君と僕の、十二ヶ月後の世界
~十二ヶ月後~
「お父さん、早く起きて!」
「・・・いま何時?」
「もう七時半!」
あれから、一年が経った。
「朝練あるからもう出るよ。ちゃんとご飯食べてね!」
「うん。気を付けて」
一年が経って思ったのは、案外、君がいなくなった日常も、
小さな幸せに満ち溢れているという事だった。
もちろん、君がいないことを寂しく思う時もあるけれど、
それでも僕が幸せを見つけることができているのは、
間違いなくハルがいてくれるからだ。
「あ、そうだ」
ハルは僕の方を振り向くと、
「今日もお仕事、頑張ってね!」
そう言って、玄関を出て行った。
「・・・うん。ありがとう」
仕事へ向かう電車の中で、
カップルらしき男女の会話が耳に入ってきた。
「何か欲しいものある?」
「急にどうしたの?」
「今週末、誕生日でしょ。何かない?」
「うーん・・・。あ!ネックレスが欲しい!」
「ネックレス?」
「うん。これ見て」
そう言いながら、その女性は持っているスマホの画面を男性に見せた。
「え、これ?ピンクの花のネックレスって、ちょっと子供っぽ過ぎない?」
「それで良いの。もし私たちに子供が出来たら、
もしその子が大きくなった時にこれをつけてくれたら、
なんか素敵だと思わない?」
眠たいときに寝れないのに、
眠くない時に寝なきゃいけない。
話したくない時に話しかけてくるくせに、
話したいときに話しかけられない。
大切なものを失くしたと思ったら、
守りたいものはもうそこにある。
君と出会うまで、一日一日を生きることが、
こんなにも大変で大切な事だとは知らなかった。
さぁ、ユズ。
いつも通りの一日が、始まるよ。
今回で最後になります。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
近日、別の短編を少しずつ投稿しようかと思ってますので
もしよろしければ、またお付き合いいただけたら嬉しいです。