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エピローグ

 彼は夢を見ていた。


 それはジャンルでいえば悪夢であり、現実であるような地獄だった。


空は赤く染まり、周りの建造物は無残な瓦礫へと崩壊し、地面には人だった肉塊が散乱し、死体の血で赤い川を作り、そして真っ白な肌をした人型の化け物が生きた人間を貪り食らう。


 痛い痛いと下半身を食われながら助けを求める青年、巨大な拳で叩き潰される子供達。赤子を抱いて必死に逃げてそして殺される親子。


 悲鳴と助けが飛び交う町、目を覆いたくなるその惨状だが、目を瞑りたくても何故か歩みを辞めず人間を食らっている化け物を避けながら、ただ真っすぐ……真っすぐ。


 そして歩みが止まると目の前に頭を垂れた一人の少年がいる。


 「誰?」と声を上げることもできず、眺めていると急に周りから音がなくなり、まるで時間が止まったように全てが停止し、目の前にいた少年が頭を上げると、顔が影のように暗く、右目の位置には炎のような青い光が揺らめいていた。


 そして彼は自分に向けて手を差し伸べて、弱弱しく途切れ途切れの声で。


「僕の事を……忘れ…ないで」


 女性に近い声でそう唱えると、胸に熱いものを感じると、目の前が徐々に光に溢れ始める。

 「あぁー…」

 寝起きは最悪だった。

 それもそのはず、静まり返る教室に生徒の皆は静かに自分を凝視し、そして教師がすぐ横で目覚めるのを待っていた。


「来週テストなのに、寝てていいのかな? ん?」


 威圧的な男性教師の声に慌てて寝ぼけながら謝る。


「い、いえ…よくない、です。スイマセンほんとスイマセン!」


 そして誰かがプゥと吹き出すと静かだった教室が笑いに流れて、教師もヤレヤレと軽く手に持ってた教科書で貴也の頭を軽く叩いて教卓に戻る。


「はい静かにー!、貴也のように寝ていたら赤点が付いちまうぞー」


 そしてチャイムが鳴り響き授業が終わりを告げる、六時限目だったということもあり皆帰る支度を初めて、貴也も寝ぼけながら支度をして、さっき見ていた夢に思いふけっていた。


(何だったんだ、今の夢)


 夢というよりまるで現実に起こったような、今でもあの夢に出てきた右目が青い炎の少年が頭に記憶にこびりついていた。


 そんな事を考えていると後ろからポンッと背中を叩かれ、振り向くと友達の田中と小林がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「ようよう貴也、赤点決まっちまったな」


「いやいや、まだ決まってねーし、お前より点数取れるから大丈夫だし」


「それで今日はどうする? 駄菓子屋に行くか?」

「勿論行くよな、お前の作戦会議もしてぇしな」


 二人の圧に対して貴也は頬を掻いて、しぶしぶ首を縦に振ると二人はヨッシャとガッツポーズを決めて自分の席に戻っていった。


 この二人が言う駄菓子屋と作戦会議は、いつも帰り道に三人は寄り道に駄菓子屋に寄ってってお菓子を食いながら、貴也の恋の作戦会議を行っていた。


 東城貴也という高校生は同じクラスの子に一目惚れをしていた。


 名前を松崎七海


 腰まである長く恐ろしく綺麗な黒髪で、成績は当たり前に優秀と聞いてみれば優等生な彼女だが、性格に難ありだった。


 気性が荒いとか問題ごとを起こす訳ではなく、ただただ沈黙を貫き通す不思議な子だ。部活には所属せず、教師に問題を出されても声を発さずそのまま黒板に正解を書いて静かに席に戻る。


 七海と話そうとしても返事が無し、休み時間もずっと自分の席に座ってずっと視線を下に向けて何を考えているのか分からず、教師の間でも七海に対してはあまり相手をしない、近寄りがたい存在だ。


 そんな彼女に貴也は一目惚れをしていた、確かにそういった性格を除けば、顔とスタイルはモテて当然ともいえるほどの美人だが、貴也はそういった不純な理由で好きになったわけではなかった。


 貴也達はホームルームが終わると、イの一番に教室を飛び出して、目的の駄菓子屋に向かっていった。


 夕暮れで空が朱く染まった下で、三人は駄菓子屋で好きな菓子を買ってそばにあるベンチに座って食べながら作戦会議を始めるのであった。


「はーい、第二回松崎七海の攻略を始めていきまーす」


「このノリ毎回やるつもりか?」


 そう突っ込むと「お前が付き合うまでにきまってんだろ」と田中に速攻で反撃を食らう。


「付き合うまでって言ってもよぉ、この前の下駄箱にラブレター作戦音信不通で終わったし、次はどうするつもりよ」


「前はあまりにもベタな作戦だったな! 貴也の文字が汚いのもあったけど、今度のはちゃんと実用性あるぜ」


 こいつ面白半分でやってんな、と思いつつ菓子を食いながら田中は胸を張ってニコニコしながら。


「直接自分の口で、好きです付き合ってくださいって言うしかないっしょ」


 貴也はハァとため息を垂れつつ呆れた。


「あのなぁ…、それが恥ずかしいから遠まわしで、その…告白しようって前にも言ったじゃん」


「だってよぉ、ああいうタイプは遠まわしにやるのは逆効果なんだって、お互い真正面を向いて自分の本心を言えば、もしかしたら答えてくれるかも知んねぇぞ」


「それは……」と反論しようとしたが、田中の力説に一理ある。


 彼女とは話そうとしても無駄だと頭から否定して、対話するという選択肢がなかった。


 菓子の蒲焼きを加えながら腕を組んで夕暮れの空を見上げていると、田中がアイスの棒を見るなり喜んだ表情で。


「おっ、当たりだ! おばちゃーーんアイスもういっぽーん!」そう言ってステップしながら駄菓子屋の奥に行くと同時に、小林が横に座り何か言いたそうな難しい表情で貴也を見据える。


「お、お、どうした? 金なら貸さないぞ」


「いや、そういう訳じゃないんだが……うぅん」


 小林とは長い付き合いで、言いたいことは素直に言うタイプの人間だとは知っているが、言葉を詰まらせながら目を瞑って数秒後、やっと口を開いたかと思えば真剣な物言いで度肝を抜く内容だった。


「松崎七海と付き合うのは……やめといた方がいいぞ」


「………へぇっ!?」


 真面目な顔でそう言い放つのだから、貴也はベンチから転げ落ちそうになる。改めて態勢を立て直す。


「ど、どうしてだぁお前。結構ノリノリでついて来たのに今更そういうのは!」


 と少し声を荒げると田中が口元に指を当てて、時折後ろの道路の先を気にしながら小声で静かにと低く呟く。


「俺もどうかとは思うし、あまり言いたくなかったよ。でもな、事情が変わっちまったんだ」


「じっ、事情ってなにさね?」


 また自分の後ろを振り返りながら、中にいる田中に向かって大声を上げる。


「おい田中! ちょっと俺たち用事あるから先に帰ってるぞー!」


 そして数秒後に店の奥から「おうまたなぁ」と返事が返ってくると、来いと手で手招きして首を傾げながら仕方なく小林の後を付いていく。


 道路の曲がり角当たりで止まり、何かにでも追われてるかのように辺りを警戒しながら小声で呟いた。


「いいか、うちのクラスで由梨ってギャルっぽい女子いるだろ」


「あ、あぁ知ってるよ」


 由梨とは見た目が小林の言うように茶髪でしょっちゅう授業をさぼったりするクラスの問題児だ。彼女とはあまり面識がなく、少し苦手意識があったため避けていた。


「少し聞くけどお前、松崎さんについて何か知っていることあるか?」


「松崎さんの事か? いや、あんまり」


 本当は付き合ってから知るつもりだったが、そうもいかないと小林がため息を付いてまた質問をした。


「しらねぇと思うけど、あの人のご両親の事知ってるか?」


 首を横に振って否定すると、小林はポケットからスマホを取り出して何かを検索して、そして映し出した物を貴也に見せつける。


 それは英語で書かれた外国のブログだった。


 でかでかと映し出された画像には、白い修道服を着た男女二人と、その間に同じような服装に顔を白いベールで隠した二人より一回り大きく、身なり的女性と思われる人物の画像が映っている。


 これをなんで見せたのか分からないし、しかも英語で全く意味不明で困惑した。


「これってなんだ?」


「こいつは結構前イギリスで少し流行っていた[シスターファルマー]っていうブログ。そしてこの画像に写ってんの松崎さんの母さんと父さんなんだよ」


「松崎さんの……両親なのは分かったけど、なんか問題でもあるのか? これ」


 ある、そう強く断言してスマホをまた操作すると次は、そのシスターファルマーのブログに添付した動画を再生させる。


 そこにはあの画像に写っていた松崎さんの両親が互いに向かい合って、膝をついて手を合わせながら天を仰ぐように重ねた手を天井へ上げて、ブツブツとどの言語にも属さない言葉を小さく呟いている動画だ。


 貴也はその奇妙な動画の全身に汗が流れるような不気味さに、言葉を失いながら小林の目を見やる。


「こいつは、いわゆる宗教のようでかなり歪な奴なんだ。人を洗脳して信者を増やし呪文の様なものを唱えさせるのが、このシスターのやり方。松崎の奴入学当初からああいう話さないスタイルだったろ?」


「……虐待されてる、とかか?」


「いや、むしろそうだったら警察も動ける。松崎があんな風になっているのは、こいつらの影響であると由梨の奴が言って……――」

 

 言い切る前に小林は貴也の後ろにある物を見て、額に大粒の汗を流しながら驚きで目を見張る。


 その小林の視線に気づき、ゆっくり首だけを横に傾けるとそこには、茶髪でけだるそうに制服を着た女子、同じクラスの由梨が今にも怒鳴りそうな表情で小林を睨んでいた。


「そこまで詳しく話せなんて……言ってねぇぞ?」


 ドスのきいた低い声の圧に何も言葉を出すことを許さず、貴也の方に近づいて肩を軽くポンと叩くと、ビクッと心臓が飛び上がる。


「悪いな東城、これはあたしたちの間柄の話でお前は関わらねぇ方がいい。とっとと帰って行け」


 突然の乱入に唖然としていたが、ここで食い下がるわけにはと、松崎の情報を聞き出すために声を絞り出すが。


「分かった、そんじゃぁな二人とも」


(えっ??)


 自分の思考とは全く違う言葉を発した。


 それだけじゃない、無意識のうちに手を振って足も勝手に歩き始める。


(おっおお!??! どうしてだ!)


 抵抗してもまるで誰かに操作されてるようにギギギッと自分の家の方面に足が向いてしまう、そして歩いて数歩の所で由梨がまるで命令するように言葉を唱える。


「お前は家に帰って普段通りの生活しろ」


 (おおおおおお!??)


 脚が、体が、神経がまるで自分の者じゃなくなった感覚に襲われ、ズンズンと貴也は着々と二人から離れて家まで一直線だ。


 松崎に関して聞きたいことがまだ山ほどあるのに、由梨はそれを拒む。


 知っている、彼女は松崎七海と両親の事について確実と言っていいほどの情報を有している。

 

 だがその情報は貴也の耳に入れては為らない機密的存在、不可解な問題だらけのまま、止まれと頭で唱えながら勝手に動く足で帰路についてしまった

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