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第二十話「謎の場所で」

 目を開けると、石で囲まれた個室に放り投げられていた。床には何かの植物の葉が散らばっている。

 植物の知識はだいぶあると思っていたが、それでも初めて見た。試験問題にも出ていない気がする。

 それにしても頭が痛い、眠りすぎたようだ。のびをするために立ち上がろうとした時。

 ⋯⋯めまいと共に物凄い吐き気がこみ上げてきた。なんとか我慢しようとするがついには床に嘔吐してしまった。


 吐瀉物には緑色の破片が見られる。形から散らばっているものと同じもので間違いなさそうだ。

 殴打された腹部の痛みは全く感じないが、異様に暑い。吐いた後は体調も良い。

 ドアを開けようとしても鍵がかかっているようだ。また、出られそうな穴もない。

 策は尽きた。けれどもここに僕を連れてきたということは誰か管理者か誰かが訪れるだろう。

 特に珍しくも美しくもなんともないこの体をこのまま飼い殺しにするメリットはないのだから、おそらく奴隷になるか見せ物にさせられることは容易に想像できた。



 しばらく待っているとフードをかぶった一人の男が部屋に入ってきた。


「うへぇ、ゲロ吐いてやがる。⋯⋯ったく、仕事増やすんじゃねぇよ」


 そう言うと男は布をどこからか取り出してきて吐瀉物を拭き取る。手際の良さからこの仕事は何度も経験しているようだ。


「その様子なら俺の計算どうり三日に間に合いそうだ。何回もやってきたのだから大丈夫、問題ない」


 独り言のようにブツブツと呟く姿が少し不気味に思える。自分に言い聞かせるような言葉遣いに違和感を覚えた。


 硬直していると、唐突に腕をきつく握られ引かれる。いきなりのことに思わず目を閉じる。


「こっちについて来い」


 あまりの扱いに少し苛立ち、奴の顔を睨んだ。しかし、効果はないようで掴まれた手が開放されることはなかった。

 他人に管理されているように感じるのが不快だ。


「ついていくので触らないでください」


 手を無理やり振り払うと爪が引っかかり血が出てきた。ジワリと広がる赤い染み。それに彼は目を逸らすようにドアを開けた。

 話が通じないわけではないようだ。


「しかしよぉ、奴隷じゃない健康体同士の殺し合いは見ていて見事なんだ。楽しみだぜ」


 ニヤリと笑みを浮かべた口元には犬歯が顔をのぞかせていた。ケルと同じようにフードを深くかぶっているので断定はできないが、見た目から予想すると犬の獣人だ。


「その格好じゃ魔法、使えるんだろ? ちょっと使ってみろ」


 僕の三角帽を指差し、ニヤリと笑う。

⋯⋯僕が魔法を使えないことを知らないのだろう。

 石畳の廊下を歩きすぐ先の部屋に連れられ、杖が無造作に投げ渡される。それを受け取ることもできずカーペットに杖が無造作に落ちる。


「最高級の杖だ。魔力が少なくてもかなり強力な魔法を使える」


 その言葉を聞いて、もしかしたらと思い期待を込めて一振りしてみる。

 杖の先から放たれる光と、絶大な魔法。それを放てるかもしれないと考えると心臓の鼓動が高鳴る。

⋯⋯しかし、現実には何も起こらなかった。


 沈黙が流れる。


「お前っ⋯⋯。ちっ、なんだよ。見た目だけかよ。これじゃあ⋯⋯負けるじゃねえか。どうするんだ、考えろ⋯⋯」


 様子がおかしい。彼は何かに怯えているように声を震わせている。狼狽える姿を黙って見ていると、焦っているようにも思われた。


「どうしたんですか? どこか怯えているようですけど」


 あまりの変貌に思わず声をかけてしまう。そこで、あることに目が向いた。


——奴隷を示す首輪。


 ギルドで見た覚えのある首輪だ。これをつけているということはおそらくこの仕事も誰かにやらされているのだろう。

 口ぶりから、「僕が戦いにおいて有能でないと」不都合があるらしい。

 生憎僕は「戦いにおいて無能」であるため、こんな様子を見せているのだろう。


 ジッと首輪を見つめているとそれを隠すように手で首を多い、冷たく睨まれる。


「う、うるせえ。お前には関係ない⋯⋯。関係ねえよ」


 彼の目⋯⋯。これは、恐怖に支配された目。それなら、この感情を利用して脱出のための踏み台にできるのではないか?

 生憎いままでの扱いに僕は許す気も起きないが、ここはその感情を押し殺して組むのも良さそうだ。


「ねえ、僕が戦いにおいて無能だって分かったところで、僕に賭けてみる気はない? もしも君が脱出の手助けをしてくれたのなら、僕が君を保護する。君は今誰かの奴隷なんでしょう?」


 さっきとは違い気丈に振る舞い、奴隷の象徴である首輪に手を触れる。今ここでは外すことは出来なさそうだ。


「どう? 仕事に失敗してこのまま殺されるか、僕と手を組んで脱出して未来を掴むか。あなたはどっちを選ぶの? 賢ければ、僕に賭けると思うんだけど。それに、こんなところから出られたなら、今の仕事よりも安全でやりがいのある好きなことができるんですよ?」


 目を合わせて、じっと見つめる。共感。人は辛い立場にいる時共感されると心を許すはずだ。最も、それが本当に好転するかは分からないが。


「⋯⋯本当か? お前は⋯⋯俺を、保護するってのは」


「⋯⋯もちろんさ、とりあえずこの部屋から出たいのだけどどうすればいい?」


 実際のところ、保護できるかどうかは分からない。犯罪者を匿うということが僕にはできないようにも感じたが、あまりにも素直な返事に思わず答えてしまった。

 しばらくの沈黙の後、彼は覚悟を決めたようだ。部屋の鍵と、地図を見せてくれた。

 シワのたくさん入った少しヨレ気味の地図を地面に広げる。幸いなことにそこまで複雑な構造というわけでもなさそうだ。


「この部屋が、ここで。さっきいたところが、ここだ。お前は基本さっきいた部屋にいることになる」


 地図に指を当ててクルクルと部屋をなぞるように説明を受ける。しかし、すべて声に出して言ってくるので外に声が漏れていないか不安になった。

 紙に書くことを提案しようかと思ったが、残念なことにどこにもペンは見当たらない。他の人から借りるようなことは作戦がバレる可能性が増すので結局そのまま彼の口が止まることはなかった。

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