第1話
祖母が亡くなった。
霊柩車が火葬場の入り口に停車すると、雨粒が滴るトランクが開かれた。到着する時間を正確に把握していたかのように火葬場職員が白いリフトを押して施設の中からやってくると、その装置をトランクの中に差し込み、棺桶を持ち上げて施設の中へと運んでいく。アスファルトの地面を強く叩く雨音のなか、静かに響くリフトの音がやけに大きく響いていた。
火葬炉へと繋がる前室の扉が開放され、その中に祖母の棺桶が納められる。
扉が再び閉鎖されると中央に祭壇が運ばれてきた。僧侶の読経を聴きながら、それぞれが思い思いに最後の焼香をあげていく。
「それでは、お別れです」
喪服姿の職員がそう告げると、代表者に赤いボタンを押すように促した。
これが最後なんだ。
心の奥底から嗚咽が込み上げてくる。
十七時九分、ご臨終です。
そう告げる医師の声が鮮明によみがえってきた。
いつかはその日が来る。そう覚悟をしていたものの、いざ直面すると理解ができずに茫然と立ち尽くすだけだった。不思議と涙は出てこなかった。
しかし今は違う。
祖母の永眠から二日。
通夜の時も葬式の時も、大粒の涙を流した。
しかしこれから火葬炉に点火され、祖母の肉体が骨を残して完全に消滅するのだ。
通夜や葬儀であれほど泣いたのに、それ以上の悲しみと涙が込み上げてくる。
最後に声を出して泣いたのはいつだっただろうか。
大雨の降る梅雨のことだった。
閉鎖された扉の向こう。
前室に納められた棺桶を火葬炉へと送り込むモーターの音を今でも覚えている。