四ヶ月後の世界
~四ヶ月後~
その日、事件は起こった。
きっと僕は死ぬまで、この日のことを忘れることはないだろう。
「コロッケ2つお願いします」
仕事の帰り道、近所のお肉屋さんへ寄っていた時の事だった。
「はいよ。2つで160円ね」
会計を終え、ふと店の外に目をやると
ハルが店の横を通り過ぎるのが見えた。
“ハル!”
そう声をかけようとした瞬間、彼女の隣に男の子がいるのが見え、
喉元まで出かかっていた言葉を急いで飲み込んだ。
しかも、ハルはその男の子と楽しそうに
手までつないでいるじゃないか。
「ちょっと!お客さん!コロッケは!」
・・・見てはいけないものを見てしまった。
そう思った僕は、コロッケのことなんかすっかり忘れ、
逃げるようにお店を飛び出すと、
気づけば、ハルが向かって行った方向とは逆の方向に、全速力で走っていた。
家に着くと、ハルはまだ帰ってきていなかった。
とにかく、平常心だ。
そもそも、僕がこんなにも動揺する理由なんか、無いじゃないか。
いつも通りにしてればいいんだ。
いつも通り。
いつも通り。
いつも通り。
・・・あれ?
いつも通りって、どうやるんだっけ?
「ただいまー」
そんなことを考えていると、玄関からハルの声が聞こえた。
「今日はお仕事終わるの早かったんだね」
「・・・うん」
「今日も、お仕事頑張った?」
「・・・うん」
平常心、平常心。
いつも通り、いつも通り。
ハルに怪しまれないようにしなきゃ。
「・・・パパ、何か隠してるでしょ」
ハルは、僕の顔をじっと見つめて言った。
「え?」
「私に隠し事してるでしょ」
なんでバレたんだ!?
いつも通りにしているはずなのに・・・。
「そ、そんな。隠し事なんて何も無いよ。それより、学校はどうだった?」
慌てて話題を逸らした僕を怪しそうにじっと見つめていたが、
ハルはそれ以上、僕に何も聞いてこなかった。
「別に、いつも通りだよ」
「・・・そうか、いつも通りか」
「そういえば、彼氏がね・・・」
「・・・え?」
気のせいだろうか?
“彼氏”という単語が聞こえたような気がしたんだけど。
「・・・パパ、顔がヤバいことになってるよ」
動揺が全て顔に出てしまっていた。
「ハル、彼氏いるの?」
「うん。言ってなかったっけ?」
「・・・初耳です」
ねぇ、ユズ。
もし出来れば、お願いしたいことがあるんだ。
神様は僕たちに、乗り越えられる試練しか与えないとはいうけれど、
できれば次からは、もう少しだけ簡単な試練にしてくれるよう、
神様に相談しておいてくれないかな。
短編です。
一週間、毎日少しずつ更新していく予定です。
よろしければ、最後までお付き合いいただけたら幸いです。