1011.海底都市ルルイエ
「んで、あんたら一体何しに来たんだ?」
「いあーいあーっ」
それ鳴き声にしちゃうんだ。
漁村のおっちゃんっぽいアトランティス人とクトゥルフの奴隷のおっちゃん? が気さくに聞いてくる。
アトランティス人は手が長いな。膝元まで伸びてるし、指関節もかなり長い。
浅黒いおっちゃんに、俺たちはアトランティス探索に来たことを告げる。
エルエさんたちの強化に繋がりそうな古代機械とか扱ってるとこないかって聞いてみると、二人してこそこそっと話し合う。
「だな。そういうことならまず神官様のとこ行くべきだぞ」
「いあ いあ くとぅるふ るるいえ むがむが くてぃーら ふたぐん」
お、なんか新しい言葉吐いたぞ、むがむがってなんだ? 実際のクトゥルフ神話には出てないから運営が勝手に追加しやがったな。おそらく意味はほぼあるまい。
「どうやら下手に移動して周囲を探索するよりも神官というのがいる場所に向かった方がよさそうだな」
「そう、っぽいな。だぬさん時間ある?」
「まぁ長くなりそうなら先に抜けるよ、マズそうなら体だけでも持ってってくれや」
「オッサンを背負えとな」
「絶対に御免だが」
「そうなったらぽちに運ばせるから大丈夫よ。ちょっと引きずるかもしれないけど」
「俺の扱い酷くねぇ?」
「ボクの同胞見つけた、ト・モ・ダ・チ?」
「うるせぇ、ピエロのダチなんざいらんわっ」
「ひどい!?」
キマリスさんがせっかく友達認定してくれたのに、可哀想に。
「んじゃ、神官さんとやらに会いに行くか」
「あっちのでっかい建物がそうさ。クトゥルフって神が眠ってるらしい」
まった変なねじねじした建物が。なんすかあれ。タコの頭でも雑巾絞りしちゃったのか?
あー。違うな、全体的な形状は凸型の建物なんだが、突出した部分以外はこっからだと手前にある家に阻まれて見えていなかったようだ。
「きーつけてなー」
「いーあーっ」
いーあーじゃねぇよ、なんかもういあいあ言ってるだけで言語みたいになってんじゃねーか。せめてそれっぽい言語作れよ運営。いあいあは鳴き声じゃねぇんだよ!
運営の手抜きに心の中で悪態付きながら、俺たちは神官のいるらしい場所へと向かう。
ここの場合神はクトゥルフだからクトゥルフの神官ってことになるんだよな?
マイノグーラさんいるし、その子孫であるテインさんもいるし、一応お仲間ってことで……ん? ティンダロスの猟犬って確かマイノグーラさんとシュブニグラスの子供だったよな?
マイノグーラさん女の子だろ。シュブニグラスも母と呼ばれてるし、女性だよな?
子供、出来るの?
「ん? ンだよヒロキ、なんか用か?」
「私とマイノグーラを交互に見てどうした?」
ま、まぁこれはあくまでもゲーム世界だしな。うん、なんかこう、そのとき、不思議なことが起こった! みたいなことがあったんだろう。うん。深く考えちゃダメな奴だこれ。
かぶりを振って意識を別の方へと持っていく間に、俺たちは神殿と思われる場所に辿り着く。
うん、まぁ、意味不明な建物なのは分かってたよ。
これが噂の形容しがたいモノ、なんだろう。よくゲームとはいえ再現できたな。
「っていうか、ここって……」
神殿内に入ってすぐ、俺たちはここが何かを理解する。
ここ、ルルイエの市役所だわ。
多種に渡る種族が訪れており、婚約証明書やら離婚証明書やらを記入したりしているようだ。
「えぇー、なんかショック」
「種族が違うが、まんま地球の市役所だな」
「とりあえず暇してる職員に聞いてみよう」
「アイツなんてどうだ?」
フェノメノンマスクが指さしたのは、カウンターの前で暇そうにしている受付嬢。ただし人の姿ではなくクラゲのような頭と流線形の透明なフォルムに服を着せた人外さんだった。
「あのー、すいません」
「いあ!?」
あー、この人もクトゥルフの奴隷とかそんな奴か。
「あ、すいません。初めて見る方々でしたので、こちらの言語で聞き取れますか?」
「え、ええ。はい。聞き取れます」
話も出来るタイプかよ!?
とりあえず、今回ここに来た目的を伝えてみる。
神官さんとやらに会えって言われたんですが、居ます?
「それでしたらあちらの通路を最奥まで向かった先にある階段で二階に上がっていただき、三つ目の右の部屋に向かってください」
案内は無しか。お役所仕事だな。
指示された場所へと向かい移動する。
結構広い施設だから歩くだけでも一苦労だ。
「三つ目の右の部屋、だったな。あれか」
階段を上った先に幾つものドア。
その一つにノックして入る。
えーっとここは……
「おや、お客さんかね」
部屋の中には、学校の校長室みたいな高そうな机と椅子が設置され、一人の男が立っていた。
スーツ姿に七三眼鏡。その男は眼鏡をクイッと上げて、こちらを見る。
「やあ初めまして、村永です」
なんか真面目そうな人出たーっ!?




