2話 探し人と魔鉱石(カイオ編①)
「探してる人、どんな特徴でしたっけ?」
湿った空気、生温い気温、薄暗い洞窟内は歩けはするが、魔法で大雑把に削ったのか綺麗とは言えず、足場は石が多く転がっている。
魔鉱石があるという洞窟に三人は足を踏み入れ、リーツとアレリランティは壁や地面を注意深く見、カイオは辺りを見回している。
「名前はアリウムで、紫色の髪がふわふわしてて、ひらひらした可愛い服を着た背の低い女の子だ」
ジェスチャー付きで再び探し人の特徴を説明するカイオ。
「うーん・・・・やはり見た記憶はないですね」
「町の人もみんなそう言ってたから、やっぱり町には行ってないんだろうな」
「心配だね」
「ああ心配だ。全くもう、どこ行っちゃったんだ。アリウムー!」
カイオが叫ぶが、カイオの声だけが帰ってくる。
「アリウムー。アリウムー?アーリーウームー!」
カイオは隅々、誰かが掘った横穴の中や壁との隙間、岩の影まで注意深く探す。
「さすがにそんな所までは」
「どこにでも行くからどこでも探さないと」
「道を間違えることなら私もありますけど、そんなレベルで迷う人いるでしょうか・・・」
「アリウムは目が悪いの?」
「いや、良いはずなんだけど・・・・」
自信なさげなカイオは、可能性がある場所を見ないと気が済まないのか足の進みは遅い。
その様子を見た二人は
「アリウムさーん!」
「アリウムー」
魔鉱石探しもほどほどに、一緒にアリウムを探す。
カイオは嬉しそうに微笑み、三人はどんどん奥へ進む。
「いないね」
「いないなぁ。それに歩きづらいし暗いしなぁ」
奥に行くにつれて足場はおうとつが増え歩きにくくなり、濃い影が増える。
鉱山内にある魔石の光源は、魔力が尽きかけているのか光がかなり弱い。
リーツが人差し指を立てると火の魔紋が浮かび、そこから小さな炎の玉が出てきて、三人の周りを回る。
「リーツは魔法が得意なのか?」
その炎を目で追いながらカイオは問う。
「はい。それなりのことは出来ますよ」
「へー。アレリランティは?」
「俺は苦手で使えない。いつもは剣で戦う」
「そうなのか。でも俺達もそんな感じだし、前衛後衛はっきりしてるとバランスいいよなぁ」
「カイオさんも前衛ですか?武器は?」
「俺は」
「キィィィィィ!!」
魔物の声が反響しながら届く。
奥に目をやると暗闇の向こうからコウモリの大群が姿を現す。
黄色い目が見開かれギロリと動く。
アレリランティは剣を抜き
「カイオさん。あのギルドの人達を一人で倒したんですよね?是非ともその戦いぶりが見たいです」
リーツはにこにこして言う。
カイオは苦笑いして
「期待にそぐわなくても怒んなよ!」
コウモリの元に駆け出す。その手には何も持っていない。
コウモリは一人飛び出してきたカイオを標的として定め、真っ直ぐ向かってくる。
カイオは軽くジャンプしてコウモリの群れと同じ高さまで上がる。
手を前に出す。
白い光の粒子がその手に集まり、そして現れた太い柄を握ってそのまま横に振る。
人一人分以上ある刀身が一番前を飛んでいたコウモリの群れを、一度で真っ二つに切り裂く。
奥にいたコウモリ達は攻撃を避けて下に移動する。
カイオはそれを確認し、刀身を下に向け両手で柄を握る。
瞬間、大剣が地面に引っ張られるように急速に落下し、下にいたコウモリを潰す。
大岩が空から降ってきたかのような衝撃に洞窟内が揺れる。
「キィィィィィ!」
カイオの後ろと前からコウモリが迫る。
落下の衝撃で深く刺さった刀身を、カイオは軽く抜き、後ろを向いて下から上へ振り上げ、斬る。
そしてそのまま体を捻らせ、大剣を前に振り下ろし、叩き斬る。
また地面をえぐる程の衝撃と音が響き渡る。
「終わったぞ」
動くコウモリがいないことを確認したカイオが大剣を地面に突き刺し、振り向く。
「ありがとうございました。それにしても不思議な戦い方しますね」
「よく言われるよ」
「武器はスペルボックスに入れてるんだ」
「さすがに持ち歩けないしな」
「確かに大きい。でも軽々持ち上げてたように見えたけど」
「なら持ってみるか?」
カイオが指さす。
アレリランティが柄を握り、力を入れるが
「・・・重い」
引き抜くどころか動きもせず、ビクともしない。
「なるほど。持ち上げたり振ったりする時だけ地の魔法で物量を操って軽くして、元の重さにしたい時は魔法を解いてるんですね」
「よく分かったな」
「ちらちらと刀身に地の魔紋が見えてましたから~。物量を操る魔法は魔力もそんなにいらないですし、確かにコストのいい魔法ですけど、あんな風に何度も繰り返し使うのはなかなか発想になかったですね」
「その魔法とスペルボックスしか使えないけどな!恥ずかしい話、俺他の魔法はさっぱりなんだよ」
「スペルボックスは今や子供すら使える無属性魔法ですけど、旅をするなら収納魔法として便利ですし、カイオさんの身体能力なら魔法にこだわる必要もないですし、その二つで十分だと思いますよ」
「そうか?魔法が得意なリーツに言われると安心するな。魔法は誰しもが使えて当たり前だけど、その実力は個人差大きいし、魔法使えないだけで教養がないってバカにされるし、酷いと人間として欠陥とか言われるし、俺みたいな奴は肩身狭いんだよな」
「ふふ。500年前は誰も使えなかったらしいですけど、人の慣れとは怖いですねぇ」
「そうだな、っと。それにしてもアリウムいないなぁ」
「本当にここまで来る?女の子一人が」
「どこにでも行くから以下略」
「そんなにあり得ることなんだ」
「あるんだよなぁ。結構な頻度で。どうしたら治るのか・・・・」
カイオは深いため息をついた。
そして大剣をスペルボックスにしまう。
「二人ともまだ付き合ってくれるのか?」
「まだどちらも見つかってませんし、それに魔鉱石はより深い場所の方が質のいい魔力を内包してるので、奥までは行くつもりでしたから」
「気にしなくていい」
「そうか。ありがとな」
照れたように顔を赤らめ、早足で進むカイオを不思議に思い顔を見合わす二人。
しかし特に問うこともなく、後を追いかけた。
その後も奥へ進むが、一向に探し人は見つからない。
ついには突き当りに出る。
「行き止まりか・・・・」
「ここが最深部でしょうか」
通路を抜けた先は、巣穴のような広い空間だった。
「アリウム!カイオだ!いないのか!!」
大声で呼び掛けるが結果は同じ。
「この洞窟には入ってなかったみたいだな」
「そうだね、ごめん」
「なんで謝るんだよ。俺こそ色々手伝ってもらったのにごめんな。せめて採掘手伝おうか?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「そうか」
カイオは来た道に向かう。
「帰るんですか?」
「ああ。すれ違う前にまた探しに行かないと。二人ともありがとな。採掘頑張れ」
そう言って背を向けた瞬間、カイオの頭上から這いずる音がして上を向く。
透明感のある青い巨大物体が降ってきていた。
カイオは前転して避ける。
大きさの割に落ちた時の衝撃は弱く、物体は数度跳ねて移動する。
「なんだこいつ!?」
「これは・・・・」
物体は目をキョロキョロ動かし狙いを定めている。
「スライムですね!」
「見れば分かる!それよりなんかでかくないか!?」
「ここは湿気も、魔力も豊富ですし、快適な環境で肥え膨れたんでしょう。幸せ者ですね~」
「ほんと羨ましいな!でも出来れば人に迷惑掛けないレベルであってほしい!」
「迷惑掛けに来たのはこっちの方だけど」
「・・・ん?それもそうか」
スライムは土を食べ、口から細かい粉塵を吐き出し飛ばす。
三人は跳んで避ける。
カイオはスライムに向かって駆け、大剣を取り出し
「悪い」
柄を掴んだ瞬間横に振る。
「家宅捜査させてくれ」
ぱっくりとスライムの胴体が切り裂かれる。
しかし割れ口が元に戻ろうと引き合い、ぴったりとくっつく。
カイオは一度下がる。
「時間掛りそうだな」
「この手の相手に時間掛けるのは労力の無駄ですね。カイオさん、サポートしますので仕留めてください」
「おう!」
「頑張ってカイオ」
「おう!・・・え!?」
カイオが目を見開いて振り返る。
奥に開いている狭い穴の中に女の子がしゃがみながらカイオを見ていた。
「アリウム!」
スライムが体当たりを仕掛ける。
リーツが壁に向かって氷の道を作る。
その氷に乗ったスライムが滑って壁に激突する。
洞窟内が数度揺れ、上から土砂が少し降ってくる。
「アリウム!気をつけろよ!」
「うん!」
スライムが壁を食べて、数度跳ね方向転換する。
口に含んだ岩石を三発発射する。
カイオは剣の刀身に隠れるように身をかがめ直撃を防ぐ。
スライムは上に口を向け岩石を飛ばした。
弧を描きカイオの頭上に落ちてくる。
その岩を剣を上に振りかぶりぶった切る。
食べた岩石が無くなったことを確認してリーツがスライムに指を向ける。
木の魔紋が広がり、地面から蔓がスライムを囲むように生える。
蔓同士が絡み合い、網状になってスライムの上から覆い被る。
巨大なスライムが通り抜けられる隙間はなく、どんどん締め付けていく。
体を蔓に押し付けて前に進もうとするスライムの体が蔓で裂けていく。
真っ二つに分かれた体は僅かな隙間をかいくぐり、網を脱出する。
二体になって少し小さくなったスライムが体を跳ねらせて地面を叩き、洞窟内を揺らす。
天井から土砂がぱらぱらと降ってくる。
リーツが天井を指さす。
氷が広がり天井が凍っていく。
カイオとアレリランティがそれぞれスライムに向かい、剣で宙に打ち上げる。
飛び上がりそのまま胴体を切り裂いた。
ぼとりと落ちた体が動き、目をさ迷わせる。
そして
「あ」
四体になった通常サイズのスライム達は通路の方へ跳ねて逃げていった。
「仕留め損ないましたね」
「俺達がいなくなればまた戻ってくると思う」
「一応報告しておきましょうか。大きいだけで強くはないですが、危険には変わりないですからね」
「アリウム!」
カイオが女の子に駆け寄る。
女の子は服の砂を払っていた。
「アリウム、ケガはないか?」
「うん、大丈夫だよ」
「良かった・・・・全く、どうしてこんな奥にまで来るんだよ。途中で変だと思わなかったか?そもそも何で一人でどっか行っちゃうんだよ」
「カイオがマップを見てる時に、近くに犬がいて、触りたくて追いかけたらカイオを見失っちゃって。近くに町があるって言っていたから一番近かったこの洞窟の奥に町があるのかなって思って、来ちゃった」
「今度は犬か!いつも言ってるだろ?ちゃんと俺にも声掛けてくれ」
「犬が可愛くて、つい・・・」
「犬に負けるのか俺の存在感・・・」
「そんなことないよ!」
「ま、まぁ、俺が目を離したのも悪かったし、なにより無事で良かった。心配した」
「ごめんね、カイオ。来てくれてありがとう」
アリウムは嬉しそうに微笑み、カイオは安堵の笑みを浮かべる。
手を取り合い、離さないように固く手を握る。
その様子にリーツもにこにこと笑い、アレリランティはいつもの表情で見つめた。
「あ。ねぇ、カイオ。あの人達は誰?」
「ああ、そうだった。二人は町で出会った冒険者だ。ここに魔鉱石探しに行くって言うからそれについてきたんだ。アリウムを探すのも手伝ってくれたんだよ」
「そうなんだ。はじめまして。アリウムです」
「リーツです。こちらの方はアレリランティ様です。カイオさんと再会できて私達も嬉しいです」
「色々とご迷惑をお掛けしてごめんなさい」
「気にしないで下さい。ここに用があるのは本当ですし、道中もカイオさんのおかげで楽出来ましたし、いい思い出にもなりましたよ」
「魔鉱石を探してるんですよね?私達も今からお手伝いします」
「いいえ。それには及びません」
「もう見つけたんですか?」
「ええ」
リーツが壁に向かって指さすと、壁が爆発し、へこむ。
その奥から歪な形の石が三つ、剥がれ落ちて転がる。
「さっきの戦闘で魔鉱石が砕かれると困るので、先に魔力スポットを感知して目星をつけておいたんですよ。当たったようで嬉しいです」
「へぇ、これが魔鉱石か。魔石しか見たことなかったけど、金鉱石とかと見た目は変わらないんだな」
「真っ二つに割ると魔石の元になる核が見える。魔力が強い程綺麗だよ」
「アレリランティが加工するのか?」
「いや、出来ない。だから魔石が欲しい時は魔工技師に頼んでる」
「魔石は普通に買うととっても高いので、素材を持っていってお願いする方がお得なんですよ~」
「魔工技師は、魔石や魔道具を作る人のことですよね」
「ええ。三つもあるので、ユーザさんには悪いですけど、一つはここで頂いちゃいましょう」
「いただく?」
リーツが魔鉱石を一つ持ち上げると、光の魔紋が魔鉱石を包む。
魔紋から小さな光の玉が出ると、手のひらに乗り、リーツはそれを飲み込んだ。
べきり魔鉱石にヒビが入る。
「うん、まぁまぁですね。ご馳走様でした」
手の魔鉱石を落とすと、真っ二つに割れる。
中には黒ずみひび割れた核が見えた。
「・・・なんか怖いんだけど。人の血だか魔力だかを吸い取って殺す魔物みたいな」
「まぁ、カイオさん、そんなドン引きしなくても。魔力吸収をご存知ないですか?」
「魔力吸収?」
「物に宿る魔力を自分の魔力に変換して取り入れる魔法ですよね。ソーマボトルが出来る前は魔力吸収で回復するのが一般的だったと聞いたことがあります」
「素材さえ手に入ればお金を掛けず魔力回復出来るので、有難い魔法ですよ。魔鉱石の個数制限がある場所でもその場で取り入れてしまえばバレませんし」
「意外と強かだな」
「そうでなくては旅はしていけませんので~」
「まぁ確かに」
「けど、魔鉱石もどこでも採れるものではないですし、持っておいたほうが良かったんじゃ・・・・ソーマボトルより回復量も少ないはずですし、お金に換えた方がお得だと思いますよ」
「それは・・・」
「それは?」
リーツは一瞬目を逸らした。
しかしすぐに笑顔になり
「実は、私の魔力内包限界値がとーーーーーっても低いんですよー」
「・・・え?」
「私は使う術のレベルや種類には自信があるんですが、魔力マックスの状態でも連発するとすぐに魔力切れになるという魔術師としては致命的でお恥ずかしい弱点があるんです。
回復しながら戦えるならそれに越したことはないですが、相手が強敵だとそんなことをしている暇はないですし、そもそも市販のソーマボトルは高くて戦闘の度に買って飲んでたら破産は避けられず、それはそれは宿にも泊まれない毎日非常食の貧困な旅を強いられることになってしまうんです。
安いソーマボトルもありますが、回復量がたかが知れているので結果は同じと。
しかしアレリランティ様にそんな苦労をさせるわけにはいきませんので、ソーマボトルをケチり魔鉱石を産地吸収もしくは買ってそれを吸収して回復してるんですよ。
いやー、お恥ずかしい限りなんですけど、アレリランティ様との楽しい旅の為にも回復は無計画に、魔法の使用は計画的にをモットーに頑張っているんですよ、うふふふふ」
「へ、へぇ・・・・大変ですね」
笑顔で早口に長々と自分の弱点を語るリーツに、引きつった笑みを返すアリウム。
「苦労してるんだな、リーツ。それなのに悪いな、魔力使わせて。確か報酬で貰ったソーマボトルが一つあるし、渡そうか?」
「お気遣いありがとうございます、カイオさん。しかしもう回復したので大丈夫ですよ」
「そうか。じゃあ、帰るか」
「うん」
四人は元来た道を戻り、洞窟を出る。
外は太陽が沈みかけ、夕焼けが赤く赤く輝いていた。
「私達はコモリの町に戻りますが、お二人はこれからどちらへ?」
「俺達も町に行きたいな。アリウムも疲れただろ?」
「それが・・・実は見つけたの。みんなの、痕跡」
「え!?」
「多分、あそこに隠れてたんだと思う。印もあったし、間違いないよ」
「それって最近か?」
「うん、新しそうだった。もしかしたら、まだこの近辺に・・・」
「そうか」
「カイオ。悪いけど・・・」
「もちろん。今すぐ次に行こう」
「ありがとう!」
「アレリランティ、リーツ。俺達このまま行くよ」
「大丈夫?」
「ああ!手伝ってくれてありがとな!」
「ありがとうございました!」
「そうですか。では、お元気で」
「さようなら」
「じゃあな!」
「お二人も気をつけて!」
カイオとアリウムは手を振り、駆け足で町とは逆方向に進み、去った。
リーツはしばらく二人を見ていたが、アレリランティに視線を戻し
「お疲れ様でした、アレリランティ様」
「お疲れ様、リーツ」
「今日は、町でゆっくり休みましょう」
「うん」
二人は顔を見合わせ、町へと戻った。
「お帰りなさいませ!」
「お勤めご苦労様です!」
「ご報告後のご予定はいかがなさいますか!」
「お食事になさいますか、お休みになさいますか!」
「「「「「なんなりとお申しつけ下さい!」」」」」
「・・・・誰?」
「ギルドの、レートスの方ですよね。その変わりようは・・・・」
「町の人がケガをしている皆さんを助けたんです。すると皆さん今までのことを深く反省したらしく、私達や町の人、一人一人に謝罪し、心を入れ替えたそうです!」
「これからはギルド・レートスは皆様の心に寄り添い、安心安全安寧を守るご奉仕ギルドに変更いたしました」
「魔物退治は迅速に」
「トラブルは穏便に」
「立つ鳥跡を濁さず解消いたします」
「新生ギルドをどうかよろしくお願いいたします!!」
「人は、変われるんですね・・・」
「凄く極端だけど」
「皆さんとってもカッコいいです~」
この物語はリーツとアレリランティ他に、六人のメインキャラがいます。
その内の一人目、カイオ。
赤い髪、オレンジ瞳の明るい子です。