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格差是正!その解は、賃金を引き上げた商人に減税!?

「国民達の間では、戦勝ムードがただよっているようです。かの強大な帝国の侵略をはねのけたことが、国家の自信につながっているのですね」


 エリスが前線からの報告をまとめ上げて報告してくれた。加えて国民が歓喜に満ちていることも知らせてくれた。戦争は双方死者・傷病者ともにゼロで集結したという、この上なく満足に、私は胸をなでおろした。


「一度有事を経験することで、平時では過剰ともとれるような生産力が、いざというときに強みになることを国民が経験できたことも大きいな。こういう機会がなければ、通常『もったいない』という感覚は捨てきれないものだ」


 そしてその影響は、次なる世代へも波及していた。マルキアの出生数は、桐生が執政官に着任して以来、増え続けていたのである。国民が豊かであることから、次は幸せを求めることは必然であり、婚姻の数が飛躍的に増えたのであった。


 これまでは農産物の生産者は収入が不安定であるから、婚姻に不利な場合があった。しかし国が余った作物を買い取ることで、実質収入を保証してくれるのだから、むしろ安定的な職業として人気を呼んだ。次世代の人口が増えることは非常に好ましいことである。次の世代の子供が成長すれば、あらたな生産者となり、消費者となり、時には国を守る兵士ともなる。しかるに子どもが生まれるということは、国家を成長させる重要な要素なのだ。





 マルキア国内の産業の勢いはとどまるところを知らず成長していた。そうするとやはり国内において、幾人かの商人が莫大な利益を上げて富を築いていった。他方その商人に雇われた労働者たちは必ずしもその富の恩恵を受けているとは言い難く、彼らの生活水準はそれほど高くなかった。


「商売が盛んなのは結構なことなのだが、労働者の賃金は依然として伸び悩んでいるのだな」


「そうなのです。労働者の賃金を上げれば儲けが減る……そのように考えている商人が懐を肥やしています」


「なんとかせねばいけないな。議会にかけあってみる」


 マルキア議会にて貧富の差が広がりつつある現状を説明し、執政官達はそれについて議論をはじめた。執政官達も私の影響を受けて、着実に貨幣や税の仕組みについて理解が深まっている。以前では考えられないほど建設的な意見が飛び交っていた。


「国が税制をもって富の再配分をおこなう必要がある。収入や資産に対する税制をより重くするのはどうか?」


「悪くないが、それをやりすぎると商人達の意欲をそぎかねない。商人達にマルキアを出ていかれては元も子もないぞ!」


 富めるところから徴収するという方向性は間違っていないのだが、商業を停滞させてしまっては本末転倒だろう。私は既存の案にアイデアを付け加えた。


「商人達の過剰な利益や資産に関しては、これに増税しましょう。ただし日給が銀貨5枚以上の労働者を雇っている割合に応じて税率を減らすようにしましょう。これによって労働者を安い賃金で働かせ、不当な利益をあげようとする商人達を抑制できます」


「つまり……きちんと労働者に給料を出す商人は税金を免除し、不当に安い賃金で労働者を雇う商人には重税を課すということですか?」


執政官達の理解もはやい。やはり議会できっちり質疑をおこなうことで、政治家は育っていくものだ。


「その理解で間違いございません。労働者にしかるべき賃金を支払うことで税が減免されるとなれば、商人達は労働者たちの最低賃金を引き上げるはずです。なぜなら商人達の気質として、儲けを税金でもっていかれるは最も嫌うことだからだからです」


「ううむ……国に納めるか、労働者に支払うかか。もしかすると半々に分かれてしまう可能性はないか?」


「仮に税金ではなく労働者に賃金として支払えば、貨幣は市場で流動することになります。賃金が増えた労働者がこれまで以上に消費するようになれば、商人達はさらに稼ぐ機会を得ることになります。どちらが彼らにとって得になるかは、言うまでもありません」


「なるほど……お金の動きに敏感な商人たちなら、おのずと労働者に分配する方を選ぶというわけか」


「国王様もご納得いただけましたでしょうか?」


「良いだろう。ただちにその制度を施行するがよい」


 この制度改革の結果、私たちの期待通り商人たちは労働者の賃金を引き上げだした。するとこれまで衣食住で精一杯であった労働者たちも、嗜好品をはじめとした贅沢品を買えるようになった。商人達はこれまで相手にしなかった庶民も顧客としてみるようになり、以前よりもさらに市場が大きくなっていった。


発展する経済に格差の拡大はつきもの。永遠に付きまとう課題です。次回は非常にデリケートな、あの話題です

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