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36.後宮の呪詛 6

解決編は3話あります。毎日読んで頂いても、まとめて読んで頂いても嬉しいです!


「先程淑妃様から、暁華(シャオカ)皇后が牢舎に入った話を聞きました。なんでも、偽証をした赤毛の侍女を告発した人がいたそうですが……」


 明渓は上目遣いで青周を見上げた。微かに黒曜石のような瞳が左右に揺れている。


「それは青周様と空燕(コンイェン)様ですよね。お二人は忍び込んだ霊宝堂の換気窓から赤毛の侍女と宦官の密会を目撃した。違いますか?」


 換気窓がある辺りからは、霊宝堂の外壁が邪魔をして奥にある階段は見えない。つまり、そこで密会をしていた赤毛の侍女は何も見ていないという事になる。


 えっ、と小さな声を上げたのは淑妃だった。青周はばれてしまったかと頭をかいている。


「おそらくお二人は子供だったので、偽証した侍女について、何も知らされていなかったのではありませんか?」

「そうだ。偶然見た密会を興味本位で東宮に話すと、急に血相を変えていつ頃だと聞いてきた。だから、霊宝堂の裏で大きな物音がした頃だと答えると、今度は頭を抱え始めてな」


 東宮もまさかこんなところから大事な証言が出るとは思わなかっただろう。そして証言をした弟達は、それがどれほど重大であるかを理解していない。

階段が見えなくても、距離は近い。人が階段を転げ落ちる音や悲鳴は充分聞こえるだろう。


「東宮が、赤毛の侍女の密会を見た人物について何も言われなかったのは、目撃したのがお二人だったからですね」

「あぁ、その通りだ。母の子である俺の証言では誰も信用してくれないしな。空燕が一緒といっても所詮子供。大人がどれほど耳を貸してくれるかは分からない。だから、俺たちの名を出さずに東宮は侍女の偽証を証明しなくてはいけなかったらしい」


 東宮が事件のあらましを二人の弟に話したのは、二人が元服してからだったらしい。後宮の嘘や悪意を幼い弟達には見せたくなかったのだろう。


 明渓の話を聞いた淑妃は、全くあの子ったら……と小さくため息をついていた。


 


 淑妃の宮を後にした明渓は、朝、青周宛てに出した文の返事を聞き渋い顔をした。しかし、それについては青周に任せるしかないと頭を切り替える。


「青周様、私はこれから公主様に会いに行きます。それで、賢妃様の宮でひとつ確かめて頂きたい事があるのですが」


 青周は明渓の頼みに直ぐに頷いた。今この事件は青周に任されている。彼なら許可なく賢妃の宮に出入りする事ができる。


「では、私は蔵書宮で待っています。白蓮様、空燕様ともそこで会う約束をしていますから」

「……お前、俺達を手足のように使ってないか?」


 身を屈め、じとっと睨んでくる。


「!! …………と、とんでもないことでございます!! わ、私は権力のないただの侍女、皆様のお力を頼らなくては何もできません」


 一瞬の沈黙を誤魔化すように早口で捲し立てる。

 頭と手もフルフルと振ってみるが、青周の目線は冷たい。


「……まぁ、お前になら利用されても良いが」


 青周はふっと視線を和らげると、明渓の頭にポンと手を置いて、賢妃の宮へと立ち去って行った。





 蔵書宮に一番に現れたのは白蓮だった。次いで青周が証拠の品を持ってきた。そしてその僅かばかり後に空燕が現れた。


「空燕、お前が手下の中で一番最後だぞ」

「青周様、その言い方はやめて下さい」


「いっその事、俺は下僕でいい」

「白蓮様、目を潤ませないでください」


「メイ、知ってるか? 東の島国の童話に、綺麗な姫が求婚者に無理難題を言って宝を持ってこさせる話があるんだ」

「私は月に帰りませんし、無理難題も申していません。むしろ巻き込まれているのは私の方です」


 三者三様でふざけた言葉を口にする。

 でも、重苦し空気を誤魔化すためなのは明らかだった。





 口火を切ったのは白蓮だった。


「明渓、なぜあの占い師が金英妃(・・・)だと分かったんだ?」


 三人の視線が明渓に集中する。


「昨晩、思い出したのです。彼女に初めて会った時の事を」


 明渓は少し先の棚を指差す。


「あそこで会った時、彼女は『こんな所で皇居の侍女に会うなんて珍しい』と言ったのです。後宮の侍女と皇居の侍女では服の色が違います。でもその事を市井(しせい)の占い師が知っている筈ありません」


 つまり、占い師は以前後宮にいたことがあるという事だ。かつて後宮にいた者が身分を隠し再び後宮に現れ、その結果、呪詛を恐れ占いに没頭した賢妃が亡くなった。

 その時点では占い師が誰かは分からなかったけれど、貴妃の死に関わっていると思った。


 だから、朝、文を二通書いた。


 一つは青周に占い師の身柄を確保して欲しいと。

 しかし、淑妃の宮に来た青周によると、占い師は既に姿を消していた。


 もう一つは、白蓮に占い師が誰なのかを知る為に姿絵を手に入れて欲しいと頼んだ。


梅露(メイルー)妃に聞けば、シジュウカラの姿絵を描いた人物が分かると思いました。占い師は殆どの宮を訪れていたので、その者に占い師の姿絵を描いてもらえないかと」


 占い師は堂々と後宮を訪れた。近年は妃嬪の入れ替わりが激しく、昔からいる者は僅かしかいない。年を経て容貌が変わった自分に気づく者はいないと思っていたのだろう。それに、一度「占い師」という先入観を与えてしまえば、直ぐに金英と結びつけるのは難しい。

 

 昨晩、空燕が「淑妃は一度見た顔を忘れない」と話していた。だから、淑妃にはそれが「占い師」だと告げずに過去に彼女に似た妃嬪がいなかったか? と問いかけた。すると、淑妃は暫く考えたのち、記憶よりは随分ふっくらしているけれど、金英の面影があると教えてくれた。






 明渓は空燕から日記を受け取った。でも、まだ日記を見ていない白蓮が手を伸ばしてきたので、それを手渡す。


「日記は占い師、金英が賢妃に渡したものです。金英は暁華皇后が来る日を予言してから賢妃に渡しました」


 初めは十日後、次は九日後、とどんどんその間隔を縮めて予言をする。日の間隔が短くなるに連れ、賢妃の恐怖心は増していっただろう。真綿で首を絞めるかのように、その予言はじわじわと賢妃の精神を追い詰めて行った。


「この日記には、白い布を纏った暁華皇后を見たと書いているが、……青周様の前にある白い布がそれですか?」

「白蓮、読むのが早いな。そうだ、これは公主の部屋にあった物だ」


 白蓮が日記を捲る手を止め、青周を見た。青周は辛そうに眉をしかめ、小さく頷いたあと、明渓に話を続けるように言った。


「賢妃の宮にいた者は全員、占い師と会っていたようです。公主様も含めて。公主様に聞いたところ、母親を救いたかったら魔除けの白い布を羽織り、経を小さく唱えながら宮の周りを歩くよう言われたそうです」


 賢妃は白い布について日記には記したけれど誰にも言っていなかった。公主は自分が母を追い詰めていようとは露程にも思わなかっただろう。


 青周に調べて貰ったところ、公主の部屋の窓の下にあった四つの四角い跡は、部屋にあった椅子の足と一致した。椅子の足には土もついていたそうだ。


 窓枠を超えるのは、裾の長い服を着てる女にとって普通は(・・・)なかなか難しい。裾を踏んで転び落ちそうになるからだ。だから公主は窓の外に椅子を置き踏台とした。椅子には背もたれがあったらしいので、そこを掴んで窓から出し入れしたらしい。


 公主の話だけでは証拠がないので、青周に頼み椅子の確認と白い布を回収して貰った。公主には、占い師から何を言われたか聞いただけで詳しい事は話していないし、これからも話すつもりはない。物証があるからこれ以話を聞く必要もない。つまりは、彼女をこれ以上母親の死について関わらせない為の、傷つけない為の物証だ。



「日記に話を戻します。暁華皇后が来る日は四日後、三日後と短くなっていきます。そして、その最後となる日に、呪い殺されるという呪詛を金英は賢妃にかけた(・・・・・・・・・)のです。そして、死にたくなかったらこれを飲めば良いと、魔除けの薬と言ってヒ素を渡した」


「でも、どうして賢妃はそこまで占い師を信じたんだ?」


「金英は賢妃についてよく知っています。後宮にいた頃はもちろん、子供の頃の話も聞いた事があるでしょう。過去の出来事を占いで当てたように話せば、精神的に不安定な賢妃が陶酔してもおかしくありません。『呪詛』は形ではありません。言葉で不安を煽り、操る見えない糸のような物で相手の思考を絡め取るのです」


 賢妃が恐怖のあまり、最後の日が来る前に毒を飲んでしまったことは金英にとって誤算だっただろう。姿を消したとはいえ、おそらくまだ遠くまで逃げていない筈だ。


 明渓は白蓮の持つ日記を指差す。


「この日記の布表紙に細工の跡がありました。紅花(ホンファ)の実家で見た物と似ており、張り合わせた布と布の間に何かが挟まっていました。それで、空燕様には紅花の実家に行って頂き、表紙を剥がして中にあった物を取り出してきて貰いました」


 空燕は懐から数枚の紙を取り出した。


 それは、金英の告白文だった。


昨晩から解決編の文章手直し中です。内容は変わらないのですが、サクッとより分かりやすいように編集してます。大丈夫です!明日の分は間に合うはず!!


作者の好みが詰まった物語にお付き合い頂ける方、ブックマークお願いします!

ブクマ☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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