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1話 コモリの町(カイオ編①)

その場所が「町」と呼ばれるには条件がある。



契約した国に属すること。


宿などの国指定の施設があること。


そしてユーザを設置すること。


「ギルド・ユーザ」は国に代わり町の管理報告人、国や町の住民からの依頼仲介人、冒険者や商人等の他所から来た者の為の案内人の三役を担う組織である。


国の為に町の現状を報告し、町の為に困る人々から依頼を受け、冒険者の為に仕事や宿、道具屋を紹介し、商人に売る場所を与える。


国にとっても、町にとっても、生活にも欠かせない存在ではあるが、膨大な仕事量と多種多様の種族と関わることになるギルド職員「ユーザメンバー」を長く勤められる人材はそういない。


ギルド加入試験のストレスチェックが一番重要と言われている程、ユーザメンバーは仕事に忙殺され、客を選べない上どんな相手にもしっかり接客し、クレームやただの鬱憤晴らしにも付き合い、そしてそれらに耐えることが出来なければ務まらない。


コモリの町のユーザメンバーの女性も例外ではなく日々疲れ果て、一体働くとは何ぞやと問い掛ける夜を過ごしていたが、ここ数日はとても機嫌が良かった。


それは


「依頼達成出来ました。確認お願いします」


「はい!いつもありがとうございます!」


三日前に町にやって来たリーツとアレリランティによるものだった。


綺麗な容姿に驕らず、常に優しく丁寧な物言い、穏やかな雰囲気を崩さず、どんな内容の仕事でも文句一つ言わず、素早く完璧にこなす。


彼女はとても満足そうな笑顔で二人を迎えた。


「周辺のウルフ討伐、証拠の素材を確かに確認しました。これが報酬です!」


「ありがとうございます」


「お金、貯まってきたね」


「ええ、旅の道具も揃えられましたし、これで安心して次に行けますね」


「良い仕事を紹介してくれてありがとう」


「お礼を言うのは私の方です!いつも割に合わないとか、そんな簡単な仕事寄越すなとか、皆様が引き受けたがらない仕事を積極的に取って頂き本当に感謝しております!もう、聖人の化身かなという思いです!」


「大袈裟じゃないかな」


「いえいえいいえ!いつもいつもナメられ、高圧的な態度をとられ!誰が仕事をあげてやってるんだと腸煮えくり返る思いをたくさんしておりましたが、お二人のような冒険者に出会え、感銘、感服、感に堪えないの三冠獲得です!感にちなんで!」


「大袈裟じゃないかな。でも喜んでもらえたなら良かった」


無表情で一つ頷くアレリランティ。


最初こそ人形のように動かない表情筋に不気味とさえ感じたが、毎日労をねぎらい、気遣いの優しい言葉、落ち着いた雰囲気に、彼の第一印象などすぐに反転した。


「お二人とも是非この町に住民権を移しませんか?ここは国からは遠いですが、商人、パーティー、ギルドの人達の出入りが多くて物資は豊富ですし、自然豊かで天候も良い日が多くて、住みやすい町なんですよ!」


「ありがとうございます。けどお断りさせて頂きます」


「えー・・・・」


「一つの場所に留まる気はないんです。旅は、楽しいですから」


「そうですか・・・・残念です」


「ふふ。私達はこの大陸に来たばかりで、マップも道具も資金もなく困っていたんですが、この町の治安は良く、人々は優しく、とても嬉しかったんですよ。だからあなたのように親身になって接してくれる人がいる限りこの町は豊かでしょう。これからも応援しています」


「あ、ありがとうございます・・・」


彼女は頬を赤らめ、明日からも仕事頑張ろうと決意した。


「そんなあなたにお願いがあるのですが」


「なんなりと!」


「実は魔鉱石が欲しくて。この町には魔鉱石が採れる場所があると聞いたのですが、住民じゃなくても採れますか?」


「はい、大丈夫です。東に道なりに進むと洞窟があります。鉱山ではないので鉱石は手に入りづらいですが、魔力スポットが地中深くにあり、魔鉱石は採れる可能性があります。実績はこの通りです」


「う~~ん・・・・40%くらいの確率ですか」


「国の地質調査パーティーが定期的に調べた結果です。

深部に行くほど魔鉱石がある確率は上がりますが、魔物もよく出ますので十分に注意してください。

それから採掘の為の道具やモンスターが出た際の対処などは自己責任、もしくは先に応援要請を依頼として出してください。

そして魔鉱石は貴重な鉱石の為、乱獲防止策として手数料の発生と採掘結果報告義務を課します。

手数料は先払いで、必ず今日中にユーザに採掘結果の報告をお願いします。

違反した場合は即ブラックリスト行きですので、旅がしにくくなると思いますよ。何かご質問、同意できない点はありますか?」


「ありません」


「なら許可書を発行いたしますのでこちらの書類にサインを・・・」


リーツがしようとした時、大きな音を立てて扉が開かれ、複数人の男が入ってくる。


中にいた町の人や、他の冒険者は苦い顔をして男達の通り道を開けるように壁際に寄る。


「お前らか?許可も取らず好き勝手やってんのは」


そう言うのは体格も態度も大きな男で、その後ろから更に四人の男達がユーザに入ってくる。


男は真っ直ぐリーツとアレリランティに近づき、上からギロリと睨む。


リーツは一歩前に出て


「私達のことでしょうか?」


にこにこと問う。


「そうだぜ。お前達はこの俺様に挨拶したか?」


「さぁ、記憶にないですね」


「この町ではな。俺達、ギルド・レートスの許可がねぇと仕事しちゃいけねぇの。宿も道具屋も食事処もぜーんぶ俺達の監視下の元、平和に、トラブルなく動いてる。あんたらはそれを乱したって訳よ」


「まぁ、ずいぶん働き者ですね。しかし仕事の請け合い、施設の管理はギルド・ユーザの仕事。わざわざあなた方がしなくても良いのでは?ねぇ?」


「えっと・・・・その・・・」


「あら?」


彼女はカウンターに身を隠すように小さくなる。


「はははは!所詮お国様の犬のユーザより、この町に尽くしてきた俺達の方がよっぽど有能で偉いってこと。住民もそう思ってるから、俺達に任せてんの。なぁ。おっさん?」


「え?あ、はい・・・・」


男に肩を組まれた中年男性も身を小さくする。


「つー訳で、違反金100万エナ。払ってもらおうか」


「いつもあんな感じ?」


「はい・・・。数ヵ月前に住民権を取得した元冒険者のギルドで、腕は確かに立つんですが、横柄な態度に加え強引な手で無理やり依頼を出させたと思ったら、その依頼料がとんでもなく高くて、払えなかったり反論したら暴力で納得させるような人達で困ってて・・・・」


「何で国に言わない?」


「さっきも言いましたけどここは国から遠く、優先順位的にはかなり低くてあまり取り合ってくれません。それにこういったトラブルはどこにでもありますし、怖いけど仕事はちゃんとしますし・・・今は逆らわない限りは町の人からお金を巻き上げることはしなくなったので町長が刺激するなと言って、放置ですよ。そしてこうして冒険者に詰め寄ってはあれこれ文句付けて・・・・ごめんなさい」


「謝ることはない」


「なるほどなるほど。まぁユーザと他ギルドが協同で町の管理を行うこともあるでしょうし、何であれ住民の方がそれでいいようなので特に何も言いませんけど、違反金のお支払いは断らせていただきます」


男が拳を握ると風属性の魔紋が浮き上がり、拳をリーツの横に突き出す。


魔紋から空を切る風が飛び出し、アレリランティとユーザメンバーの後ろの壁を切り裂いた。


「きゃああ!」


彼女は頭を抱えてしゃがみ込む。


男の仲間はニヤニヤと笑い、ユーザ内にいる人々は恐れながら距離を取る。


「次は、当てるぜ?」


余裕そうに笑う男にリーツは少し困った顔をする。


「と言われましても、100万エナなんて持ち合わせていませんし、ないものは出せませんし、そもそもそういうルールがあるのならユーザなり、あなた達自身が新参者に伝えるべきでは?後から言われても困りますね」


「開き直りやがって。だが俺達は優しく寛容でな。代わりの条件を出してやってもいいぜ」


「答えは決まってますが、一応聞きましょう。何ですか?」


「俺達のギルドで100万エナ分、働きな。ユーザの依頼をこなすのもいいが、俺達の元なら普通に稼ぐより早」


「お断りします」


「ああ!?」


再び魔紋の宿った拳がリーツに向かう。


リーツはその拳に人差し指を向けると


「いってぇ!」


バッっと音立てて電気が走った。


「てめぇ、何し」


「まぁ、落ち着いてください。私達は既にパーティーを組んでますし、一つの町に長居する気もありません。そして先程も申し上げましたが、知らされていないことを後から義務のように言われてもそれはそちら側の不備ですし、そこまでして働き手が欲しいなら雇えばいいじゃないですか。そう、100万エナで」


「女が偉そうに口答えなんぞナメてんのか!男に媚び売って守られるだけの弱者が!」


「近年は多様の仕事も役目もありますからその考えは古く無知なのでは?」


「ふざけ」


リーツはくるりと回って男に背を向けると、カウンターに隠れ震えているユーザの女性を見ているアレリランティの肩に手を置く。


「ユーザで誰も引き受けなかったというあーんな簡単な依頼も出来ないくせに、仕事を取られたからって怒らないで下さい。あなた方にも出来る仕事くらいありますよ。風属性の魔法が得意なようなので、草むしりから始めたらどうです?ね?」


リーツとアレリランティが同時に振り向く。


緑の目と青褐色の目が男を見据える。


その眼光に一瞬気圧された男だが、すぐに頭に血が上り鬼の形相で青筋を浮かべる。


再び拳を握ったその時


「なぁ」


若い男の声に全員が出入口の扉を見る。


「人を探してるだけど、アリウムって名前で、紫色の髪がふわふわしてて、ひらひらした可愛い服を着た背の低い女の子なんだけど、誰か思い当たる人いないか?」


男は鮮やかな赤い髪を揺らしながら身振り手振りで伝え、橙色の目を全員に向ける。


「知りません」


リーツが真っ先に答える。


それを皮切りに


「見たか?そんな子」


「知らないなぁ」


「特徴ある子のようだし、見たら覚えてると思うけどねぇ」


口々に言うが、見たという人はいない。


「誰も知らないか・・・・邪魔して悪かったな」


男は落胆した様子でユーザを出ていこうとする。そこに


「ああ、思い出した!」


男が大袈裟に声を張り上げる。


「そんな感じの女なら見たぜ」


「え!本当か!?どこで!?」


「迷子みたいでなぁ、俺達のギルドで保護してるんだった。なぁ?」


男が仲間に問えば


「そうだった、そうだった!」


「確かそんな感じの子だったよな!」


「可哀想で助けてあげたんだった」


「連れがいるって言ってたよなぁ」


と同意する。


「頼む!会わせてほしい!」


「いいぜ。今から帰るから、ついて来いよ」


男達はユーザを出ていき、赤髪の男も後に続こうとする。


「止めた方がいい」


それをアレリランティが止めた。


「多分、嘘かもしれないし、行かない方がいいと思う。すぐに答えなかったから別人の可能性もあるだろうし」


「でも手掛かりないんだ。嘘でも別人でも、今はとにかく情報が欲しい」


赤髪の男はそう言って駆け足で男達の後を追う。


ユーザ内は嵐が去ったと穏やかな雰囲気に戻る。


「はぁ・・・何とか助かりました・・・」


「大丈夫ですか?」


「はい。まぁ、いつものことですし・・・・それよりお強いんですね!あのギルドリーダーの方が押し負けてるの初めて見ましたよ!」


「あなたに怪我がなくて良かったです」


「でももったいないですよ、どのギルドにも入らないなんて。どんな有名なギルドにも入れそうなのに」


「私達は既にパーティーを組んでるのでこれでいいんですよ」


「え?でもパーティー申請は四人からで・・・」


「このパーティー、定員二名につき入れません」


「ええぇ、そんなのありー・・・?」


「それより、洞窟に向かいたいので許可書の発行をお願いします」


「あ、はい。ではこちらにサインをお願いします」







許可書を貰った二人は町を出て東に向かって歩いていた。


すぐ近くにあるから迷わないですよ、と彼女は言ったが、リーツは町で買ったマップを何度も見ながら歩く。


アレリランティはただ前を見て歩く。


会話もなく静かに靴音だけが鳴っていたが、突然轟音が響いた。



「何でしょう?」


「魔物?」


数度、どおんと音がして静かになる。


音はちょうど東から聞こえ、慎重に早足で進むと


「う・・・あぁ・・・・」


「う、うぅ・・・・」


先程ユーザで恐喝をした五人の男が地面に倒れていた。


辺りには武器が転がっている。


その状況を困ったように見下ろすのは赤髪の男だった。


二人が近づくと男は気づき、振り返った。


「あれ?さっきユーザにいた・・・」


「リーツです。こちらはアレリランティ様です」


「こんにちは」


「俺はカイオだ。さっきは騒ぎ立てて悪かったな」


カイオは申し訳なさそうな苦笑いで名乗った。


「この人達と何かあった?」


「あぁ・・・お前も言ってくれたけど、やっぱり嘘だったみたいで、なのに情報料渡せって襲い掛かってきたから返り討ちにしたんだけど・・・・冒険者が町の人に手を出すって結構問題になるよな?」


「まぁ、なることもありますけど、今回は大丈夫な気がしますね。彼らがそういうやり口なのは皆さん知ってるようですし」


「た、助けてくれ・・・・」


「町の人にお願いしたらどうです?」


「うぅ・・・」


「謝った方がいい。実力は認めていたから誠実に働けばみんな認めるはず」


「か・・金が欲しい・・・とにかく金が・・。いくら稼いでも不安になる・・・・もう貧乏な放浪者に戻りたくねぇ・・・・」


「それならなおのこと謝って、もうこんなことはしない方がいい。住む場所があって潤沢な仕事があれば大丈夫。いずれ不安も消える。それに今回はたまたま殺されなかっただけ。次襲う誰かはそうしないかもしれない」


「ぐ・・・う・・・」


「行きましょうか、アレリランティ様」


「うん」


「東に、真っ直ぐですね・・・・」


リーツは再びマップとにらめっこしながら背を向ける。


「なぁ、どこへ行くんだ?」


その背にカイオが問い掛ける。


「東の洞窟です」


「ここから近いのか?」


「近いらしい」


「なら俺もついて行っていいか?」


「え?でも人を探しているんでしょう?」


「俺達がはぐれたのはこの町に着く直前。町中探したし、聞き回ったが誰も知らなかった。だとしたら町には辿り着けずにこの辺で迷子になってると思うんだよ」


「なるほど。でも、町が目的なら洞窟には行かないんじゃ」


「きっと洞窟の奥に町がある!みたいな思考で行ったかもしれない」


「そんなバカな」


「行くんだよ。マジで。だからどこにでも行く可能性があるから、見つけるにはどこにでも行ってみないと分からない」


「ちょっとだけ分かりますね、その人の思考」


「え、嘘だろ、おい」


「そういうことならついてきても構いませんよ」


「本当か!サンキュー!あでも、こっちは気にせず、二人は二人のしたいことすればいいからな」


カイオはそう言って笑顔で二人の隣に並んだ。

この世界の通貨は「エナ」です。

通貨の名前は結構数を上げて検索し、被らないようにしましたが、被っていたらごめんなさい!

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