3話 レダンの町(コヨイ編①)
舗装された道の側には花が咲いている。
その奥に様々な作物の畑が広がっている。
川のせせらぎがどこからか聞こえてくる。
その光景は次の町が広大で豊かな資源に恵まれているということが分かる。
「やっぱり私は氷魔法が好きですね~。
形作れるっていうのが色んな状況に対応出来ますし、攻撃、足止め、援護、全て任せられますし、何より綺麗ですよね。
モチベーション上がります。どの技術もそうですけど、モチベーションの違いで完成度が違いますからね。
防御として使うと少々脆いのが難点ですが、その点では地魔法は優秀ですね。
火魔法は火力はもちろんのこと発動のしやすさ、即効性は一番ですが、ついつい余計な被害を出しそうで結構気を遣うんですよね。
水魔法、風魔法は補助が多いのでもっと幅広く術を覚えたいですね。
後は・・・雷魔法もですね。でも雷は・・・使い所がないというか、嫌がらせにしか使ったことないので一体どうしたものかと」
歩きながらリーツはずっと魔法について話している。
隣を歩くアレリランティは
「うん。うん」
僅かに空いた話の間に相槌を入れる。
二人だけの空間。
その時間はゆっくりと流れていった。が
「た、助けて!」
正面から農作業着を着た初老の女性が走ってくる。
40代後半でふくよかな体型の女性は、顔を恐怖染め、足をもつれさせながら、何度も後ろを振り返る。
必死に足を動かしていたが躓き、地面に倒れ込む。
リーツとアレリランティはすぐに女性に駆け寄り、体を支える。
「大丈夫ですか?」
「ああぁぁぁ、あなた達腕は立つ!?」
「冒険者ですのでそれなりには」
「何かあった?」
「来てるのよぉ!魔物が!」
「ガァァァァァァ!!」
咆哮と共に熊の魔物が四足歩行でどかどかと走ってくる。
血走った目、地面をえぐる爪、口から涎を垂らしながら向かってくる。
「あら?何か」
「きゃぁぁぁぁ!」
恐怖で蹲った女性を庇い、アレリランティが剣を抜き前に立つ。
リーツは女性の周りに水魔法の障壁を張る。
そして、熊に向けて指を向けようとした時
「そこの二人!どけ!」
男の怒号が響く。
目だけ向けたリーツの横を突風に飛ばされたような勢いで四人の男が駆けていく。
一歩で8メートル程進み、熊の四方から剣で斬り付ける。
「ギャァァァァァ!」
足を止めた熊は四人をギロリと睨む。
「今だ!畳み掛けろ!」
別の男が後ろに待機している男女五人に指示を出す。
三人は風魔法で竜巻を起こし、二人が火を放つ。
火炎旋風が熊に襲い掛かる。
火に巻かれうめき声を上げながら身をよじる熊は、逃げようと背を向ける。
「コヨイ!」
「はい!」
男が剣を構え声を荒げて呼ぶと、長い緑色の髪を、花のような髪飾りで二つに束ねた少女が、杖を握り締めて走ってくる。
少女が杖を地面につくと地の魔紋が男の周りに広がる。
最初に飛び出した四人が熊を男の元に誘導する。
男は両手で剣を握ると、熊の爪を跳んで避け、上空から体を斬り付けた。
「グゥゥゥゥゥゥゥ!!」
熊の体が血しぶきを上げながら地面に伏せる。
男は血を一振りして払った。
わっと歓声が上がる。
完全に蚊帳の外なリーツとアレリランティは顔を見合わせた。
「イアヌグスト・・・・ギルド・イアヌグストだわ!」
「ギルド、ですか?」
「レダンの町一番のギルドなの!私達の誇りなのよ!魔法も剣も達人級で、何でも出来て、何でもしてくれる英雄的存在!」
「おい、大丈夫か」
「あぁメガラ様!貴方様に助けてもらえて光栄です!」
最後に熊を攻撃した男、メガラは感激で目を潤ませる女性に一瞬苦い顔をしたが
「無事で良かった」
そう言って目を逸らす。
その先にはリーツとアリランティがいた。
「・・・あんた達は?見たことない顔だな」
「リーツと申します。こちらはアレリランティ様です。二人で旅をしています」
「冒険者か」
「貴方は?」
「ギルド・イアヌグストのギルドリーダー、メガラだ」
「素晴らしい連携でしたね。無駄な動きをする人がいませんでした」
「あ?あぁ、そうだな。そういうあんた達は何もしなかったな」
「どけと言われたし」
「連携で攻撃する人達の輪に入って行こうとすると事故りますからね。お任せしました」
「それもそうだな」
「なので」
「メガラさん、その人にケガは・・・・」
杖を持った少女が駆け寄る。
その後ろに
「ギャアアアアアアアアアア!!」
咆哮を上げた熊が立ち上がる。
「・・・・っ!」
振り返った少女が息を飲む。
熊が爪を振り下ろした。
アレリランティが剣を抜き、跳ぶ。
リーツが少女の前に壁を立てる。
爪が壁上に刺さって止まる。
その爪を踏んづけたアレリランティが剣を投げる。
真っ直ぐ飛んだ剣は眉間を貫き、熊の体が大きく仰け反った。
足で爪を壁から剥がすと、背から地面に落ち、動かなくなった。
しかし人間側も動かず張り詰めた空気のまま熊を見ている。
その中、アレリランティが壁から降りて、剣を熊から引き抜いた。
「なので、トドメだけ頂きました」
リーツはにこにこ笑いながら壁を消した。
「・・・ちっ」
メガラは舌打ちを一つし
「撤収だ。魔物の素材は取れ。ユーザへの報告忘れるな。被害状況も調べろ」
ギルドメンバーに指示を出し、その場を離れる。
「素材欲しい?」
「いえ、いいでしょう。お金はまだありますし、こういうギルドがあると冒険者への実りは少ないので、次の町にしましょう」
「あ、あの・・・・」
少女が二人に近づく。
「あぁ、大丈夫でしたか?」
「はい。助けて頂き、ありがとうございました」
「ケガが無くて良かった」
「コヨイ!」
ギルドメンバーの男達に呼ばれ少女、コヨイは二人に一礼して離れる。
「あなた達強かったのねぇ。今からレダンの町に行くの?」
入れ替わりで初老の女性が声を掛ける。
「ええ。お邪魔してもいいですかね?」
「もちろん!私が門番に言ってあげるわ!町のことも教えてあげる!さぁさぁ行きましょう!」
「ありがとう」
興奮気味の女性が先導を切る。
リーツはその後を続こうとするが、アレリランティが別の方を見ていることに気づき、同じ方を見る。
「いい加減にしろお前」
「足引っ張るなよ」
「メガラがトドメ刺せなかったのはお前の強化術が弱いせいだぞ。恥かかせやがって」
「早く攻撃術覚えろよ、全く」
「すみません。すみません・・・」
コヨイは言い返すことなく、ただ頭を下げて謝っている。
男達はため息をついて呆れ顔。
「どうしたの?行きましょう?」
「はい、今行きます」
二人は顔を見合わせ、女性の後について行った。
レダンの町は、しっかりとした石造りの建造物が多く、門も他の町に比べ頑丈に大きく造られている。
女性の口利きで審査されることなく町に入った二人は町の様子に
「綺麗な場所」
「穏やかで良い所ですねー」
と感嘆の声を上げる。
木々、花に囲まれた町並み。
住民の婦人たちはにこやかに買い物をし、子供達が元気に走り回っている。
「基本的にここは自給自足なのよ。作物に最適な環境、豊富な水源。買うより断然質のいいものが採れるの。
それから町の奥に鍛冶屋が一つあるから、物が壊れてもそこで直すか買うから、商人はここへ来るとがっかりしてるわ。あまり売れないからねぇ。
それとユーザはあるけど、トラブルは全てイアヌグストが解決してくれるからいつも暇そうよ」
「そういうところもあるんですね」
「本当に凄いギルドなのよ!
この町は元々は小さな村でね。ある一つのギルドが独裁政治を強いて支配していたの。ほんと辛かったわ・・・・どれだけいい作物が採れても奪われて、私達が食べられるのは劣化した米と残りカスのような野菜と水。奴隷のように働かされてもううんざり。
その時颯爽と現れ、そのギルドを潰したメガラ様と初期メンバーの四人の活躍!みんな救世主と称えたわ!」
「良い人達なんだ」
「そうよ!聖人よ!それから何人かメンバーが増え、村と二人三脚。どんどん村は良くなっていったわ!そして、それを評した国がユーザをここに立てて、ここは町となったの」
「凄いね」
「素晴らしいギルドでしょう?」
「うん」
「もう昼食は食べた?この町の食事は美味しいわよぉ」
「それは嬉しいです」
「町の中心に一つ宿があってね、そこで食べれるわよ」
「施設少ないんだね」
「必要な物は必要な分だけ。ちゃんと断捨離しないと、価値や物の良さが失われていくのよ?」
「とても素敵な考えです」
「じゃあ私はそろそろ家に戻らないと行けないのだけれど」
「もう大丈夫。ありがとう」
「ありがとうございました」
「ゆっくりしていきなさいねぇ」
女性に手を振って別れる。
「どうする?」
「うーん、最初はまずユーザに行きたいですね。マップの更新もしたいですし」
「分かった」
「その後宿で食事ですね!楽しみです~。ここはきっと肉料理より魚料理の方が良いですよね。野菜も美味しいとのことなので、包み焼きとかグリルとかが期待値高いですねぇ」
料理に期待を寄せながらギルド・ユーザの扉を開ける。
「ではこちらが素材の換金結果と、魔物討伐の報酬です」
「すみません。前より随分と素材の価値や報酬が下がってるんですけど、どうしてですか?これでは皆さん納得しな」
「決められたレートですから、そんなことを言われても困りますよ」
「でも・・・・」
「いつもあなた達のギルドはたくさん稼いでいるのに、そんなケチケチしていいんですか?ギルドの名に傷がつきますよ?」
「・・・売るの、待ってもらってもいいですか?相談してきます」
「はぁ。そんなことだからあなたはいつも怒られるんです。若いからってギルドにおんぶにだっこでは、いつまでたっても成長できませんよ。ちゃんと自分で考えて生きてますか?」
「はい・・・・」
「仕方ないですね。このレートならどうですか」
「あ、はい。このレートなら・・・」
「はいはい、では処理しますね。結果表がこれで、報酬がこっち」
「ありがとうございます」
「はぁ、私もイアヌグストに入れないかな。あなたがやっていけるなら私もいけると思うんですよねぇ。戦闘は出来ないけど事務処理なら得意ですし、そもそもギルド員十一人って少ないと思うんですよね。全員戦闘員なら一人くらい楽しても」
「・・・・・」
目を閉じて独り言を言うユーザメンバーに対し、黙って一礼し踵を返すコヨイ。
彼女は出入口で見ていたリーツとアレリランティに気づくと、同じように一礼する。
そして横を通り過ぎようとした時
「コヨイさん」
リーツが声を掛ける。
「え?あ、はい」
名前を呼ばれたことに驚いたコヨイは目を丸くして顔を上げる。
「昼食はもうお済みですか?」
「え?まだですけど」
「良ければご一緒にどうです?」
「えぇ?私とですか?」
「ええ」
「いいですけど、でもどうして・・・?」
「宿でお待ちしてますね」
「あ・・・はい。じゃあ10分程掛かりますけど」
「分かりました」
「では・・・失礼します」
コヨイはまた一礼してユーザを出ていく。
それを確認してアレリランティがリーツを見る。
「どういう意図?」
「そうですねぇ。若い芽は早めに成長させるに限るというか、旅の思い出はなるべく良いものにしたいというか」
「お節介?」
「まぁ、そうですね。アレリランティ様は嫌でしたか?」
「いや、そう言ってくれて良かった」
「アレリランティ様はお優しいですものね。とりあえず、することして宿で待っていましょう」
「うん」
「何の料理食べましょうか・・・やはり、お魚ですかね!」
リーツはうきうきとユーザメンバーに話しかけた。
メインキャラの二人目は、コヨイ。
緑髪、茶色の瞳の大人しい子です。