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12.砕破の正体 1


「あっ、勿論私は割っていませんよ! 霊宝堂に入った時にはもう割れていたのです。本当ですよ!!」

 

 帝と東宮からの訝しむ視線に気付き空燕(コンイェン)は早口で捲し立てた。


「……空燕、今本当のことを言えば帝もきっと許してくれ……」

「本当だから! いや、信じてくれよ!!」


 空燕は必死だ。しかし、東宮は疑惑と憐れみが混じったなんとも微妙な視線を弟に送り続ける。


 それを見て帝が深いため息をつき、片手を上げて息子達を宥めた。


峰風(ファンフォン)、空燕も馬鹿ではない。自分が割ったならわざわざ養心殿まで言いに来ないだろう。今流行りの皇后の呪詛のせいにして、さっさと船に乗って異国に旅立つさ」


 帝の評価も大概だが、納得したようにポンと手を叩く東宮もひどい。二人の眼差しからは空燕への信頼は感じられない。かと言って嫌っている訳ではなくいつまでも手のかかる息子、弟だと呆れているようだ。


「いや、帝。それは余りにも、いくら私でも……」

「法仏殿の皿を割ってすぐに姿を眩ましたのはどこの誰だ?」

「…………」


(前科持ちね……)


 明渓は三人の様子を眺めながら、空気のように自分の存在を消すことに集中する。


 空燕はまだ小さな声でぶつぶつ言い訳を言っているが、すでに二人共耳を貸すつもりはない。帝は思案気に暫く顎髭を触ったあと、ピタリと手を止めた。そして、


 帝は明渓を見つめた。

 明渓は目を逸らした。


「丁度良い。今ここに居る明渓は、後宮で起きた『皇后の呪詛』を既に二つも解いている。朕と峰風はこれから軍の会議に行かねばならないから、明渓を連れて霊宝堂に行って割れた白水晶の謎を解いてこい」


 空燕は明渓を見た。

 明渓は首を振った。


「そうですか、いや、もしかしてと思っていたんですよ。彼女が昨日話していた(くだん)の侍女ですか。いやぁ、こんなに早く会えるなんてついているなぁ。分かりました! 任せてください!! 霊宝堂の謎、解いて参りましょう」


 明渓は東宮に助けを求めた。

 東宮は笑顔で大きく頷いた。


「では、頼むぞ明渓。お前が行ってくれるならもう解決したも同然だな。それから、もしこいつがお前の気に触ることをして来たら遠慮はいらない。殴るなり、蹴るなり好きにして良い、俺が許す」 


 貴人達はよく似た顔を見合わせて豪快に笑い合った。

 明渓はふつふつと湧いてくる殺意をどうにか抑えた。



 明渓は空燕の後をついて火鉢が置かれた馬車に乗る。暖かさにほっとするも、すぐに霊宝堂に着いてしまった。


 黒を基調とした造りと横幅のある扉が明らかに他の建物と異なっていた。霊宝堂の前には大きな広場があり、崩御の際には扉が開かれ、広場からでもその一番奥にある位牌が並ぶ祭壇が見えるようになっている。

 その為、柱は少なく建物の中は意外とガランとして、とても寒い。


 明渓は数歩入った所で立ちどまる。中綿の入った上着を一枚羽織ってきたが霊宝堂の空気は刺すように冷たく、吐く息も白い。


 建物正面の祭壇に並んでいるのが歴代の帝の位牌。それに向かって右手の奥まった場所に控えめに皇后の位牌が並んでいた。帝の位牌が大きさ二尺程の金、皇后の位牌はその半分くらいの大きさの銀製だった。なかなか入る事ができない空間を物珍しく見渡す明渓の背にふわりと何かがかぶさった。


 見れば、先程まで空燕が着ていた外套だ。


「ここは冷える。それを着ていろ」

「そんな……それでは空燕様が風邪を召されてしまいます」


 慌てて脱ごうとする明渓を空燕が手で制する。


「俺は暑い国にも行くが、寒い国にも行く。これぐらい大した事ない」


 そう言ってニカッと人懐っこい笑顔で笑った。


(意外にいい人じゃない)


 会ったばかりの侍女を気遣う態度に明渓が感心していると、


「ほら、こんなに手が冷たくなっているじゃないか」


 いきなり手を取り、さらに撫でてきた。


「俺、異国暮らしが長くてさ、あっちではお互い親しみを込めて仇名で呼ぶんだ。メイちゃんとメイ、どっちがいい?」

「……他宮の侍女と親しくなる必要はないと思います」


 腕をサッと振り払い、こめかみを引き攣らせながら空燕を見上げる。本当は睨みつけたい所をぐっと我慢する。

 

(東宮がおっしゃていた、遠慮するな、の言葉の意味はこれだったのか。…………早く調べて帰ろう)


 今日は厄日だと思った。


「では、空燕様」

「コウでいいぞ」  ニカッ

「……空燕(・・)様、割れた白水晶はどこにございますか?」

「……あぁ、こっちだ」


 西洋式のエスコートだろうか。片手を明渓の前に差し出してくる。


「あの、空燕様。侍女にそのようなお気遣いは不要です」

「遠慮しなくていいのに」


 空燕は仕方ないと手を引っ込めると、ゆっくりと皇后達の位牌が並ぶ右側の祭壇へと近づいていった。


 祭壇には、台に載った三つの白水晶が置かれている。祭壇のすぐ両脇に置かれている物と、祭壇の中央から四尺程離れた場所に一つ置かれていた。その離れた場所にある白水晶が真っ二つに割れている。透明ではなく白濁した白水晶は魔を取り込み封じ込める意味があると空燕は説明した。


「この三つの白水晶を結ぶと祭壇の前に正三角形ができる。その空間は神聖な物とされていて、入れるのは司祭と皇族だけだ」


 明渓は中央の白水晶を覗き込んだ。それは綺麗に真っ二つに割れていた。次に左右の石を見ると、正面奥にある先帝の位牌がある祭壇にも近づいた。


「こちらにも同じ様に白水晶が置かれているのですね」

「あぁ、だが大きさが違う。一回り程こちらの方が大きい」


 ではここは関係ないか、と呟くとまた割れた白水晶の元へと歩いて行く。空燕は面白い物を見つけた子供の様な瞳でその後を着いて行った。


「空燕様、この三つの白水晶触っても宜しいでしょうか?」

「うーん、……いいんじゃない? いいよ、いいよ、何かあれば俺が責任取るから」


(本当でしょうね)


 軽い言い方にため息をつきながら懐から手拭いを出した。触ってよいと言われても素手で触るのには抵抗があった。


 明渓は割れた二つの塊を慎重に合わせて行った。断面は綺麗に重なり、再び一つになった白水晶は真ん中にヒビが入っているのを除けば他の二つと変わらない。


 さらに顔を近づけて、上下、左右から満遍なく見ていく。


「綺麗に割れてるだろう。砕けたと言うより二つに分かれた、と言った方がいいぐらい」


 すっかり、他人事の様な口調で後ろから空燕が覗き込む


「ここ、気になりませんか?」


 明渓は重ねた白水晶の上を顎で指した。 

個性的なキャラを、と思って作ったのですが、予想以上に濃いキャラになりそうです。


「砕破」は本来砕けるという意味ですが、語呂が気に入ったので使いました。ひび割れるっていう意味の漢字でいいと思ったのがなかったのです……


火、木、土曜日に投稿します。16時前頃になる事が多いと思います。

※あくまでも予定です。作者の都合で変わる事もありますが、ご了承ください。


作者の好みが詰まった物語にお付き合い頂ける方、ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。

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