第6話 初めまして、魔物さん。
朝方目が覚めるとまだそいつは眠っていた。
昨日は血だらけで瀕死の状態だったように見えたが、今はポーションのおかげか顔色はだいぶ良さそうだった。
良かった…。
何とか助かったみたい。
私は体に着いたままの血を少しふき取ってあげようと、近くに溜まっていた水たまりにハンカチを濡らし、目の前の男の顔に手を近づけた。
するとその時、急にその男はカッ目を開き反射的に私の手を振り払った。
「お前、今俺に何しようとした!」
彼の瞳はやはり昨日見た時と同じように金色に光り、明らかに威嚇していた。
私は一瞬の出来事に動揺していると、その男は私をジロッと睨みつけた。
「お前…黒魔導師だな?さては俺に…。」
そう言いながらもやはり傷が深いのか、全部言い終わる前に顔を歪めた。
私はその様子を見て少し冷静になると、ハンカチを持った手をずいっと彼の目の前に突き付けた。
「これ、あなた血だらけだから。使って。」
私は緊張のせいか言葉が少しぶっきらぼうになってしまった。
男はそのハンカチをじっと見て、そして私の方に視線を向けた。
「俺を助けたのか?」
そう聞かれたので私は「助けちゃ悪い?」と聞き返すと、彼は「いや…、助かった。」と一言呟いた。
すると先ほどまで光っていた金色の瞳はすうっと黒色に変わり、彼は力を抜いたようだった。
目の色が変わるなんて、やっぱり不思議な世界だなと思いながら私は鞄の中を広げた。
「お腹空いたでしょ。何か食べれる?」
私は先ほどまで光っていた不思議な瞳をじっと見つめながら尋ねた。
するとやっぱり彼は同じことを呟いた。
「美味そうな匂いがする。」と。
私は匂いなんかするかなと思いながら、お水と食べやすそうなゼリーを彼の口に入れてあげた。
「どう?美味しい?」と尋ねると、彼は黙ったままじっと私を見ていた。
そして「しばらく休むからここにいろ。」と言い、またそのまま眠ってしまった。
いやいや、ここにいろと言われてもと思いながら、けが人を一人残すこともできず私は結局ここに留まることにした。
しばらく彼がぐっすり眠っている様子を見て、私は少し食糧を探しに洞窟の外に出た。
運が良ければ何か果実とかあるかもしれないと思ったのである。
外に出ると私は洞窟の場所を見失わないように気を付けながら、周りを散策した。
気づけば近くに川があったので、これで彼の血を落とせるかなと思い少し水を汲んだ。
またリンゴやチェリーに似たフルーツがあったので、それもいくつかもぎ取って洞窟に戻ると彼はすでに目を覚ましていた。
「どこ行ってたんだ?ここにいろと言ったのに、仲間でもいるのか?」
彼はまた探るような目つきで私を睨んでいた。
「違うわ。私は一人よ。いくつかフルーツがあったから取って来たの。あと…。」
私は彼にグイっと近づき、汲んで来た水でハンカチを濡らしながら彼の血を拭ってあげた。
「少しでもキレイにしようと思って…。」
すると彼はふふっと笑って「変なヤツ。」と言った。
ポーションが効いたのか彼の回復は凄まじく、傷もだいぶ癒えているようだった。
私は彼に名前を聞くと「ルーカス」とだけ答えてくれた。
ただ何で血だらけなのかとか、誰にやられたのかなどは一切教えてくれなかった。
まぁ、聞いたところでどうにかできるわけじゃないんだけどね。
ルーカスも名前を聞いてきたのでアリーシャと答えると、彼は長いから「アリー」と呼ぶと言った。
私は別に構わなかったので「どうぞ。」と答えた。
一日経つとルーカスは動けるようになり、近くの川で体に着いた血を落として戻って来た。
私はその時改めて思ったが、ルーカスはかなりのイケメンである。
血だらけだった時はそちらに気を取られていたが、血を拭う度に整った顔だなと思っていた。
黒髪に切れ長の目、そして身長も180?いや、190くらいはありそうだった。
私は思わず口に出してしまった。
「ルーカスってカッコイイよね。」
すると彼は目を丸くし「そうか。」と照れていた。
私は大きな体で照れるルーカスが何だか可愛らしかった。
それから私とルーカスはたわいもない話をしていたが、ルーカスが突然話題を変えてきた。
「ところでさ、アリーは黒魔導師なんだよな。一体どんな魔物と契約しに来たんだ?」
彼はなぜか私を見ながらそわそわしていた。
「えっと、私はモフモフと契約しようと思って。」
「モフモフだって!何で!?」
その反応はノクスと同じだなと思いながら、私はただ「可愛いから。」とだけ答えた。
「可愛いって…。アリーは魔力量も多いしもっと強いヤツのがいいんじゃないか。例えば俺とか。」
「あはは、何言って…。」
私はあまりにサラッと言われすぎて思わず聞き逃してしまいそうになったが、今、こいつ…俺とかって言わなかった?
「ねぇ…ルーカス。一つ確認したいことがあるんだけど…。」
私は恐る恐る彼の顔を見た。
考えてみれば目が金に光って、今は黒目とかおかしくない?
いや、この世界で目が覚めてからずっとおかしいんだけどさ…。
「何?」
「ルーカスって、もしかして魔物だったりする?」
すると彼はあっさりと答えた。
「そうだけど。アリー気づいてなかった?」
彼はニッコリと笑った。
その時、私はルーカスの笑顔を初めて見た。
それはやっぱりカッコ良かった…。
魔物だけど。
たくさんのストーリーの中から読んでいただき、ありがとうございます。
次話は本日23時に更新予定。