1010.忘れられし冒涜都市
「これ、多分だけどルルイエ語で書かれてるね」
オイ待て。沈没都市のアトランティスに来たらまさかの同じく沈没海底都市のルルイエが出てくるとか、嫌な予感しかしないよキマリスさん?
「魔法陣は転移装置デす」
つまり、これはルルイエ関連でエルダーサイン付きの転移装置である、と。
俺たちは思わず顔を見合わせる。
「どうすんだお前ら? 行くのか? 転移装置使って向こう側へ」
「まぁ目的としては行くべきなんだろうけど……」
やっぱりこの先に外の神案件が待ってると思うと二の足踏むよね。
ドリームランドだけでもお腹いっぱいだと思うんだけど、なんか行くとこ行くとこ外の神の影がちらついてる気がするんだよなぁ。
「とりあえず、俺は行くよ。リテアさんとフェノメノンマスクは?」
「そりゃここまで来たら行かない選択肢はねぇだろ」
「アトランティスにはぽちやエルエさんの強化パーツがあるはずって言ってたんでしょアインシュタイゼン博士は。この都市にはそういうの無かったし、おそらくこの先に行くのが正解だと思うわ」
ですよねー。
ほぼ確実に繋がってるイベントだよなぁ。
はぁ、行くか。
「覚悟は決まった。皆魔法陣の内側へ」
「んじゃー、ボクが呪文唱えるよー」
キマリスさん呪文分かるの? ああ、そこに書かれてるのか。
「いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」
でちゃったいあいあ。
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
それ、確かルルイエの館にて死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり、とかいう意味じゃなかったっけ? それが呪文なん?
「ふんぐるい ふんぐるい ふんぐるるるるる、るるるるるー」
キマリスさーん? ちょっとふざけてません?
って、魔法陣光った!? ふざけてたのはこの仕掛け作った運営だったか!?
俺が運営への叫びをあげるより早く、俺たちは光に包まれて意識を一瞬奪われる。
そして、光が消えた次の瞬間、不思議な活気ある多くの声が聞こえて来た。
先ほどまでと違って太陽の燦燦とした光を受け活気づく街並み。
普通の四角いビルや宮殿、王城、なんていった建物は一切ない。
目に見えるのは海藻が蔓延る、球体に三角形張り付かせたあと切り抜いたような建物や、二角形の建物などが立ち並ぶ意味不明な都市だった。
海底都市だからか、謎の粘液がそこかしこに飛び散っているし、決して綺麗な街という訳ではない。
しかし、光差すこの都市は、多くの人々が行き交っており、どう考えてもクトゥルフ関連のルルイエのイメージがわかない。
いや、わかない訳ではない。確か異常極まりない非ユークリッド幾何学的な外形の建物が多いとか。
ユークリッド幾何学ってなんですのん?
まぁ目の前にある変な三角形や二角形の建物のことだろう。
しばし周囲をぼーっと見ていると、町の人だろう、船乗り風のおっちゃんが俺たちの元にやって来た。
「珍しいね、君たちアトランティスから来たのかい。あっちは数千年前に移住したから誰もいなかっただろ」
「あー、その、えっと、ここ、どこです?」
「ああ、そこからかい。ここはルルイエ。古代アトランティス人たちの新しい生活拠点さ。まぁここに元々住んでたヤバいのと居住地関係でいろいろと戦ってね。今は良き隣人として隣り合って生活しているのさ。なぁ兄弟」
たまたま通りがかった太ったオッサンみたいな姿のドロドロとしたクリーチャーが迷惑そうにしているが、ご本人は全く気付いてないらしい。
「こいつぁクトゥルフの奴隷だ。こういう奴らがここルルイエには住んでてな、最初こそ戦争やってたらしいんだが、ウチの爺さんの代で戦争が空しい、と双方思い始めてたんだぜ。それで話し合いが始まって。互いに話せばわかると理解するや手を取り合って今に至るって寸法よ」
「ふんぐるい いあ いあ」
うん、何言ってるかわかんねぇ。多分運営もルルイエ語とか理解してないからふんぐるいかいあいあしか言わないタイプだろう。
「ルルイエかぁ。ってことはここにはもともとルルイエにいた生物とアトランティス人が一緒にいるってことか」
「あと魚人やムー大陸のムー人とかもいるぞ。ただ、一応伝えておくが路地裏の方には行くなよ、ダゴン崇拝者たちに拉致されるからよ」
お、おぅ、そっすか。
ダゴン崇拝者は敵みたいな存在と思っていいのだろうか?
俺は思わずテインさんに視線を向ける。
「私に聞かれても困る。さすがにルルイエは範囲外だ」
「こっちにも聞くなよ。海の中のこととかダゴンとかハイドラなんざ知ったこっちゃねぇからな」
マイノグーラさんも匙投げちゃってるよ。
まぁダゴン崇拝者には会わないようにすればいいんだな。
キマリスさん、お約束とか言って拉致されるなよ?
「ボクだけ扱いおかしくない!? なんで拉致される前提なのさ!」
だってキマリスさんだぞ。ふらふらーっと路地裏行って少年君たっけてーとか言っちゃう魔王だぞ。




