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第三十六話「無力な僕が勝つために」

 

「⋯⋯正攻法で勝つのは無理があるので」


——二人は気楽そうにあくびをしながら話を聞いている。どうしてそんなに悠長に構えていられるのだろう。一番危ないのは二人なのに。

 それにマレストのことだ。さんざんただ働きさせた挙句最後には置き去りにするのだろう。まるで悪魔だ。


「麻痺薬を使ってどうにか首元に剣を当てられれば、勝てませんかね⋯⋯」


 僕の言葉を聞き、ケルは一つ言葉を発した。


「そんな面倒なことしなくても魔術でどうにかなるんじゃないか?」


 その提案は反対することになる。マレスト相手にまともに魔術で戦っても敵わないだろう。それに、魔術は発動までに手間がかかる。おそらくマレストに妨害されるだろう。


「うーん、儀式の準備が必要ですし。発動に時間がかかるので戦闘向きではないんですよね。時間がかからないなら魔術を使えればいいんですが⋯⋯」


 なんせ魔術は素材や呪文詠唱などさまざまな段階を踏む必要があるので戦闘には用いにくい。だから古代では面と向かうことなく相手を呪い殺すために使われてきたのだ。

 喫茶店の机で考えること数時間。苦肉の策だがどうにかまとめあげることができた。


「それじゃあ、僕は麻痺薬を作るのでタードさんは材料の薬草を一緒に摘んでくれますか? 終わったら宿に来てください。それと⋯⋯ケルさんは、僕でも無理なく振れる程度の短剣を一緒に選んで欲しいです。」


 ここでぐだぐだしている余裕はない。早速行動を起こさなければ。



 カンカンと金属同士がぶつかる音が響く。隣の工房から音が出ているようだ。


——沢山の輝く刃物。食器はもちろんのこと、剣や盾といった武器も沢山置かれている。どれも銀の光を放っておりとても高そうだ。


「わあ、一口に刃物と言ってもいっぱいあるんですねえ」


 見本用に置いてある一つのナイフとフォークのセットを手に取る。持ちやすい大きさで使い手のことがしっかりと考えられていそうだ。自分用に買いたいくらいだが、値札を見てそっと元に戻した。


「ところで、剣と言っても色々なものがあるがどういったものにするんだ?」


「そうですね⋯⋯。とりあえず、あまりに大きいものだと持つことすらできないので小さい方がいいです」


 そういうと、「そうか」と一言口にした彼は数本短めの剣をこちらに持ってきた。


「この大きさならお前でも無理なく振るうことができると思うが、どうだ?」


 一つ手に取ってみると、なるほど。結構重い。振ることはできるだろうが身軽さを欠いてしまうだろう。

 本来ならもう少し体を鍛えておくべきなのだろうが、生憎僕は運動は得意じゃない。それに決闘は明日ということもあって鍛えても効果は薄いと考えた。


「⋯⋯もう少し小さいものってありますか? 僕には少し重いみたいで」


「うーん、これ以上小さい武器となるとダガーナイフくらいしかないな」


「え、そのダガーナイフってどんなものなんですか?」


「ああ、腕の長さかそれより短いくらいの刃物だ。切りつけるというよりも突き刺したり投げたりして使うことが多いな。そして、致命傷を与えるには向かない。あくまで護身用として考えるべきだ」


 手渡された実物を見るとダガーナイフという名前の通り、大きさは大きめのナイフを彷彿とさせる。そして、鋭い剣先がギラリと輝いている。


「これなら、僕でも扱えるかな⋯⋯?」


「大丈夫か? 相手の間合いに入らないと使えないから心細い気もするが」


「とりあえず、やるだけやってみますか。あの作戦だと剣よりもこういったやつの方があってるみたいです」


 手に馴染む大きさ。これなら隠し持って一気に勝負をつけることができそうだ。早速カウンターへ持って行きお金を支払う。

 これからも使うことを考えると高いわけでもなく、良い買い物をした気がする。


「よし、あとはタードが材料の薬草を持ってくるのを待つだけだな」


「そうですね、その間少しだけこれの使い方を教えてくれますか?」


 半日だけ練習したところで付け焼き刃にはなるが、今はそんなこと言ってられない。なんとしても勝つ。そうでなければ、二人の人生をひどいものにしてしまう。

 あの時二人が止めなければこのようなことにはならなかったはずなのに、と。ひとつため息をついた。

⋯⋯しかし、このような現状になった以上戦うしかない。




 宿の畑で寒い中ナイフを振る。突き刺すような寒さが僕の身体を震わせていた。ハラハラと降る雪が更に寒さを厳しくする。


「いいか? ダガーナイフは小回りが効く武器だ。しかしリーチがとても短い。そしてさっきからナイフを振っているが使い方は基本的に刺突だ。ちょっといいか?」


 後ろから手首を掴まれ、ナイフの持ち方から構え、動きを教わる。そう単純なものではないようだ。一見ただナイフを振り回すように見えてもそこには手首の使い方や姿勢、力をかける場所等様々な要素が複雑に絡み合っている。


「刺突後はナイフが抜けにくいことがある。一発で急所を狙えばいいが⋯⋯」


「急所、ですか。どこが相手の急所なのでしょう」


 そういうと少し考え込んだのち彼は僕の首に触れた。その後も下へと手が動いていく。


「人間の場合首や心臓の部分が急所になる。大体の生き物もその辺りを狙えば間違い無いだろう。⋯⋯逆に今触れたところは相手も狙ってくるから気を付けろよ。よし、それじゃあ次は一人でやってみろ」


 そう言って彼は手を離す。刃物を振るうという経験が命を奪うものだと言うことが改めて感じさせられて、緊張が走った。

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