングをハーフツインにしているクティーラさん。髪を縛っているリボンがかなり冒涜的なアレだけど、まぁそこは問題無し。
実にいい。俺好みです!
「あのーヒロキさん? ウチの姫にこなかけるのやめてくれません? クトゥルフ様の実の娘なので、私にとっては上司の娘なんですよね。徹底的に近づいてくる羽虫は潰せと言われてまして」
「まぁ待て村永さん。俺は別にクティーラさん彼女にしたいとか結婚を前提に付き合いたいとかそう言ってるわけじゃないんだ」
「え、そうなの?」
「そうっす! 俺は貴女と一緒に冒険したり楽しいイベントに参加したりしたいと、つまりテイムされてください、それに尽きます!」
「うーわー、気持ち悪いですねー」
「ヒロキの悪い部分が全部出てるな」
「おかしいわね。私もあのクティーラもタコ系女性という系統ならほぼ一緒じゃない? この差は何かしら?」
「御主人なので、諦めテ」
皆言いたい放題だな。
だが、俺は決めたんだ。
ここまで来たら、アレしかない!
クティーラさんを前にして、俺は両手をばっと挙げる。
なんだ!? と身構えるクティーラさんと村永。
そんな二人を無視するように、膝を折り、床に付け、上半身を床へと向ける。
すなわち、DO・GE・ZA、である。
「クティーラさん、俺にテイムされてくださいっ!!」
「ええぇ!?」
「き、キミ、プライドはないのか!? いきなり土下座って!?」
「俺たちと冒険してください! お願いしますっ」
「すっげぇ。見事な土下座だ」
「しゃー……」
「やり慣れてやがる……」
俺の全ての力を使わせて貰うぜ。幸運さん、ここが力の使いどころだぜ!!
「う、うーん」
「姫、いけません、いけませんよ! さすがにそれはいけま「よし、決めた!」」
―― クティーラをテイムした! うっそだろこいつマジでやりやがった!? ――
天の声が振ってきて思わず俺は顔をあげる。
ちょっと気恥しそうに頬を掻くクティーラさんがそこにいた。
「いやー、辛気臭い場所ばっかで嫌気差してたのよね。たまには、そう、たまには外に出るのもアリかなって。100年くらい外出しても問題ないでしょ、村永?」
「な、なんということを!? たかが人間の一人にテイムされてしまうなど、姫ぇ!?」
「ま、テイムキャラの中にティンダロスの王とかマイノグーラとかいるみたいだし、面白そうだからついていったげる。クトゥルフの娘、クティーラよ、よろしく」
お、おおおおおっ!!
「ヒロキが、感動してる……」
「ハナコさんのライバル出現ね」
「クティーラだし、魔法少女になったりするのかしら?」
何の話?
「って、そうだった。おい村永、結局ここに来たのは何のためだったんだ?」
俺が話の腰折ってたな。悪い皆、あまりにも見過ごせないキャラを見つけてしまってついテイムされて貰っちまった。
「あ、ああ……古代兵器などを見せようかと、思ったのだが、やはりこんな奴に見せる必要は……」
なんか村永さんから殺意にも似た敵意がビシビシこっちに来るんだけど、俺なんかしちゃいました?




