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13.砕破の正体 2


 明渓の差した一箇所を空燕(コンイェン)は覗き込んだ。


 他の場所はぴったりと割れ目が合うのに、白水晶の真上より少し礼拝堂側の一箇所が小さく欠けている。大きさにして一分(三ミリ)もない程の小さな穴だった。


「白水晶を置いている台ですが、中央が少し窪んでいるのですね」

「平だと転がるからな。白水晶の下に小さな座布団(クッション)を引いても良いのだけれど、清めの水かけると濡れてしまうので、台の形を変えることにした」


「清めの水、とは何ですか?」

「月に二回、経をあげるんだがその時に盃に入れた水で白水晶を清めるんだ。盃って言ってもお猪口程度の大きさで、白水晶の真上から水を垂らすようにして清める」


 そうですか、と呟くと明渓は指で顎をトントンと叩きながら白水晶を眺める。


「…………」

「…………」

「あの……少し離れて頂けませんか」

「考え込む姿も可愛いな」


 明渓は無言で三歩下がった。


「とりあえず割れた欠けらを探しませんか? 私は三角形の外側を探しますから空燕様は内側を探してください」


 そう言うと明渓は割れた白水晶が置かれた台の下から探し始めた。


 台は高さ三尺(九十センチ)程の小さな卓のような物で、その上に中央が凹んだ四方二尺(六十センチ)程の四角い板が載っている。


 白水晶はその板の中央に置かれていた。

 

 台にぶつからないよう気をつけながら、這いつくばるような格好で床に顔を近づける。


(あっ、しまった)


 慌てて顔を上げる。


「空燕様、失礼なお願いをしてしまいました。どなたか別の方を……」


 第三皇子が床に這いつくばるはずがないので、神官を呼んで貰おうかと思ったのだが


「あーいいよ、俺そういうの気にしないから」


 顔を上げた明渓の目に、大きな身体を曲げて真剣な顔で床を見る空燕の姿が映った。側近や護衛の者が見たら卒倒しそうな光景だ。


 でも、今ここに居るのは二人だけ。


 本人も気にしないと言うのでそのまま二人で探すことにした。目を床から離さずに、明渓は気になることを質問する。


「空燕様、普段霊宝堂に出入りする方々について教えて頂けませんか?」

「あぁ、いいぞ。まず先程言った月二回の経の時は、神官一名と水の入った盃を持った者が一人、あとは手伝いの侍女が数名。それから霊宝堂の前には常に二人の護衛がいる」


「直近で経をあげられたのはいつですか?」

「昨日だと聞いている。東宮が立ち合ったはずだ。詳しく聞きに行くか?」


 明渓は頭を振ると、這うようにして右端の白水晶の周りも見ていく。


「普段、この堂は開けているのですか?」

「いや、閉まっている。開けるのは神官が来る時だけだ」


 つまり、普段は中に入れない。月に二回扉が開かれる時は、複数人が同時に中に入るので誰かが割ったとしたら、その場ですぐに捕らえられる。となると、水晶はいつ割れたのか。


「扉を通らずにこの中に入ることは出来ませんよね?」


(もし出来たら、その警備体制こそ問題だけれど)


 明渓は今度は左の白水晶の下辺りを探しながら、一応、念のためにと聞いてみた。


 ちなみに、割れた白水晶の下以外も探すのは、割った人間が白水晶の場所を変えたかも知れないからだ。


「まぁ、普通はないな」

「普通、とは?」


 何とも意味深な言い方に顔をあげて空燕を見た。

 目が合った空燕は、にかっと笑い明渓の方に這って来る。


「内緒だぞ」


 鼻先三寸の場所でそう言うと、今度は立ち上がり霊宝堂の左奥へと向かって歩いて行った。明渓は台にぶつからないように気をつけて立ち上がると、その後ろを付いて行く。


 空燕は左隅の足元にある小さな窓を指差した。換気の為に使う窓のようだが、内側から小さいながら(かんぬき)がついていて、きちんと閉められている。


「小さいですね。換気で開けることがあるのですか?」

 

 例え開けても大人の通れる大きさではない。でも、いたち等の小動物が入ることはできそうだ。


「経を上げるとき、ついでに開けて換気をしたりもする。でも開けっぱなしにはしないぞ。不用心だからな」


 だから普通は入れない、と空燕はもう一度言うと窓をガタガタと揺らし始めた。

 窓が古いのだろうか、それとも建て付けが悪いのだろうか。かなり大きく揺れる。するとそのうち閂が動き始め、横に通していた棒が、ころりと小さな音を立てて床に落ちた。


「ほらな、外れた」


 得意そうに鼻の下を擦りながら、子供のような顔で言う。


「……ここから入ったのですか?」

「いや、だから俺は割ってないから! こんな小さな隙間通れるはずないだろう?」


 縦に一尺(三十センチ)、横に一尺半(45センチ)程だろうか。もう少し小さいかもしれない。


「……あの、幾つか質問しても宜しいですか?」

「あぁ、いいぞ。特に俺自身についての事なら嬉しいぞ」

「はい、空燕様についてです」


 空燕は、おっ、と嬉しそうな声を出すと、窓の近くに座り込んでいる明渓の隣に腰をおろし胡座をかいた。


「好きな食べ物か? 好きな酒か? 好きな女の趣向(タイプ)か?」

 

(……この男、すでに白水晶が割れた原因を探す気を失せている)


 明渓は軽い頭痛を感じ、こめかみを押さえた。


「この辺りに後宮の人間が来る事はありますか?」

「あるぞ、この建物の近くには桃園があって、花の時期には園遊会が開かれる。しかし、参加するのは上位の妃とその子供ぐらいだが」


(薔薇園の近くに果樹園があったはずだけれども、桃だけはこちらに植えられていたんだ)


「空燕様は後宮で育たれたのですよね?」

「あぁ、そうだ。一つ違いの青周兄とよく遊んだ」

「それは意外ですね」


 皇族の跡継ぎ争いはいつの時代も熾烈なものだ。生き残った者が国の頂きに立つとあればどんな思惑が絡んでくるか、計り知れない。まして……


「まあな、暁華(シャオカ)皇后は野心家だから、俺が自分の息子と親しくするのは嫌だったかもな」

 

 そう言って、皇后の位牌がある祭壇に目をやった。


「俺の母はよく言えばおおらか、悪く言えば鈍感でな。歳の近い遊び相手がいるのは良い事だとしょっちゅう俺達を一緒に遊ばせてたんだよ。二人で鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり……あっ、春先には蛇を捕まえて振り回したりもしたな。知ってるか? 蛇って回すとびっくりして棒みたいに真っ直ぐに固まるんだ。だからどっちが遠くまで飛ばせるか競争して侍女を泣かせたり……ってどうした」


 明渓の目がキラキラし始めた。


「そうですか、そうでしたか。では毒蛇にこだわらなければ手に入るのですね!!」

「え? 何のことだ?」


 意味がわからず、怪訝な顔で首を傾げる空燕を横目に、明渓は何やらぶつぶつ言ってニヤリと笑った。


「そちらの件は良い解決策が見つかりました。では、次はこちらといきましょうか」

「ん? そちらとは何だ? ……って急に何をしているんだ!?」


 明渓は借りていた外套を脱ぐと、腹這いになって匍匐前進で窓に近づくと、そのまま頭を窓から出した。


「えっ、何、お前。訳わかんねーんだけど」

「これはきついですね。女性が通れる可能性を調べてるのですが、……横幅はぎりぎり大丈夫でも縦幅が……胸が支えてしまいます」

「おぉ、それは見た目によらず良いことだな」


 空燕、ニヤッと笑っていたが、そのうちまた首を傾げ始めた。

 明渓が足をバタつかせたまま戻ってこないのだ。

個人的にこのキャラ好きです。勝手にやらかしてくれるので助かります。


火、木、土曜日に投稿します。16時前頃になる事が多いと思います。

※あくまでも予定です。作者の都合で変わる事もありますが、ご了承ください。


作者の好みが詰まった物語にお付き合い頂ける方、ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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