997.猫妖精と山登り
「ふんふふんふんふん」
ケットシーがなんか鼻歌歌いだした。
なんだそれ?
「長靴をはいた猫の歌だにゃぁ」
お前のことじゃん。即興曲か?
「あー、そういえばそんな歌あったな」
現実にもあるのかよ!?
「ところでヒロキ、なんか背後にぞろぞろ猫が付いてくるんだけど」
ほんとにな。送り狼ならぬ送り猫状態で無数の猫が、というか進むごとに猫の数が増えていく。
すでに十匹以上後ろに着いてきてるぞ。なんかちょっと怖いくらいだ。
ドリームランド思い出すなぁ。なんで俺、猫とこれだけ接点あるんだろうか?
前世は猫だったとか? まさかなぁ。
「この辺って敵性生物出てこないのか?」
「普通は我輩たちが敵になるのだにゃ。何しろここは猫たちの修行場、人間が来るなら排除するのがふつうだにゃ。その点で言えば最初に声を掛けてきたのは良い判断だったにゃあ」
マジかー。
「ヒロキさんの直感、馬鹿にならないですね」
神妙な顔して何言ってんのアパポテト。
あとさっきからダイスケ大人しいと思ってたらナギさん相手に発情してんじゃねぇよ、その娘は俺のナギさんだからなー。
「ってことは、下手なことして猫と敵対さえしなけりゃこの森で敵性生物は出てこないのか」
「あー、そうでもないにゃ。基本猫が襲ってくるのに加えて、あそこの奴らも来るにゃ」
と、レイピアを一方向へと向けるケットシー、そこに居たのは……
巨大なナマケモノみたいな生物だった。
「あれはマピングアリというUMAだにゃぁ。他にも鹿とかイノシシとか熊とかもいるし、オラン・ペンテグもいるにゃ」
基本猿系UMAや野生動物との戦闘があるのか。
とはいえ、ここまで猫が群れていれば、向こうから寄って来る物好きがまずいない。
って、目の前の叢が揺れ出した!?
「にゃっ」
がさっと叢揺らして飛び出したのは、猫の上半身にウサギの下半身を持つ謎生物。
「キャビットだにゃ。ちなみに猫又になって三年ほどここで修行しているにゃ」
どうでもいいわっ。
目の前に出てこられるとついつい攻撃しそうになるじゃないか。気を付けてくれ。
戦闘態勢だった俺たちに驚いていたキャビットだったが、ケットシーに諭されて去っていく。
どうやら本当にただ遭遇しただけのようだ。
「そういやここで修行してる猫って変わった猫とかいるのか?」
「変わった猫、といえば猫の王様とかバステト様とかだにゃ。火車の奴は自分の山から出てこないし。五徳猫は人里にいるにゃ。他には化け猫どもが各地で悪さしてるくらいかにゃぁ。基本この山は猫の王様のものにゃから、それ以外の大物猫は来ないのにゃ。バステト様は暇だから結構頻繁に来るにゃ」
バステトさん暇すぎだろ。
よっぽどここに来るのが好きなのか、まぁ俺が何かしら考える意味はないな。どうせ会わないだろうし。
「ああ、あと主さんがいない時にはベイグル様やトリエグル様も来たりするにゃ。あとキャスパリーグが一度来たけど王様に激怒されて逃げてったにゃ」
なんかいろいろ猫の魔物っているんだなぁ。
「シトリーも猫系の魔王じゃなかったっけ」
「ナス師匠、それって確か七十二柱の?」
「ん、猫繋がりで来てる?」
「んー、そっちは聞いたことないにゃ。あ、でもたまに黒い猫と白い猫と思われる生物は来るにゃ」
「思われる生物?」
「黒いのはたまに形が変わるにゃ。白いのはのっぺりしてて存在感も薄いにゃ。王様はねこみぃむがどうとか言ってたから人は見ないほうがいいらしいにゃ」
それ【ねこです】じゃね?
あと黒猫の方はたぶんニャルさんだろ。
あいつ何してんのマジで。
「そろそろライザン道場ですにゃー」
なぁケットシーさんや。俺らの背後付いてくる猫の数、なんか百匹くらいに増えてね?
百鬼夜行ならぬ百猫森行なんだけど?
「にゃ? うにゃぁ!? なんで皆付いてきてるにゃ!? 猫の王様が怒ってしまうにゃ!」
ケットシーがお怒りモードになると、主張するようににゃーにゃーと喚きだす猫たち。
ケットシーが訳してくれたことによれば、こいつら、撫でられたくて集まってきたらしい。
一部だけ撫でられてたのが不公平なんだと。
え、この数全部ごろごろさせないとダメなの!? よ、よし、女性陣頑張れ! 俺はその間にライザン道場向かっておくぜ!
「あ、ヒロキが逃げた!?」
「逃がさないわよ!」
ぴぃんっと糸が張った。
俺の足に何かが絡まりぴしっと動きが止まる。
「まさか、謀ったな芽里さん!?」
「敵前逃亡はさせないわ。さぁ、皆で一緒に撫でましょう。手が腱鞘炎となろうとも、ね」
こ、こいつ、自分たちだけでは死ぬ気はないと、俺まで巻き添えにする気か!?
おのれ、おのれ芽里さん! やってくれたなぁ。
「「「「「にゃー」」」」」
ち、ちくしょーっ、覚えてろよーっ!!




