第5話 東の森のはずだよね?
「あれ?おかしいな…。」
私は辺りを見回しながらモフモフを探していた。
ノクスは森に入ったらすぐに見つかるって言ってたのに。
もしかして探し方が悪いのかな…?
私は鬱蒼と茂る木々の間をひたすら道なりに奥へと進んでいた。
森はだんだんと深くなり、木々が太陽の光を遮って薄暗かった。
私はだんだんと心細くなっていくのを感じたその時、遠くの方で人の声が聞こえて来た。
なんだ!
私だけじゃなかったんだ!
私は急いで人の声のする方へと足を進めた。
出来ればちょっと手伝ってもらうのもいいかもしれない。
そんな軽い気持ちで私はその声に近づいて行った。
そして私はこっそりと木の陰から覗くと、やっぱりそこには人がいた。
4人?
いや5人か…。
いかにも魔導師といったローブを身に纏い、何やら話している。
やっぱり私と一緒で何かの魔物を捕まえに来たのかなと思い声を掛けようとした時、私は体が硬直してしまった。
その中の一人が「殺さず生け捕りにしろ」と言っていたのである。
私はその声にビクッとし、しばらく動けなかった。
殺さず生け捕りにって…。
私は生きてきて今まで聞いたことのないフレーズに体が震えるのを感じた。
映画やアニメでは聞いたことがあっても、実際に耳にするのとは違う。
しかも彼らは本気で何かを捕まえようとしている。
その時、私はノクスの話を思い出した。
強制的に魔物を使役する「血の契約」の話を…。
私は恐ろしくなりその場を少しずつゆっくりと離れると、勢いよく彼らが向かった方とは反対方向へひたすら走った。
見つかったら私もひどい目に遭うかもしれない。
この世界のことはよくわからなくても、いい人か悪い人かは直感で分かるものだ。
私は彼らが何か邪悪なもののように感じていた。
そしてひたすら走って彼らの声も届かないほど遠くに来た時、私ははたと気が付いた。
「やばい…。道がない…。」
この異世界でたった一人。
右も左もわからないこの森で彷徨うなんて。
私はその場でペタンとへたり込んでしまった。
辺りは随分と暗くなり、夜の闇が迫っていた。
♢♢♢
私は取りあえず隠れるようにしてあった洞窟を見つけ、その中に潜り込んだ。
とにかく落ち着くのよ、アリサ…いやアリーシャか。
こういう時はやたらに動いてはダメ。
遭難したら救助を待つ!
これ鉄則よね。
そう思いながら救助って来るんだろうかと思った。
携帯があれば助けを呼ぶのに…。
そう思いながら洞窟の奥をじっと見た。
ここって奥、深いのかな…。
どうせなら奥で隠れた方がいいのかも。
熊みたいな魔物が出てきても困るし。
そう思い私は洞窟の奥へと進むことにした。
暗くてよく見えないので、足元や天井を手で確かめながらゆっくりと進んだ。
すると奥の方から「フー、フー」と微かに息切れをするような音が聞こえた。
私は怖かったが、やはり怖いもの見たさか好奇心に負けそのまま突き進んだ。
そして私はここが平和な世界でないことを改めて知る。
そこには血だらけの男が一人、ぐったりしていたのだ。
洞窟の入口から射し込む月の光でも分かるくらいに、彼は血だらけであった。
私は一瞬「ひゃっ!」と小さな声を上げ、恐る恐る彼に近づいた。
生きてる…みたいだけど。
私はこういう時に前世で看護師や医者であれば良かったと後悔した。
今の私に一体何が出来るのだろう。
すると彼は薄っすらと目を開け小さく呟いた。
「美味そうな匂いがする。」と。
その時、彼の瞳は一瞬金色に輝いて見えた。
そして彼はまた目を閉じた。
美味そうな匂い…?
私は鞄を開け、詰め込んだ食糧やポーションなるものを見た。
そうだ!
怪我した時用にと、よくわからないけどノクスにポーションなる薬をもらったんだった!
正直このポーションというやつがどこまで効くのか分からなかったが、これを彼に飲ませる以外の選択はなかった。
なぜならこのまま何もしなければきっと彼は死んでしまいそうだったから。
私は彼の口を開けると、そこにポーションを流し込んだ。
コクコクと少しずつ喉を通っていく様を見て、私は少し安心した。
どれくらいこの薬が効いているのかわからないが、先ほどのように苦しむ様子はなく、落ち着いた様子で眠っていた。
私もそれを見て少し安心したのか、彼の様子を見ているうちにウトウトとしいつの間にか眠ってしまった。
明るい満月の光が洞窟の中にいる二人を照らしていた。