二十年前の、君と僕のお話
~二十年前~
「はい、これ貸してあげる」
「・・・小説?」
「小説っていうか、おとぎ話かな。
世界で一番古いおとぎ話って言われてるの」
「・・・おとぎ話」
「このおとぎ話も、私たちに新しい感情をくれた架空の物語の一つだから」
人と話すことが嫌いなわけではなかった。
ただ、当時は人と話すことが、なぜだかとても怖いことのように思えた。
「ちゃんと読んでね!」
「ちょ、ちょっと待って・・・」
君は無理矢理僕にその本を渡すと、どこかへ行ってしまった。
僕は一週間かけて、そのおとぎ話を読み終えた。
「・・・あの、秋月さん」
「何?」
「これ、ありがとうございました」
「読んでくれたんだ!!どうだった!?」
「・・・面白かったです」
「それだけ?」
「・・・」
「ねぇ、君はどう思う?」
「何がですか?」
「このおとぎ話は、私たちにどんな感情を与えてくれたと思う?」
君が貸してくれた本は、世界で一番古いおとぎ話と言われており、
その内容はというと、裏切りや憎悪といった、
人間の欲が嫌というほど表現された物語だった。
なんで彼女は、よりによってこの本を僕に貸したのかと、
おとぎ話を読んでいる間も、
話の内容より、そっちの方が気になって仕方なかった。
「・・・“恐怖”ですか?」
「恐怖かー。私はね、“嫉妬”だと思うんだ」
「嫉妬?」
「まぁ、あくまで私がそう感じただけなんだけどね。
だって、これは架空の物語だし、人の感情が何処から来たかなんて、
結局は想像でしかないでしょ」
・・・そんな、元も子も無いことを。
「・・・なんで、この本を僕に?」
すると彼女は、僕の目を真っすぐ見つめながら言った。
「だって君、このお話に出てくる人たちと、真逆だから」
「・・・え?」
「だから、君みたいな人がこのお話を読んだら、
どう思うか知りたかったの。それに・・・」
彼女は、続けて言った。
「君は優しい人なのに、それを必死に隠そうとしてる。
他の人は、自分がいかに良い人間かをアピールすることで、一生懸命なのに。
なんであなたは、周りに対してずっと無関心を装っているの?」
“無関心を装っている”
その言葉は、当時の僕を表すにはあまりにも適切すぎる表現だった。
「君は本当に優しい人なの?それとも、他の人と同じく、
頑張って優しいふりをしているだけなの?」
そう言うと、君はまたどこかへ走って行ってしまった。
毎日少しずつ更新しています。
明日の更新で最後になります。
よければ、最後までお付き合いいただけたら幸いです。