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8話 望み(コヨイ編①)

私は、この町から少し離れたロリエル村で生まれ、外に出ることなく、母と父と三人で暮らしていました。


「コヨイ、まだ練習してるの?ご飯出来たわよ」


「もう少し!」


「コヨイー。父さん腹減ったぞー」


「うーん・・・・・やっぱりもう少し!」


「そこは父さんの方を選んでくれよ」


小さな村でした。


宿もない、道具屋もない、商人さんも冒険者さんもほとんど来ない、私達だけの村。


天候や土地に恵まれ、自分達だけの作物を育てて、家族のような村の人達と話して、好きなことをして一日が終わる。


そんな生活に、不満も、文句もありませんでした。


楽しみと言えば、母が教えてくれる魔法。


誰に言われるでもなく、誰に求められるでもなく、気づいたら魔法を習っていて、いつの間にか同じ法陣師になろうと決めていました。


「コヨイ、魔法の習得は順調か?」


「え?多分?」


「何でそんな疑問形なんだ?」


「だって、基準が分からないし」


「使えれば何でもいいんだよ!」


「強化術は出来るようになったよ。後は防御と回復術の精度をもっと上げたい」


「コヨイなら出来る出来る」


「お父さん適当過ぎるよ」


「コヨイは言わなくても努力するし、自分でちゃんと考えるじゃないか。自分の力を信じて頑張れ!そして母さんの負担を減らしてやってくれ」


「お母さんいつもみんなの所行ってるもんね」


「別に身体強化はいいんだけど、作物が虫食いされないように防御術掛けて、は困るわね」


「ははは!みんな母さんが大好きだからな!コヨイも無理はしなくていいけど、たくさん練習して村の為に役立ててくれ!」


私は村を出る気はありませんでした。


この村で一生を過ごしていくんだろうと、思っていました。


「でも、本当にこれでいいのかしら」


「何が?夕ご飯?」


「今日はコヨイの好きなふわっふわのオムレツよ~」


「ふふふ~」


「ってそうじゃなくて、コヨイのことよ」


「私?」


「今までコヨイの魔法を見てきたけど・・・・ずっとこの村に置いておいて、いいのかなぁって思うのよ」


「どういう意味?」


「コヨイは、もっと外に出て色んなことを学んで、色んなことを経験して、もっとたくさんの人と出会うべきだと思うのよね。

ほら、コヨイってスランプとかないでしょ?失敗してもすぐに切り替えられるし、頑張れば頑張るほど結果を出せる。もはや才能じゃないかしら?」


「お母さん知ってる?それ親の贔屓目って言うんだよ」


「これを驕らないととるか、ネガティブととるか・・・コヨイが望むなら、国や町で働いてもいいし、学校とか・・・魔法学園に通うのもいいと思うのよ。そして、ギルドかパーティーに入って、各地を旅して、誰かの元で、誰かの為に魔法を使うことが、コヨイの為でも世の中の為でもあると思うのよね」


でも母は、修業に付き合ってくれる度、もったいないと言いました。


「この小さな村の為だけに、コヨイの努力や素質を使うのは、何だか悪い気がするのよ」


「・・・・お母さん、見て」


「ん?」


「・・・・ほら!水の上に立てるよ!」


「うん、水魔法も安定してるし、重力操作の補助術もちゃんと機能してる。凄いわコヨイ!」


「二つ同時に使うなら、補助術は効果時間制の魔法の方がいいかな?」


「そうね。どっちも陣にしちゃうと魔力コストも悪いし、組み合わせるまでに時間掛っちゃうからね。その場から動きたくない時はいいけど」


「私ね、こういう時間が好き」


「うん?」


「たくさんの人の役には立ちたい。でも、村を出ていくことは、考えたことなかった。人の役に立つ前に、恩返ししたいと思ってたし、それがこの村で魔法を使うことなら・・・・出ていきたくはないかな」


「そう。コヨイにちゃんとした意思があるならそれでいいのよ。じゃあ、皆の体を守るために、もっと頑張りましょう」


「うん!」


「・・・・・でも、もったいないなぁ・・・」


私は、私が外でやっていけるとは思えませんでした。


自分の実力を見極めて、出来る範囲で頑張ろうと思っていました。


だから、外のことは何も知りませんでしたし、私は私と周りのことしか見てませんでした。


「お母さん」


「――――そう、また・・・・」


「多分、あの子達だと・・・」


「決めつけはよくないわ」


「でも、あの後から・・・・」


「あら、コヨイ。どうしたの?」


「ううん、何でもない。何かあった?私も手伝う?」


「いや大丈夫だよ、コヨイ」


「練習するならあんまり遠く行ってはダメだからね」


「うん・・・・」


でもある時、両親と村のみんなの様子が変わりました。


落ち着かず何かを警戒し、いつも辺りを気にし、神妙な顔で向き合って話し合い、柵や罠を作ったり・・・・平穏な村に何か起こっていることは、私も気づきました。


しかし


「何でもないのよ、ちょっと動物が作物荒らしてるだけだから」


「コヨイちゃん、怪しい人を見かけたら声を掛けず、すぐ家に帰るんだよ?理由?気にしなくていいよ」


「手伝い?大丈夫大丈夫。大人に任せておいて」


誰も私に事情を話してはくれませんでした。


みんなの様子から、畑の作物が夜間盗られていて、その犯人が外から村に来たことのある誰かというのは分かりましたが、結局、私は何もしませんでした。


余計なことをして、困ってるみんなをさらに困らせたくなかった。


頼らないってことは、求められていないってことだと、思いました。


それだけの力がまだ自分にはないのだと、早く魔法をもっと覚えて、みんなに頼られるようになりたいと。


その時は、見て見ぬふりをしました。



それから母が感知方陣を置き、父や村のみんなは交代で、一日中村を見回っていました。


私は魔力消費が激しい母に回復術を掛けたり、みんなに食事を作ったりして援助していました。


みんなはそれを喜んでくれました。


「ほら、物も作物も盗られていない。もう諦めただろう。もうしばらく様子を見て、少しずつ警戒を緩めていこう」


「ええ。でも・・・本当にこれで良かったのかしら。あの子達・・・・きっと辛い思いを・・・」


「・・・・もし、姿を見かけたらちゃんと話をする。他の人はお怒りだからな。その為に一応取り分けてる」


「お願いね、あなた」


「ああ。君も、お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」


一週間、警戒は続きましたが、厳戒態勢の効果があったようで被害はなくなりました。


私も安心していつも通り魔法の練習に集中しました。


ちょっとした疎外感は、詳細の分からない事件と共に消えて、また平穏な日々が来ると思ってました。


でも



「コヨイ!コヨイ!!」


「え・・・・?」


「起きて!杖だけ持って逃げて!」


「え・・・」


「村に賊が入ってきた!早く逃げ」


朝方、まだ、薄暗い時、家に知らない男の人、二人が入ってきました。


家を破壊しながら部屋まで来て、私達を見つけると凄く楽しそうに笑いました。


大声で笑い合って、手を掴まれて・・・・そして


「止めろ!」


彼らの後ろから、父が農具で切り付けました。


父は明るくて、優しくて、温厚で、少し子供っぽくて・・・・叱られたことは一度もありません。


怒ったところも・・・・。


その父が、鬼の形相で、魔法も使わずに、目の前の人達を、何度も叩くように、何度も何度も



「コヨイ・・・コヨイ!」


「・・・・・う、うん」


「大丈夫、大丈夫だ。何も、気にしなくていい。さぁ、一緒に行こう」


「村のみんなは・・・・」


「今は、自分達のことだけ考えるんだ。近くのレダンの村に行くぞ」


村には悲鳴と、魔法の発動音、爆発音や破壊音が入り混じって響いていました。


あんなに騒がしくなった村は、みたことがありませんでした。


私達は家を出て、逃げ惑うみんな、戦うみんなを置いて・・・・村を出ようとしました。


もうすぐ、村を抜けるってところで


「っ!?」


知らない男の人達が、村の出入り口に立って、辺りを見回していました。


そして同じように村から脱出しようとする人を見つけて、暴行した後、捕えていました。


「は、離れるぞ・・・・」


でも、どこも同じで、完全に村は包囲されていました。


「あの子達じゃ、なかったの・・・!?」


「・・・つけが回ってきたのかもな」


「ど、どうすれば・・・・」


父はその状況を見て、固い声で言いました。


「・・・俺が囮になって見張り引き付けるから、その隙に二人は村から出ていくんだ」


「え・・・そんなの、無理だよ・・・」


「無理じゃないよ。父さん、運動神経、いいからな。大丈夫だ。コヨイも、母さんも、いけるよな。走れるよな」


「一緒なら・・・負けないよ」


「大丈夫大丈夫」


「あなた・・・」


「大丈夫だ・・・・・・・いつか・・・また、どこかでな」


「ええ。必ず会いに行くわ」


母は、父の意思を尊重しました。


両親の顔は穏やかなものでしたが、私は不安で、心配で心配でたまりませんでした。


「お父さん・・・・」


「コヨイ。父さん、コヨイのこと大好きだぞ。頑張り屋なところ、優しいところ、分かち合おうとするところ・・・そんなコヨイが大好きだ。

攻撃術はコヨイには要らない。お前は誰かの為に誰かを傷つけなくていい。優しい場所で、優しく育てばいい」


「そんなの・・・私なんか・・・・・」


「愛してるよ。父さんは父さんで頑張るから、気にせず暮らせよ。じゃあな」


父は私の言葉も待たず、走り出しました。


「コヨイ、こっちよ」


母が私の手を引き、父とは逆方向に走り出しました。


前を向かないと、進まないと。


そう思っていても、父のことを気にしない訳がなく、少し進んで、私は立ち止まって振り返りました。


父が危険な目に遭っていたら助けようと思ったんです。



思ったんです。





相手が八人もいなければ


もっと近ければ


もっと早ければ


もっと時間があれば


助けようと思ったんです。





あの時見た父の姿を、忘れません。永遠に。


あの時見た魔法を、忘れません。永久に。



誰が使ったのかを知らなくて、良かったです。本当に。



父は最後まで優しく勇敢で、自慢の父です。







母と森を走りました。


村からだいぶ遠くに来ました。


でも、何人もの足音が私達を追ってきているのが分かりました。


「はぁっ、はぁっ・・・・!」


「くっ・・・!」


朝日は私達を照らすように高く上がりました。


からっとした土はくっきりと私達の足跡を残しました。


「お、お母さん・・・・!私、戦う!」


もうダメだと思った。


いつか追いつかれる。だから


「戦う!お父さんのように!勇敢に!!」


「コヨイ・・・・」


どんなことになろうとも、戦おうと思いました。


その勇気が今の自分にはあるはずだと、言い聞かせて。


でも


「ダメよ。お父さん、悲しむわ」


「だって!」


「いいのよ。そんなことしなくて。大丈夫よ。コヨイは、コヨイのままでいいんだから。変わらなくてもいいのよ」


母は足を止めて拒否しました。


「さぁ、次はお母さんが囮になるから、一人で、村に行って。この先を真っ直ぐ行けば、あるはずだから」


「嫌よ・・・・」


「コヨイ。約束、してくれる?自分に害なす敵を消して安全な居場所を作るんじゃなくて、誰かを助け、守ることで繋がる輪の中で安心して過ごして欲しい。

だからコヨイは誰も傷つけなくていいの」


「そんなことない!そんなことで生きられない!助けたり、守ることは、戦うってことでしょう!誰も傷つけないで、どうやって勝てばいいの!?」


「誰かに、やってもらって。コヨイが信頼する、敵を消す誰かに」


「言ってることおかしいよ!そんなの・・・ただのズルじゃない・・?誰だって本当は・・・誰のことも傷つけずに済むなら、そうしたいはずだよ・・・・私は、そう信じたい・・・・」


「そうね」


「それなのに、どうしても戦わなきゃいけない時に、後ろで見てるだけで・・・誰かと誰かが傷つけ合って、自分がそれを後押してるのに、自分は手を下さないのは、卑怯者じゃない・・・?」


「それは・・・・」


「お母さん・・・戦わせて・・・・私には、出来るんでしょう?素質があるって、今こそ言って・・・もっと私に勇気を、出させて・・・・」


嫌で仕方ない。


怖くて仕方がない。


でも、大丈夫だと。


一緒に頑張ろうと言ってもらえたなら・・・・きっと私は、村を襲った人達を傷つけてでも、魔法を使っていたかもしれない。


でも


「・・・・誰かを傷つけて生き長らえるより、誰かを守って生き残って欲しい」


母は、私の手を握り、しっかりと目を見ました。


「そっちの方がコヨイらしいな。コヨイもそうしたいはず。自分に嘘はつかなくていいのよ」


「・・・・・」


「お母さんのこと、忘れていいからね。自分の人生を生きてね。大丈夫よ。お母さんも生きるわ。どんな所でも、どんな環境でも、生きていくから、心配無用よ。お母さんは、お母さんであることを忘れない」


母は、最後まで母の顔で微笑みました。


「私達の愛するコヨイ。前だけ見て、進むのよ」


母は、追手の方へ向かいました。


私は、母の姿が消える前に、前を向いて、走りました。


振り返らなかったので、その後どうなったかは分かりません。







しばらく歩きました。


朝日が、夕日に変わってしまうくらい。


歩いて歩いて、そして辿り着きました。




森の中にひっそりと建っていた、教会に。


コヨイが、もっと自分に自信があって、もっと外の世界に興味があって、もっと自分優先の性格なら、全く別の物語になったでしょう。


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