1000.道場破り
「ふぅーっ、ふぅーっ。よくぞここまでしがみ付いて来た! お前たちの運動量はかなりのモノになっているはずだ。願わくば毎日通ってダイエットして貰いたいが、今回は体験だ。今回の運動を個人個人で考え、続けるか辞めるか、決めるといい。儂はお前たちがまたここに集うことを願い、待っている! 以上、解散っ!!」
ダイエット道場が終った。
俺たちは報酬となる十種神宝を貰い受け、一旦他のNPCたちが居なくなるまで道場の片隅で時間を潰しておく。サユキさん、今のうちに続けるかどうか考え……え、無理? 毎日とか無理? 諦めるの早過ぎだろ。
「それでは、お疲れ様ですー」
次々に去っていくNPCたち。
残り三人程になった時だった。
「ここかぁ――――っ!!」
「なんにゃー!?」
お、ケットシー君が一番に反応し……おおぅ!?
入り口のドアを蹴り飛ばして押し入って来た男は、体中に猫をくっつけての御登場である。
ただ、もふもふ天国、という訳ではない。
猫たちは宿敵にでも出会ったかのように敵意バリバリで男の筋肉質な体に噛みつき、男はそれを意に介していない様子でやって来たのである。
ガジガジされているの、傍目に痛そうなんだけど。
「見つけたぜ! 俺の女を無理矢理拉致するとはいい度胸だ! テメェら全員タダで帰れると思うなよ!」
おお。これはまさか……
「おい猫」
「ちょっと失敗だったにゃ」
猫の忍者がお茶目っぽく告げるが、姿が見えないのでどんな顔してるかすらわからない。
しかし、この格闘家っぽい容姿のお兄さん、どうやらNPCっぽいんだよな。
となると、このイベントは運営が用意してたライザン道場用のイベントである可能性が高い。
「無事か!」
「え? いや、そのね……本田君、私は……」
「皆まで言わずとも分かっているさ! あいつを倒せばいいんだろう! 俺と勝負しろ!!」
「ふむ。道場破りという訳か。よかろう! 我が名はライザン、この道場の主である!!」
「俺は本田、本田悟郎だ!」
拳を突き上げ宣言する本田君。
暑苦しい上に、おそらく人の話半分くらい聞かないタイプの熱血漢だ。
絶対はた迷惑にやらかすタイプだろ。
現に、本田君のヒロインちゃんはかなり困惑気味だ。
おそらく彼がここに来た理由は俺たちと同じく彼女を取り戻すつもりなんだろう。
俺らは誤解だったと分かったけど、彼、話聞かずに拳振り上げたからなぁ。
ライザンさんもなんかやる気っぽいし。
「そこのヒロインちゃん、ちょっといい?」
「あ、はい。えーっと、どうなってるんです、これ?」
「キミの彼氏さんがチラシ見て拉致されたと勘違いしたんだろ」
「……彼氏じゃ、ないです」
……はい?
「あの人。私のクラスメイトなんですけど、そのー、凄く思い込みが激しくて。ちょっと仲良くしようと話しかけたら、俺の彼女扱いしてきて、ちょっと苦手で……」
うわー、これはストーカーとはまたちょっと毛色が違うけど凄く厄介な奴だ。
そんな本田君はレオタード姿のライザンさんにうろたえることもせずに突撃。
二人のガチムチマッチョたちが拳を振るい合う。
あ、ケットシー、猫たちこのままだと巻き添え食うからこっちに避難するよう伝えておいて。
「あ、そうだったにゃ!」
慌てて猫たちに伝えるケットシー。
猫たちも巻き添えを食う気はないのだろう。
即座に噛みつきを止めて俺たちの傍へと退避してくる。
あ、気付いたら俺ら以外のNPCが道場から逃げるように立ち去ったな。
まぁけが人が増えないに越したことはないから放置でいいや。
そこのヒロインちゃんも出来るだけ怪我しないように、俺らの背後にでも隠れているように。
「うおぉぉぉぉ!」
「ぬうぅぅぅんっ!!」
飛び上がっての回し蹴り。ライザンさんは片手で受け止め返しの蹴り上げ。
空中で蹴りをガードしながら本田君が放物線を描いて床へと着地した。
「せあぁ!!」
「ぜぇぇぇいっ!!」
間髪入れずに本田君突撃。
拳を打ち込むが、ライザンさんはこれに合わせるようにクロスカウンター。
って、二人揃って拳食らうんかい!?
「「できるっ!」」
いや知らんわ。
というか、このまま放置していいのか不安だし、ちょっとトラップ行っとくか。
「芽里さん、ナスさん準備は?」
「ん、いつでもおっけ」
「私魔王だよ。このくらいハエの子さいさい」
それお茶の子じゃね?
「ねぇヒロキ、ウチの下僕君使う?」
「妖精さん、スプリガンを下僕扱いするのはどうかと、いや、アレ投入したら多分あの二人一瞬で首が飛ぶぞ。さすがにそこまで酷いことした奴らじゃないからやめとこう」
「りょーかーい。んじゃ運動復習しとこっと。メリー覚えてる? 一緒にやろ」
意外と動くの気に入ったのか? いや、違う。妖精たち踊り好きだからダイエットダンスにハマったんだ妖精さん。




