第3話 書庫に向かえ!
早速、私はノクスと一緒にアカデミーの書庫に向かうことになった。
アカデミーに行くとき馬のない馬車のようなものが家の前に止まっており、それに乗って行くと言う。風魔法が付与されていて勝手に連れてってくれるらしい。無人運転手の車みたいなもんかなと思う。
私はアカデミーに向かうまでに、またノクスから色々なことを聞いた。
どうやらこの世界は皆多かれ少なかれ魔法能力があるらしく、その中でも魔力量が多かったり強い魔法を使える者は十歳からアカデミーに入るらしい。
そしてそのアカデミーにいられる期間は最大六年…。
ということは私は今、十六歳ってことね。
「あっ、そうだ。ノクス…。私が魔法に関する記憶がないこと、私の両親には黙っててくれる?」
彼はまたも不思議そうに私を見た。
「えっ、どうして?」
「だって心配かけたくないじゃない?気づかれたら仕方がないけど、それまでは黙っててほしいの。」
きっと死んだ私を見てすごく悲しんでる両親のことを思うと、たとえ実感のないこの体の親でもこれ以上悲しんでほしくない。
そう思った。
「わかったよ。黙っとく。」
そう言うと彼は複雑そうに笑った。
ああ、やっぱりこのノクスって子を頼って正解だった。
彼には今後も助けてもらわなくっちゃ。
私もニッコリと彼に笑い返した。
♢♢♢
アカデミーは私の想像してた所よりもはるかに大きかった。
海外の大学って感じね。
敷地内に大抵のものはそろっているらしく、遠方から来た人のために寮も完備しているらしい。
そこでノクスと一緒に書庫に向かっていたが、急に後ろから甲高い声がして振り返った。
「あら、そこにいるのはアリーシャじゃないの。」
腰まである赤い髪が印象的な気の強そうな女の子だった。
「まだ魔物を使役してないようだけど、本当に卒業できるのかしら?まぁ、私のように火魔法でも使えたら話は別だったんでしょうけどね。」
私は目の前でまくしたてる女の子を見て唖然としていた。
こんな嫌味なことを直接言う人なんて、実際にいるんだ、と。
「ちょっと!何とか言いなさいよ!しかも何?その服…。これから演習にでも行くつもり?それとも早速あんたのそのしょうもない黒魔法で魔物を捕まえに行くのかしら?」
何なんだろう…。
一体、この子は。
「えっと…どちら様でしたっけ?」
すると彼女はさっきよりも怒りだして、声を荒げた。
「何ですって!馬鹿にしてんの?ちょっとノクスと仲がいいからってこのディアナ様に喧嘩売る気?」
なるほど…。
ディアナって名前なのか。
それとノクスと仲がいいのが気になるのか…。
私はこんな小娘の戯言に付き合っている暇はないと思い無視して行こうとすると、後ろからすごい勢いで腕をつかまれた。
「ちょっと無視すんじゃないわよ!」
私はその腕をブンっと振り払うと、ジロッと彼女を睨みつけてやった。
「いい加減に…。」
そして彼女に少し仕返ししてやろうと思った私はノクスの腕に自分の腕をスルリと絡めた。
まるで恋人同士のように少しもたれ掛かると、ノクスは耳を赤くした。
「私とノクスはこれから一緒にデートなの。邪魔しないでくれる?」
彼女はワナワナと震えるのを見て、私は少し気分が良かった。
あなたと私がどんな関係かは知らないけど、つかかってきたのはそっちが先よ。
それにこっちはあなたより年上なんだから。
「行きましょ。ノクス」
私はノクスを引っ張るようにして歩き出した。
「アリーシャ。覚えておきなさいよ!あんたなんか卒業すら出来ずに一人ここを去るんだからね!」
何か後ろからギャーギャー言っていたが私は完全に無視した。
でもあながち当たってないとも言えないのだ。
彼女の言ってることが現実にならないようにしなくちゃ。
私は足をずんずん前に進めた。
するとノクスが私の腕を引っ張るので「何?」と聞くと、彼は申し訳なさそうな顔をして言った。
「アリーシャ…書庫は反対だよ。」
そうだった。
私、ここ初めて来たんだった。
何だか急に力が抜けるようだった。