996.猫ヶ山
「ここ?」
とある山の麓へとやってきた俺たちは、地図を片手に登るべき山を見上げていた。
猫ヶ山という山らしい。
ここの奥地にライザン道場があるのだとか。
猫の忍者が出たらしいし、猫ヶ山だし、今回は猫関係か?
ドリームランドといい、こっちの山といい、なんか猫関連多くね?
犬派の猫滅殺ワンコさんとか大激怒しそうだな。
今回彼女が居なくてよかったかもしれん。
「猫ヶ山、なぁ」
「なんか森の奥から見られてる感じがするわね」
不安そうに身をよじるのは、ヒバリだ。
ガタイのいい少年のくせに怖がりすぎだろ。プレイヤー女性らしいけど、アバターが男子生徒じゃちょっと気持ち悪さしかないぞその怖がり方。
「ま、大方猫か何かだろ」
まさか土星の猫とか天王星の猫とかがいる訳もないだろうけど。
とりあえず変ないざこざ起きないように先手打っとくか。
「あー、あー。俺たちはこれからライザン道場とか言う場所に囚われた仲間を救出に向かう、それ以外の目的はない。以上!」
「突然どうしたヒロキ?」
「いや、変な諍い起きないようにしただけだ」
ま、気休めでしかないけどな。
宣誓宣言が終ったので、俺たちは山へと踏み入れる。
「にゃーっはっはっは! あいやまたれい人間共!」
ああん?
山に踏み入った瞬間、叢から一人、いや一匹? の猫が飛び出した。
おお、何だっけこの猫? 確か……スナネコ? めちゃくちゃ可愛らしい砂漠に住む猫だったっけ?
それが二足歩行で長靴穿いて、レイピア片手に現れた。
「おー、長靴履いた猫だ」
「あー、あの長靴吐いた猫な」
ユウ、今言葉の意味なんか違ってなかった? 長靴履いただからな。吐いてないからな。
どこぞの童話に出てくる猫で、いくつもの事件を解決した猫だったはず。
今度は童話生物が出て来たか。
「なんか用か?」
「協議の結果、おまえさんたちが変な場所行かないか不安にゃから我輩が案内してやることになったのにゃん! 喜こうにゃあぁぁぁ!?」
「あはは、可愛いーっ」
キョウカさんまだ相手喋ってるでしょ!?
「あ、ずるい、ボクも!」
「じゃ、じゃあ私も」
ナギさんが辛抱たまらんっと撫でに向かえば、芽里さんも向かいだす。
さらにヒナギさんもすっと近づいてそっと撫で始めた。
モテモテだねぇ。
「なんにゃぁ!? 止めろにゃーっ、あ、そこダメ。にゃうぅんごろごろごろ」
芽里さんが顎撫で始めるとなんか抵抗しなくなったな。
しばらく遊んでいると、周囲からネコが集まって来る。茶虎にブチにハチワレ、シマ虎、白、黒、などなど。
「なんか猫集まってきたんだけど?」
「うずうずしてるぞこいつら。多分自分も撫でろってことみたいだけど」
「え、ほんと! じゃあ、おいでー」
ヒナギさんが告げると数匹の猫が殺到。
他のメンバーからもおいで、と言われたおかげで上手く分散したようだが、猫の数が多い。これは俺らも撫でないとだめっぽいな。
やってくれたなキョウカさん。
「というかヒナギさん蛇飼ってたんじゃなかったっけ? 猫大丈夫なの?」
「蛇は好きです。猫も犬もそれなり? 動物は好きなんです」
ああ、まぁ犬好きでも猫がダメ、って訳じゃないから猫が寄ってきたら撫でるくらいはするか。
「あ、もうちょっと下で」
もう、猫が喋ることには驚かねぇや。
はいはい、この辺りね。
ってかよく見たらこいつら全員二尾じゃねぇか。
猫じゃなくて猫又だ。
「ふぅーふぅーっ、と、ともかく、お前たちが変なことしないよう、監視に来たにゃ」
撫でタイムが終り、息も絶え絶えの長靴を履いたスナネコが告げる。
聞いた話によるとこの山はもともと猫が猫又になって能力を引き上げる修行の場所があるらしい。化け猫たちの修行場があるから猫ヶ山と呼ばれてるそうだ。多分元ネタは根子岳の話だな。
そんな場所に、最近変な人間が奥地迄やってきて道場を立てたのだとか。
直接的な被害は出ていないし、猫の一部と仲良くなったから住むことには反対意見はないモノの、やはり得体が知れないために猫たちの警戒が凄いらしい。
俺たちもそこに向かうと言われても素直に信じられないのだとか。
とはいえ、妖精や魔族を引き連れてる俺たちがそこまで悪い奴には見えなかったそうで、協議の結果、監視という名目で同行者を一名送り込むことにしたそうだ。
それが……
「吾輩は猫である。猫妖精ケットシーと呼ぶがいいにゃ!」
じゃじゃーんっと恰好付けているけど、さっきまでごろごろしてたからなんとも言えないほんわかした雰囲気しかない。
「ええい、少しはすごーいとか言わないか!」
「え、すっごーい、かっこいー、けっとしー」
「棒読み止めるにゃーっ!! シャーッ」
なんか威嚇し始めたけど全然怖くないな。
 




