1003.猫と猫と猫の王
「ああいや、済まぬ」
俺たちを放置していたことに気付いたライザンさんが謝罪してくる。
どうやら今後の方針が決まったようだ。
話を聞いてみるに、ヒロインちゃんが彼を支えてダイエット道場を再開するようだ。
一応、俺からはケットシーに猫の王の許可貰う様に伝えた、と告げると、上手く行くかわからないが手伝ってくれたようでありがとう、と感謝までされてしまった。
まぁサユキさんがダイエット道場通ってもいいとか言ってたし、ローリィさんたち出不精組も運動させるのにちょうどいいので道場再建くらいは手伝ってもいいかなって思っている。
「うにゃーっ!!」
ん? 噂をすればケットシーが戻って来たらしい。
おー、どうだったけっと……マジかぁ。
数メートルの巨大な猫がケットシーの背後からぬおっと現れた。
「吾輩はにゃであるにゃ」
でっかい三毛猫は、俺たちの元へとやってくると、招き猫みたいな姿勢になって自己紹介。
頭の上に王冠乗ってるし、おそらくだけどこいつが猫の王だろう。
つまり、ここにケットシー、猫の忍者、そして猫の王が揃ったようだ。
「王よ、せっかく許可を頂き道場を立てたのだが、消え去ってしまった。ここにもう一度道場を立ててもよいだろうか?」
「話は聞いている、この地はお前に許可を出した。同じ場所であるならば好きにするにゃよい」
「じゃあ、ここに道場立て直すとして、木材とかってここら辺の木使っていいのか?」
「む? おお、ヒロキか! 話は聞いているぞ、ドリームランドでは大活躍だったそうだな。其方に猫の友の称号を送ろう」
え、いらないんだけど。
「あと、ここらの木は切り倒すのは不許可だにゃぁ」
ありゃ残念。ってことは木材入手から始めないとだめかぁ。
「あ、ヒロキ、それなら大丈夫。スプリガンに今のこと伝えたらスプリガン仲間に連絡取って各地から丈夫な木材持ってくるって」
え、沢山のスプリガンここに来るの!? それはそれでヤバいんですが。
「にゃ!? 我が森に複数の異物が来る気がするにゃ!」
「あのーそれスプリガンたちじゃないっすかね?」
と、叢に隠れて妖精さんを見守っているグラサン男を指さす。
「ぎにゃっ!? お、おおぅ。そんな場所にいたのかにゃ。あー、気配は似てるにゃー」
呆れたような顔をする猫の王。
ふむ、結構話の分かる王様っぽい、というか猫たちの王だから偉ぶったりはしてないみたいだな。基本のんびりだらりの王様っぽい。
「妖精たちのため、参上した!」
「このくらいでいいだろうか? 少ないか?」
そうこうしていれば、スプリガンの群れがやってきて、各々アイテムボックスか何かから切り倒した丸太を空地へと置いていく。
おい、空地が丸太で埋まったぞ。
「どの木材がいいかわからなかったからユグドラシルを斬って来た」
「俺はイヴィルトレントエインシャントだが、問題はあるか?」
「俺の地域には大したものがいなかったのでエルダートレントを群れで刈った」
「こっちはセフィロトの樹とクリフォトの樹だ、これでいいだろうか?」
「しまったな、ミストルテインでは見劣りするか? もう少し狩るべきだった……」
なんかヤバい樹木がいろいろ集まって来たんだが。
俺は妖精さんに無言の視線を送る。
妖精さんは下手な口笛吹きながら視線を逸らした。
「凄いにゃ。ここまで変わった木々のオンパレードは初めてだにゃー」
「芽里さん、ナスさん、これの裁断採寸お願いしていいっすか」
「良いけど、建築素材とか作ったこと無いわよ?」
「じゃあもうこんだけスプリガン居るし、ここに道場立てて貰うか」
「えーっとスプリガンたちー、ちょっとお願いしたんだけど、ライザンさんのダイエット道場ここに作りたいの、手伝ってくれる?」
「「「「「「「「「「まかせろ!」」」」」」」」」」
めっちゃ白い歯キラーンとしながらサムズアップするスプリガンの群れ。
妖精さん連れて来といてよかったというか、過剰戦力だったというか。
そもそも俺らが何かすることもなく、どの程度の大きさでどんな道場がいいかライザンさんがコンセプト告げただけでスプリガンたちが瞬く間に作り上げてしまった。
うん、もう、お前らだけで十分だったよ。
猫の王までドン引きしてたし。
「妖精の守護者、ヤバいにゃー」
「おや、そこにいるのは猫妖精のケットシーか! すまない、キミの守護は今までしていなかった、スプリガンの名折れだ!」
「ほにゃぁ!?」
そういやケットシーは猫の、妖精だったな。
つまり、スプリガンたちにとっては観察対象であり監視対象であり守護対象になるのか。
「ど、どどど、どうなるにゃ!?」
「ああ、安心しろケットシー。彼らの一人が、常に君の傍にいる。それだけのことさ」
「にゃん!? にゃんだってぇ!?」
四六時中。ずっとお傍で見ています。ドレッドヘアの黒人グラサン男が、ね。




