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十ヶ月後の世界

~十ヶ月後~


毎週末にユズの墓参りに行くことが、ハルと僕の習慣になっていた。


「パパ、これ」


ハルは、墓前で手を合わせていた僕に、一枚の封筒を手渡した。


「・・・これって」


封筒には、懐かしい文字で“パパへ”と書かれていた。


「そう。ママから」


あまりにも予想外の出来事に、僕は“パパへ”と書かれたその文字を、

じっと見つめることしかできなかった。


「これ、どうしたの?」


「本当はね、もうちょっと後で渡すようにって、

ママから頼まれてたんだけど」


封筒を開けると、中には手紙が一枚だけ入っていた。




---------------------------------------------

パパへ


今日も、お仕事頑張りましたか?


ハルとは、仲良くやってる?


どうしても伝えなきゃいけないことがあるのを思い出したので、

初めてあなたに手紙を書くことにしました。


付き合い始めて間もない頃、あなたは私に

「どうして僕なんかを好きになったの?」

と聞いたのを覚えてますか?


あの時、私は恥ずかしくなって、

その質問にきちんと答えてあげませんでした。


そして、気づけばこんなにも時間が経ってしまいました。


こんなに遅くなっちゃって、ごめんなさい。



あなたのことを好きになった理由。 


それは、あなたが優しい人だからです。


もしかして、もっと素敵な理由を期待してた?


残念だけど、あなたはあなたが思っている以上に、普通の人です。


そして、あなたはあなたが思っている以上に、優しい人です。


 

初めてあなたに声をかけた日の事を覚えていますか?


実は、あの日の前日、あなたが迷子の男の子に声をかけ、

そして、手をつないで一緒に交番まで行く姿を偶然見かけました。 


その時です。


あなたのことを好きになったのは。


それだけです。


あなたを好きになった理由は。


あなたが優しい人だから、私はあなたのことを好きになった。

こんなに素敵で、これ以上に特別な理由は、他にありません。

 



最後に、私から一つだけお願いです。


あなたのことだから、いつだってハルのことを一番に考えて

頑張っていることと思います。


けれど、時々でいいから、自分のことも大切にしてあげてください。


私は大丈夫だから。


ハルと、そしてあなた自身のことを、

精一杯大切にしてあげてください。


あなたがいつかこっちに来たときは、その時はまた、

私のことを大切にしてくれれば、それで私は十分だから。


その時まで、私はいつまでも待ってるから。

 

最後まであなたの隣にいれて、私は本当に幸せでした。

---------------------------------------------




「それと、これもママから」


ハルの手には、色あせた一冊の本が握られていた。


「ママが、一番の宝物って言ってた」


 

あぁ、そっか。


まだ、あったんだね。


こんなにボロボロになるまで。


ずっと、大切に持ってたんだね。



 

ねぇ、ユズ。


ごめんね。



僕は、君に特別なことなんて一つもしてあげられなかった。


君の隣にいたのが僕なんかで、本当に君は幸せでしたか?



一週間、少しずつ更新予定です。

短いので、よければ最後までお付き合いいただけたら幸いです。

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