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5.手紙

◾️◾️◾️◾️ 僑月目線

○○○○ 明渓目線   

になります

 

○○○○


 最近、なんだか視線を感じると明渓は思う。

 いつものように侍女の姿をして桜奏宮(オウソウグウ)を出て、角を曲がったところで振り返る。木の一部が風もないのに動いている。木の下に人影らしきものも見える。


(声をかけたらいいものか)


 そう思いながら、再び歩き出す。両手に抱えるように持った本は重い。いっそのこと、声をかけ本を持たせようかとも思うけれど、並んで歩くと目立つ事この上ない。仕方がないから今日も気付かない振りでやり過ごす。よいしょっと、と本を抱え直し大きな扉を身体で押し開けるようにして蔵書宮の中に入っていった。


 入り口で本を返し、いつものように天文学の棚の前に立つ。

 一ヶ月通う間にその棚の主だった物は読み尽くした。残るは神話の類だ。伝説、物語は実用的ではないけれど、それはそれで面白い。どうしてここでこうなるかなぁ、とか都合よく話が進むなぁ、とか、色々思う事はあるけれど、本当に面白いものはそんな部分が気にならないぐらいに、のめり込んでしまう。


 パラパラと紙をめくりながら十冊ほど棚から取り出し、奥まった席に座るとその内の一冊をめくる。


(やっぱり気になる)


 棚の向こう側から視線を感じる。


(仕方ない)


 少々うんざりした気持ちで席を立つと、棚の向こうに見え隠れする人影に向かって手招きをした。


◾️◾️◾️◾️


 いつもの日課として、今日も明渓の所に向かう。頼まれていた薬草と課題は午前中にパパっとやりおえた。

 いつものニ倍いや、三倍の速さ(スピード)だ。

 何か言いたげな、いや、止めたげな韋弦(イゲン)を押しのけてすでに定番となっている巨木の影に身を隠した。


 別に執拗に(まと)わりついているつもりはない。大麻常習者の三人はまだ泳がせたままなので、警護のためだと自分に言い聞かせる。

 決して付き纏い(ストーカー)ではない。


 桜奏宮まで行ったついでに、いつものように窓際に文を置いた。

 返信はまだ貰ったことはないけれど、本が好きだからといって文章を書くのが得手とは限らないので、気長に待つとしよう。


 四半刻(三十分)後、いつもより少し遅めに桜奏宮を出る明渓の姿を見つけ、警護を始める事にする。もう一度言おう、決して付き纏いではない。


 途中で一度明渓が振り返ったが、何事もなかったかのようにまた歩き始める。重たそうな本を持ってあげようかと思うけれど、医官と妃嬪が親しげに並んで歩く姿は悪目立ちする。目立つ事は避けるように日頃から言われているのでここはグッと我慢しよう。


 いつもと同じ事をするだけだと思っていた。ただ、遠くから見守り、あわよくば挨拶ぐらいして帰るつもりだった。


 それなのに、今、自分の目の前に明渓が座っている。


 何故なら、棚の影から目だけ出して眺めていると不意に明渓に手招きされ呼ばれたからだ。


(どうしよう、この機会(タイミング)で隠れるのは不自然。そもそも、隠れなければいけない事をしている訳ではない。多分。ならば、偶然を装い出て行くまでだが、第一声は何と言えば良い?) 


 グダグダと迷っている内に、今に至っている。




○○○○


「ねぇ、名前は何て言うの?」


 小さい声で明渓は尋ねた。


僑月(キョウゲツ)と言います」 


 明渓は値踏みする様に僑月の顔を見る。


「僑月の上司はどのような方なの?」

「医局に十年以上おり、後宮だけでなく皇族方の診断にあたることもあります」


 明渓は少し眉をひそめながら人差し指で顎をつつく。 トン、トン、トン。可愛いその仕種を見逃すまいと僑月は思わずじっと見つめてしまった。


「僑月の上司にお会いしたいのだけれど紹介してくれない?」

「どうしてですか?」


 会ってどうするのかと、思わず眉間に力が入る。


「……うーん、では、質問を変えるわ。あの夜私が何を見たか気づいている?」

「……その件については既に然るべき方に伝えています。貴女はもう関わらない方がいい」 

「その方とは誰なの?」

「詳しくは教えられませんが、信用でき、ある程度の裁量を持つ方です」


 明渓はじっと僑月の目を見る。この幼い医官見習いが信用できるのかどうか思慮しているのだが、


(他に良い案が浮かばない)


 はぁ、と小さく息を吐く。後宮に来たばかりで他に当てがある訳ではない。

 ならばこの少年に託してみようかなと、半ば投げやりな気持ちで思い至った。


「では、これから話す事をその方に伝えてくれない?」


 そう言うと、茶会の際に気づいた事を話し始めた。




 明渓は一人蔵書宮で本をめくる。

 先程まで一緒にいた医官はもういない。

 子犬のように人懐っこく、くるくると動いていた少年の目は途中から真剣な物に変わった。鋭い刄の切先の様なその目は、年に不釣り合いのようにさえ思える。


 深いため息と一緒に本を閉じた。

 これで良かったのかと今更ながら考える。


 厄介事には関わり合いたくない。目立たず地味に、影に徹する嬪でありたい。


 美玉(メイユー)の庭で見た事を僑月に伝えたのが正しいのかも、然るべき方がどのような人かも分からない。


ただ、これで最近窓辺に置かれる脅迫状まがいの怪文書がなくなればいいなぁと思った。

前半はこのような感じで進みます。

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