第2話 私の魔法は何ですか?
同い年くらいの栗色の髪をした青年は入ってくるなり悲鳴を上げた。
「うわぁああああ!」
えっ?
何?
「アリーシャ!なんて格好をしてるんだ!服を着てくれ!」
ノクスは目を手で覆いながら後ろを向いた。
えっ、服?
「何言ってるの?着てるじゃない。」
私は自分の服を改めてみた。
白い清楚な感じのワンピースを着ていた。
「そうじゃなくて、それ、ナイトドレスじゃないか!僕だって一応男なんだぞ!」
彼は後ろから見てもわかるくらい耳が真っ赤っかだった。
ナイトドレス?
あぁ、パジャマのことか…。
私は自分の着ているものを改めて確認した。
確かに…ちょっと生地が薄いかも。
「あーえっと、ごめん、ごめん。すぐ着替えるからちょっと待ってて。」
私は慌ててすぐクローゼットを探した。
それっぽいものを見つけて中を見てみると、ドレス(?)のようなひらひらしたワンピースがいくつもハンガーに吊るされていた。
うーん…。
私の趣味じゃないなぁ。
私は他にないかと引き出しを開けると、丁度よさそうな白シャツとベージュのズボンがあった。
私はこれでいいかと思いそれを着ることにした。
「ごめん、お待たせ。服、ちゃんと着たわよ。」
私はもう一度、ノクスという青年に声を掛けた。
すると彼は私を見るなり少し不思議な顔をした。
「なぜ演習用の服を着てるんだい?今日は学校はないはずだけど…。」
彼は首を傾げていた。
しまった!
これ、普段着じゃないんだ。
ってことはさっきのあのヒラヒラしたやつが普段着なの?
絶対動きにくそうなんだけど…。
私は心の中でこの世界の服装についてちゃんと知る必要があるなと思いつつ、何か言わなきゃと内心あわてていた。
「ちょっとね…。今はこの服が着たい気分だったの。」
私の言い訳はちょっと自分でも苦しいなと思いつつ彼に視線を向けた。
彼は変わらず不思議そうな顔をしていたが、特にそのあと追求することもなく部屋にあった丸テーブルのそばの椅子に腰かけた。私もすかさずその隣の椅子に腰かけノクスという青年の顔をまじまじと見た。
栗色のストレートヘアーがキレイに切りそろえられており育ちが良さそうな青年だった。瞳の色は翡翠のような綺麗な緑色をしていて、クリッとした目がちょっと可愛いなと思った。
「何だい?そんな人の顔を見て。そんなに見られると恥ずかしいじゃないか。」
彼は目線を少し反らしながら顔を赤くしていた。
その反応を見て、私はピンときた。
この青年はこの子のことが好きなんだな、と。
だけどもうノクスという青年が知っているアリーシャではないことに、少し心が痛んだ。
「ごめんね。えーっとノクス…実は何か起きたらちょっと記憶が飛んでて色々思い出せないんだ。もしかしたらどこかに頭をぶつけたのかも。」
我ながらなかなかうまい言い方をしたなと思った。
これならば色々知らなくても記憶喪失ということで何とかなる!
ノクスには申し訳ないけど、彼には色々聞いて教えてもらわなくっちゃ。
「えっ!?それ大丈夫なの?もう卒業式まで一週間を切ってるのに。早く魔物を使役しないと君の場合卒業できないじゃないか!」
ん?
卒業?ってことは学生?
それでもって魔物?使役?
おいおい何か物騒な話をしてるけど、この世界は魔法だけじゃなく魔物もいるの?
「えっと…ごめん、ノクス。…私、本当に記憶が…そう、魔法に関する記憶が全部ぶっ飛んでて全然覚えてないんだけど、その魔物を使役しないとどうして私卒業できないんだっけ?」
てか魔物を使役ってなんじゃ?
どっかのゲームの世界じゃあるまいし、魔物とかマジ勘弁なんですけど。
「えっ!それ本当なの?それはかなりマズイよ。だって君は魔物と契約して使役する黒魔法しか使えないじゃないか!僕みたいな風魔法と違って、黒魔法は魔物を使役して初めて認められるし…。何より君はより強い魔物を得るために卒業ギリギリまで訓練して森に行くって言ってたのに、それを忘れただって?」
何ですと?
黒魔法だって?
何だかよくわからないけど、魔物を使役することしかできないんかい!
どうせならファイアーとかヒールとか、そういうのが良かったんだけど。
というより強い魔物とか拘ってないで、さっさと使役しとけよ。
ギリギリすぎでしょ!
「えーっと、やっぱり魔物を使役してないとその卒業ってのは出来ないのかな?ほら、私、状況が状況だし…。」
てかそれで何とかお願いしたい。
魔物を使役とか考えただけでヤバすぎる。
「それは無理だよ。魔物なしの黒魔導師は使い道がないから、アカデミーの卒業までに魔物を使役するのがルールなんだ。もしこのまま魔物を使役せずに卒業の日を迎えたら、君はアカデミー中退という経歴だけでなく仕事すら見つからないよ。」
何ですと!
つまりこのまま何もしないと私はニートまっしぐらってこと?
それはさすがに嫌だ。
家は金持ちそうだけど、そういう問題じゃない。
ただ生きてるだけの人生なんて、せっかく転生したのに意味ないじゃない!
あーもうっ!
やっぱりそんな甘くないか…。
とりあえずもうちょっと情報が必要だわ。
どんな魔物がいて、どうやって使役するのかだけでもすぐに調べなくちゃ。
「ねぇ、ノクス。お願いがあるんだけど…魔物図鑑みたいなものってあったりする?あと魔物の使役の方法も知りたいなーなんて。いやー本当に魔法に関して記憶がなくなっちゃって。」
彼は啞然とした顔で私を見ていた。
いや、ホントに、私もこれは苦しい言い訳だと思うけどどうしようもないの。
今頼れるのはあなただけなのよ!
彼はフーっと息をついてから、もう一度私を見た。
「本当に魔法のこと何にも覚えてないみたいだね。僕がもうちょっと早く君を助けてあげられたら…。魔物に関する資料はアカデミーの書庫にあるよ。あと黒魔法も僕は使えないけど簡単な基礎知識なら知ってるから教えるよ。」
あぁノクス!
あなたが今は神に見えるわ!
「ありがとう!ノクス!」
私は彼にギュッと抱きつきハグをした。
ノクスはまたもや顔を真っ赤にしてあわてていた。