あの日のことと、君のこと
「私達の身体の中には、一体何種類の“感情”が入っているのかな?」
高校二年生の夏、今まで一度も話したことの無かった君が、
突然そう尋ねてきた。
「知ってる?人って、架空の物語を発明する度に、
感情を一つずつ手に入れてきたんだって。凄いと思わない!?」
君は、クラスの人気者で、誰とでも分け隔てなく接することができた。
対して僕は、いつも一人ぼっちで、他人と関わることを極端に避けていた。
だから、そんな僕からしたら、君はとんだ”変わり者”だった。
そんな”変わり者”の君が、クラスの皆が見てる前で、
僕みたいな”変わり者”に堂々と話しかけてくるなんて。
やっぱり君は、僕が思っていた通りの、とんだ”変わり者”だ。
「でもさ、物語を発明するたびに感情を手に入れるって、
それって本当かな?」
そんな事、僕が知る由もない。
「はい。これ貸してあげる」
彼女は、一冊の本を僕の机に置いた。
「この物語は、私たちにどんな感情をくれたのかな?」
そう言うと、彼女はどこかへ行ってしまった。
あの時は突然話しかけられてびっくりしたけれど、
今となっては、そんなこともあったねと、
それくらいの思い出になっていた。
君との思い出を話しても、君は、
“そんな事知ってるよ。なんか他に面白い話ないの?”
と言うだろう。
だから、君の為に、
君がいなくなった世界のお話を、少しだけしようと思う。
今日から、一週間ほどかけて更新していこうと思います。
短いので、少しお時間が空いた際に読んでいただけたら嬉しいです。